先日、致知出版社から発売されている「心に響く小さな
5つの物語」という本を買い求めました。
この出版社の社長を務められている藤尾秀昭氏が文を書き
俳優の片岡鶴太郎氏が挿絵を書いています。
その中から特に感動した人生のテーマという一話を紹介します。
15歳の重度脳性マヒの少年が、その生涯の中でたった一編
命を絞るようにして書き残した詩である。
ごめんなさいね おかあさん
ごめんなさいね おかあさん
ぼくが生まれて ごめんなさい
ぼくを背負う かあさんの
細いうなじに ぼくはいう
ぼくさえ 生まれなかったら
かあさんの しらがもなかったろうね
大きくなった このぼくを
背負って歩く 悲しさも
「かたわな子だね」とふりかえる
つめたい視線に 泣くことも
ぼくさえ 生まれなかったら
ありがとう おかあさん
ありがとう おかあさん
おかあさんが いるかぎり
ぼくは生きていくのです
脳性マヒを 生きていく
やさしさこそが 大切で
悲しさこそが 美しい
そんな 人の生き方を
教えてくれた おかあさん
おかあさん
あなたがそこに いるかぎり
作者は山田康文くん。
生まれた時から全身が不自由、口も利けない。
そんな彼を、養護学校の先生だつた向野(こうの)幾世
さんが抱きしめ、彼の言葉を全身で聞く。
気の遠くなるような作業を経て、この詩は生まれた。
そしてその二か月後、少年は亡くなった。
自分を生み育ててくれた母親に報いたい。
その思いがこの少年の 人生のテーマだったといえる。
生前、ひと言の言葉も発し得なかった少年が、
生涯を懸けてうたいあげた命の絶唱。
この詩が私たちに突きつけてくるものは重い。
人は皆、
一個の天真を宿してこの世に生まれてくる、という。
その一個の天真を深く掘り下げ、高め、
仕上げていくことこそ、
各人が果たすべき 人生のテーマといえるのではないか。