民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「港をひらく」 宮本 常一

2012年09月09日 22時59分14秒 | 民話の背景(民俗)
 梶田富五郎翁 「忘れられた日本人」 宮本 常一 1960年

 港をひらくちうのは、港の中にごろごろしちょる石をのけることでごいす。
人間ちうものは知恵のあるもんで、思案の末に大けえ石をのけることを考えついたわいの。
潮がひいて海の浅うなったとき、石のそばへ船を二さいつける。
船と船の間へ丸太をわたして元気のええものが、藤蔓(ふじづる)でつくった大けな縄を持ってもぐって石へかける。
そしてその縄を船にわたした丸太にくくる。
潮が満ちてくると船が浮いてくるから、石もひとりでに海の中へ浮きやしょう。
そうすると船を沖へ漕ぎ出して石を深いところへおとす。
船が二はいで一潮に石が一つしか運べん。
しかし根気ようやってると、どうやら船のつくところくらいはできあがりやしてのう。
みんなで喜んでおったら大時化(おおしけ)があって、また石があがって来て港はめちゃめちゃになった。

 こりゃ石の捨て場がわるかったのじゃ、もっと沖の方へ捨てにゃァいかんということになって、今度はずーっと深いところまで持っていって捨てやした。