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「南総里見八犬伝」 第一巻  あとがき その2

2018年03月05日 00時13分33秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「南総里見八犬伝」 第一巻 運命の仲間 原作 曲亭 馬琴 文 時海 結以 講談社 青い鳥文庫 2016年

 あとがき その2

 馬琴は仕事のしすぎなのか、目を悪くして、40歳を何年か過ぎるころから、メガネをかけていました。それでもよく見えなかったようです。
 ですので、書いた原稿は、息子がチェックしてまちがった文字をなおしてから、印刷・出版する店にわたしていました。

 しかし、息子は病気になり、「八犬伝」が出版されだしてから21年目に、亡くなってしまいました。このころにはもう、馬琴の右目は何も見えなくなっていたのです。
 しかし、八犬伝は芝居になって上演されるほどの人気です。いまならドラマや映画になるようなものです。
 とちゅうで物語をやめることは、ファンをがっかりさせてしまいます。
 それに、自分と妻の生活だけでなく、残された息子の家族の生活を支えないとなりませんし、なにより、馬琴自身が、最後まで書き上げたかったのだろうと思います。

 馬琴は左目だけをたよりに、ひとりで書きつづけます。
 ですが、左目もどんどん見えなくなり、原稿用紙に印刷された行の中に、きっちりと書くこともできず、一枚に11行書かなくてはならない紙に、4行だけ、大きな字で書く、ということになっていきます。
 それでも、あと一巻だけでも、もうすこしだけ、もうすこしだけ、と書くのです。
 74歳でとうとう、わずかに昼と夜の区別ができるていどにしか見えなくなってしまい、馬琴はとても落ち込みました。あとすこしで、完結だというのに。