名古屋市内で行われた入行式が終わると、
その足で配属先の支店に向かった。
同期は私を含めて6人。
総合職の男子が4人と、
事務職の女子、Uさんと私の二人だ。
男子は支店の仕事を満遍なく学ぶために、
得意先→融資→普通預金→定期預金→為替→資金・・・と、
1ヶ月ずつ渡り歩くことになっていた。
事務職の女子は即戦力として使えるように
預金関連の部署に配属された。
Uさんは普通預金に、私は定期預金に決まった。
入行10年の先輩女子行員二人が、それぞれ、私たちのお世話係になった。
とりあえず席に着いたが、
まだ何も分からない状態だ。
周りは忙しそうに走り回っている。
最初に、一冊のノートが渡された。
「今日から学んだことをここに書き記すように。
毎日目を通して、添削します。」
どうやら、先輩と交換日記的なことをするらしい。
まずは「自分の通帳」を作ってみましょう、ということになった。
「総合口座開設」という赤い複写伝票を渡され、
記入漏れがないように正確に書く。
金額訂正は絶対に出来ないこと、
印鑑は印影がはっきり写るよう、朱肉をきちんとつけて強く押しつけること、
を学んだ。
それが済んだら端末で打ち込み・・・・
と、思いきや、
伝票を一枚ずつはがして、ノートに貼りなさい、と言われた。
なるほど、百聞は一見にしかず、
何でもビジュアル的に頭にたたき込めということか。
普通預金の入金、出金、
定期預金の開設、解約、
振込・・・・など、
伝票の種類ごとに「架空取引」を想定して起票し、
ノートにペタペタ貼り付けていった。
一週間くらいはそんな作業を続けていたが、
「そろそろ、電話も取ってね。」
と、先輩から申し渡された。
ええっ~!で、電話ですか。
「内容はまだ分からないと思うけど、取るだけ取って私に代わって。
基本的にワンコールで受話器取ってね。」
恐怖心が先に立つ。
でも、取らなきゃ。
ベルが鳴った。
向かいの机のUさんと目が合う。
・・・・(お願い、取って!)彼女の目が訴えている。
仕方がない、私が取るか。
「はい、○○銀行です。」
「あー、○○銀行さん、普通預金の残高知りたいんやけど。」
常連のお客様のようだった。
保留ボタンを押して先輩を呼ぶ。
「普通預金の残高を知りたいそうです。」
「どなたから電話?」
「・・・・・いえ、聞いてません。」
「お客様、お電話お待ちなのよ。今度から御名前をちゃんと聞いて。」
先輩は私の手から受話器を引ったくると、
「もしもし、お待たせしてすみません。
はい、はい、残高ですね。少々お待ち下さい。」
と、さっきまでの怖い声を瞬間的に変換させ、
営業的且つ模範的VOICEで応対したのだ。
新人の典型的な失敗だ。
電話を取るには取ったが、
早く楽になろうと、すぐに先輩に回したのがいけなかった。
お客様の用件を聞き逃さぬよう、
また足りない情報は聞き出すことが必要だと学んだ。
Uさんも私も、その後はお互いに電話を上手く取り次ぐようになったが、
トラブルメーカーだったのは同期の男子H君。
2浪の末、T大に入ったという彼、
成績優秀ではあるが、
仕事に対する姿勢が、私から見るといい加減で、鼻持ちならないヤツだった。
総合職の男子は、1年後に他の支店に飛ばされることが決まっていたので、
この店での仕事は、「とりあえず覚えるだけでいい。」という気持ちでいたのであろう、
真剣さが見受けられなかった。
また、自分の興味のある仕事だけに勢力を注ぎ込むのも理解できなかった。
将来を嘱望されているのかなんだか知らないが、
融資とか外為の方にばかり気がいっている。
得意先回りとか、預金とか、そういう仕事は仕事にあらず、という態度が見え隠れしていた。
そういう彼だから、電話番なんて「なんで俺が取らなきゃいけないの?」という感じだった。
たまに仕方なく取ることはあっても、
用件もろくに聞かず転送するものだから、
回された先が違って、再度他の部署に転送。
お客様がたらい回しになることもあった。
ある日、外線でかかってきた電話をH君が取った。
いつものようにいい加減に聞いて、為替に回した。
内部で電話を回すときにもルールがある。
まず、自分の所属部署と名前を言い、
お客様の名前、用件を手短に、
できれば連絡先なども伝えるのが普通だ。
だが、彼はそれを怠った。
取り次いだ行員に
「お客様が為替に、ということです。」
それだけ言って切ってしまったのだ。
実はこのお客様、為替は為替でも「外国為替」に用事があった。
なのに、国内為替に回されたものだから
受け取った側も話がちんぷんかんぷんで通じない。
申し訳ないことだが、もう一度外国為替にお繋ぎして
ようやく話が出来たというわけだ。
二度も電話を回されたお客様、憤慨して外為の営業員に噛みついた。
そしてこのことが支店長にまで知られ、大問題になった。
H君は、転送時に名前を名乗らなかったので
自分が最初に電話に出たことを隠し通せると思っていたらしい。
だが、その時間帯、支店にいた若い男子は彼一人。
年配の行員はそんな無礼なことはするはずがないということで
敢えなくご用となったというわけだ。
そんなH君だったが、
学歴に弱い銀行組織に助けられ、
その後、海外留学という華々しい任務が与えられた。
統合に次ぐ統合で、元の銀行が何だったか
サッパリ分からなくなってしまったが、
同期の男子はどうしているんだろう?
