民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「飛脚とうわばみ」 藤田 浩子

2013年09月07日 00時45分27秒 | 民話(昔話)
 「飛脚とうわばみ」 かたれ やまんば  藤田 浩子(1937年生) 1996年発行

 むがぁし まずあったと。
昔はなぁ 今みたいに 郵便局なんつうのが無(ね)かったからなぁ 手紙を出したいと思うと
飛脚っていう人に 頼まねっか なんねかったんだと。

 ある時 東の国の殿さまが 西の国の殿さまに 手紙届けたくなったんだと。
ほぉで 飛脚を呼ばってなぁ、
「これ この手紙を急いで 西の国の殿さまんとこさ 届けてまいれ」
と こうゆったっけが まぁ その飛脚はたいそう真面目な飛脚でなぁ 手紙を箱に入れると
それを背中に担いで ほぉで まぁ、
 すたこらさっさ すたこらさっさ
走っていったんだと。

 右も見ねぇ 左も見ねぇ 上も見ねぇ ひたすら わが走る道だぁけ見ながら、
 すたこらさっさ すたこらさっさ
 すたこらさっさ すたこらさっさ
と 走っていった。

 さて その途中の山に ずねぇー蛇 いたんだと。
ずねぇ蛇のこと うわばみってゆってな。
そのうわばみが 何か餌はねぇかなぁ と こう鎌首持ち上げて あっちゃこっちゃ眺めていたっけが
向こうの方から飛脚 走ってくるのが見えた。

 あぁしめしめ 俺の方から行かなくても 餌が向こうから走ってくるわ ほんじは ここで 
ずねぇー口開けて待ってれば 餌が入(へぇ)って来るはずだから
と なって そのうわばみ ずねぇー口開けて 待っていたんだと。
飛脚はほれ 右も見ねぇ 左も見ねぇ 上も見ねぇ ひたすら わが走る道だぁけ見ながら、
 すたこらさっさ すたこらさっさ
 すたこらさっさ すたこらさっさ
と うわばみの口の中とも知らねぇで、 
 すたこらさっさ すたこらさっさ
と 入ってきた。

 そこで うわばみは パクッ。
したれば その飛脚、
 あぁ なんだべ 急にまぁ暗くなってきて 道もまずは走りにくい道だこと 
これぁ 雨でも降ってきたではなんねぇから まぁ急いで行くべ と、
 すたこらさっさ すたこらさっさ
と 長(なげ)ぇーそのうわばみの 腹ん中なぁ、
と 走って走って走って走って うわばみのけつの穴から、
 すたこらさっさ すたこらさっさ
と 出ていってしまったんだと。

 たまげたのは ほれ うわばみだわ せっかく 食ったのが また出ていっちまったもんだから
ほんじは となって 先回りして また 道の真ん中で こう ずねぇー口開けて待っていた。
 すたこらさっさ すたこらさっさ
と また 飛脚は走ってきて うわばみの口の中とも知らねぇで、 
 すたこらさっさ すたこらさっさ
で また パクリ。

 あららら また 急に暗くなってきた これぁ 雨でも 降ってきてはなんねぇから 
ほら 急いで行くべぇ。
 すたこらさっさ すたこらさっさ
それにしても まず 歩きにくい道だなぁ。
 すたこらさっさ すたこらさっさ
と 走りに走って 走って走って走って そのうわばみの腹ん中 駆け抜けてなぁ 
けつの穴から また出ていってしまったと。

 ほぉで 慌てたうわばみは また先回りして ずねぇー口開けて待っていた。
 すたこらさっさ すたこらさっさ
 すたこらさっさ すたこらさっさ
と また うわばみの口の中とも知らねぇで
 すたこらさっさ の パクリ。
また、 
 すたこらさっさ すたこらさっさ
と けつの穴から出て行った。

 ほぉで うわばみが ゆったそうな、
こいつは まず 褌(ふんどし)を締めてかからねばなんねぇわい。

 おしまい