今日は「権現さま」やっかんな。
オレがちっちゃい頃、ばあちゃんから聞いたハナシだ。
ほんとかうそかわかんねぇけど、ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。
むかしのことだそうだ。
ある山のふもとに、病気で寝たっきりのおとうと せがれの孝太が 二人っきりで 暮らしていたと。
孝太は まだ 年端もゆかないのに、病気のおとうを助けて 一生懸命 働いていたと。
孝太の 庭には、大きなしだれ桜の木があったと。
おとうが病気になる前は、春になると、満開の花を 咲かせていたが、
おとうが病気になってからは、だんだんと 枯れていって、今では 花も咲かぬようになっていたと。
おとうは いっつも 孝太に 言っていたと。
「もう一度 桜の花が咲くとこ 見てぇなぁ。」
孝太は そんなおとうの願いを かなえてあげたくて、一生懸命 桜の木の世話をしていたと。
水をあげたり、肥やしをあげたり、雑草を取ってあげたり・・・。
(桜の花が咲けば きっと おとうの病気もよくなる。・・・桜の花を咲かせておくれ。)
それを見ていた 近所の子供らが、孝太をバカにするように 言ったと。
「もう 雪が降ってくる季節だっていうのに、桜の花が咲いたり するもんか。」
それだけじゃねぇ、木に登って 枯れた枝を折っては、孝太にぶつけたりもしたと。
(子供ってのは 残酷なもんだ。・・・おめーらは そんなこと すんじゃねぇぞ!)
そんな嫌がらせにも負けず、孝太は 桜の木の 世話を続けたと。
そんな ある日の夜、おとうが 孝太を枕元に呼んで 言ったと。
「孝太、オレも いよいよ ダメかもしんねぇ。
死ぬ前に、もう一度、桜の花が咲くとこ 見たかったなぁ。」
「おとう、桜の花はきっと咲く。それまでは 頑張っておくれ。」
孝太は いたたまれなくなって、真っ暗な外へ出て、桜の木にお願いしたと。
「桜の花を 咲かせておくれ。」
すると、山の方から かすかに 声が聞こえてきたと。
「権現さまに お願いしておいで。」
(滝のところにある 権現さまだ!)
孝太は すぐわかったと。
ちぃちゃい頃 おっかさんが よく連れていってくれたとこだ。
孝太は 真っ暗な山ん中を 滝の音をたよりに 登っていったと。
夜の山は こわいぞ。
無気味な 鳥や けものの鳴き声が 聞こえてくる。
「キィー」(鳥の鳴き声)「ウゥー」(けものの鳴き声)
孝太は 帰りたい気持ちを 必死でふりきって、
ようやく、権現さまが祀(まつ)られている お社(やしろ)に たどり着いたと。
「権現さま、お願いです。・・・桜の花を 咲かせてください。」
孝太は 地べたに 頭をこすりつけて お願いしたと。
その帰り道、
ボロボロになったわらじで 血だら真っ赤になった足を 引きずるように、やっとこ 家に着いたと。
おとうの枕元に行って 寝息を聞くと ほっとして、
(桜の花は きっと 咲くからな。それまでは 頑張っておくれ)
孝太は 這うように ふとんに入ったと。
次の日の朝、雨戸の節穴から もれてくる光で、孝太は目を覚ましたと。
(権現さま、お願いです。・・・)
孝太は 祈るような気持ちで 雨戸をあけたと。
すると、満開の桜が 目に 飛び込んできたと。
「おとう!」
孝太は おとうを抱きかかえると、縁側まで連れて行って、桜の花を見せてあげたと。
「桜の花が・・・桜の花が・・・。きれいだなぁ・・・。」
孝太に支えられて やっと立っていた おとうの身体に、だんだん 力がみなぎってきたと。
そして、元気だった頃のおとうに 戻っていったと。
「孝太!・・・苦労をかけたなぁ。」
それから、二人は しあわせに 暮らしたとさ。