その足で配属先の支店に向かった。
同期は私を含めて6人。
総合職の男子が4人と、
事務職の女子、Uさんと私の二人だ。
男子は支店の仕事を満遍なく学ぶために、
得意先→融資→普通預金→定期預金→為替→資金・・・と、
1ヶ月ずつ渡り歩くことになっていた。
事務職の女子は即戦力として使えるように
預金関連の部署に配属された。
Uさんは普通預金に、私は定期預金に決まった。
入行10年の先輩女子行員二人が、それぞれ、私たちのお世話係になった。
とりあえず席に着いたが、
まだ何も分からない状態だ。
周りは忙しそうに走り回っている。
最初に、一冊のノートが渡された。
「今日から学んだことをここに書き記すように。
毎日目を通して、添削します。」
どうやら、先輩と交換日記的なことをするらしい。
まずは「自分の通帳」を作ってみましょう、ということになった。
「総合口座開設」という赤い複写伝票を渡され、
記入漏れがないように正確に書く。
金額訂正は絶対に出来ないこと、
印鑑は印影がはっきり写るよう、朱肉をきちんとつけて強く押しつけること、
を学んだ。
それが済んだら端末で打ち込み・・・・
と、思いきや、
伝票を一枚ずつはがして、ノートに貼りなさい、と言われた。
なるほど、百聞は一見にしかず、
何でもビジュアル的に頭にたたき込めということか。
普通預金の入金、出金、
定期預金の開設、解約、
振込・・・・など、
伝票の種類ごとに「架空取引」を想定して起票し、
ノートにペタペタ貼り付けていった。
一週間くらいはそんな作業を続けていたが、
「そろそろ、電話も取ってね。」
と、先輩から申し渡された。
ええっ~!で、電話ですか。
「内容はまだ分からないと思うけど、取るだけ取って私に代わって。
基本的にワンコールで受話器取ってね。」
恐怖心が先に立つ。
でも、取らなきゃ。
ベルが鳴った。
向かいの机のUさんと目が合う。
・・・・(お願い、取って!)彼女の目が訴えている。
仕方がない、私が取るか。
「はい、○○銀行です。」
「あー、○○銀行さん、普通預金の残高知りたいんやけど。」
常連のお客様のようだった。
保留ボタンを押して先輩を呼ぶ。
「普通預金の残高を知りたいそうです。」
「どなたから電話?」
「・・・・・いえ、聞いてません。」
「お客様、お電話お待ちなのよ。今度から御名前をちゃんと聞いて。」
先輩は私の手から受話器を引ったくると、
「もしもし、お待たせしてすみません。
はい、はい、残高ですね。少々お待ち下さい。」
と、さっきまでの怖い声を瞬間的に変換させ、
営業的且つ模範的VOICEで応対したのだ。
新人の典型的な失敗だ。
電話を取るには取ったが、
早く楽になろうと、すぐに先輩に回したのがいけなかった。
お客様の用件を聞き逃さぬよう、
また足りない情報は聞き出すことが必要だと学んだ。
Uさんも私も、その後はお互いに電話を上手く取り次ぐようになったが、
トラブルメーカーだったのは同期の男子H君。
2浪の末、T大に入ったという彼、
成績優秀ではあるが、
仕事に対する姿勢が、私から見るといい加減で、鼻持ちならないヤツだった。
総合職の男子は、1年後に他の支店に飛ばされることが決まっていたので、
この店での仕事は、「とりあえず覚えるだけでいい。」という気持ちでいたのであろう、
真剣さが見受けられなかった。
また、自分の興味のある仕事だけに勢力を注ぎ込むのも理解できなかった。
将来を嘱望されているのかなんだか知らないが、
融資とか外為の方にばかり気がいっている。
得意先回りとか、預金とか、そういう仕事は仕事にあらず、という態度が見え隠れしていた。
そういう彼だから、電話番なんて「なんで俺が取らなきゃいけないの?」という感じだった。
たまに仕方なく取ることはあっても、
用件もろくに聞かず転送するものだから、
回された先が違って、再度他の部署に転送。
お客様がたらい回しになることもあった。
ある日、外線でかかってきた電話をH君が取った。
いつものようにいい加減に聞いて、為替に回した。
内部で電話を回すときにもルールがある。
まず、自分の所属部署と名前を言い、
お客様の名前、用件を手短に、
できれば連絡先なども伝えるのが普通だ。
だが、彼はそれを怠った。
取り次いだ行員に
「お客様が為替に、ということです。」
それだけ言って切ってしまったのだ。
実はこのお客様、為替は為替でも「外国為替」に用事があった。
なのに、国内為替に回されたものだから
受け取った側も話がちんぷんかんぷんで通じない。
申し訳ないことだが、もう一度外国為替にお繋ぎして
ようやく話が出来たというわけだ。
二度も電話を回されたお客様、憤慨して外為の営業員に噛みついた。
そしてこのことが支店長にまで知られ、大問題になった。
H君は、転送時に名前を名乗らなかったので
自分が最初に電話に出たことを隠し通せると思っていたらしい。
だが、その時間帯、支店にいた若い男子は彼一人。
年配の行員はそんな無礼なことはするはずがないということで
敢えなくご用となったというわけだ。
そんなH君だったが、
学歴に弱い銀行組織に助けられ、
その後、海外留学という華々しい任務が与えられた。
統合に次ぐ統合で、元の銀行が何だったか
サッパリ分からなくなってしまったが、
同期の男子はどうしているんだろう?