おしまい。
オレがちっちゃい頃、ばあちゃんから聞いたハナシだ。
ほんとかうそかわかんねぇけど、ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。
むかしのことだそうだ。
ある山のふもとに、病気で寝たっきりのおとうと せがれの孝太が 二人っきりで 暮らしていたと。
孝太は まだ 年端もゆかないのに、病気のおとうを助けて 一生懸命 働いていたと。
孝太の 庭には、大きなしだれ桜の木があったと。
おとうが病気になる前は、春になると、満開の花を 咲かせていたが、
おとうが病気になってからは、だんだんと 枯れていって、今では 花も咲かぬようになっていたと。
おとうは いっつも 孝太に 言っていたと。
「もう一度 桜の花が咲くとこ 見てぇなぁ。」
孝太は そんなおとうの願いを かなえてあげたくて、一生懸命 桜の木の世話をしていたと。
水をあげたり、肥やしをあげたり、雑草を取ってあげたり・・・。
(桜の花が咲けば きっと おとうの病気もよくなる。・・・桜の花を咲かせておくれ。)
それを見ていた 近所の子供らが、孝太をバカにするように 言ったと。
「もう 雪が降ってくる季節だっていうのに、桜の花が咲いたり するもんか。」
それだけじゃねぇ、木に登って 枯れた枝を折っては、孝太にぶつけたりもしたと。
(子供ってのは 残酷なもんだ。・・・おめーらは そんなこと すんじゃねぇぞ!)
そんな嫌がらせにも負けず、孝太は 桜の木の 世話を続けたと。
そんな ある日の夜、おとうが 孝太を枕元に呼んで 言ったと。
「孝太、オレも いよいよ ダメかもしんねぇ。
死ぬ前に、もう一度、桜の花が咲くとこ 見たかったなぁ。」
「おとう、桜の花はきっと咲く。それまでは 頑張っておくれ。」
孝太は いたたまれなくなって、真っ暗な外へ出て、桜の木にお願いしたと。
「桜の花を 咲かせておくれ。」
すると、山の方から かすかに 声が聞こえてきたと。
「権現さまに お願いしておいで。」
(滝のところにある 権現さまだ!)
孝太は すぐわかったと。
ちぃちゃい頃 おっかさんが よく連れていってくれたとこだ。
孝太は 真っ暗な山ん中を 滝の音をたよりに 登っていったと。
夜の山は こわいぞ。
無気味な 鳥や けものの鳴き声が 聞こえてくる。
「キィー」(鳥の鳴き声)「ウゥー」(けものの鳴き声)
孝太は 帰りたい気持ちを 必死でふりきって、
ようやく、権現さまが祀(まつ)られている お社(やしろ)に たどり着いたと。
「権現さま、お願いです。・・・桜の花を 咲かせてください。」
孝太は 地べたに 頭をこすりつけて お願いしたと。
その帰り道、
ボロボロになったわらじで 血だら真っ赤になった足を 引きずるように、やっとこ 家に着いたと。
おとうの枕元に行って 寝息を聞くと ほっとして、
(桜の花は きっと 咲くからな。それまでは 頑張っておくれ)
孝太は 這うように ふとんに入ったと。
次の日の朝、雨戸の節穴から もれてくる光で、孝太は目を覚ましたと。
(権現さま、お願いです。・・・)
孝太は 祈るような気持ちで 雨戸をあけたと。
すると、満開の桜が 目に 飛び込んできたと。
「おとう!」
孝太は おとうを抱きかかえると、縁側まで連れて行って、桜の花を見せてあげたと。
「桜の花が・・・桜の花が・・・。きれいだなぁ・・・。」
孝太に支えられて やっと立っていた おとうの身体に、だんだん 力がみなぎってきたと。
そして、元気だった頃のおとうに 戻っていったと。
「孝太!・・・苦労をかけたなぁ。」
それから、二人は しあわせに 暮らしたとさ。
おしまい。