民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「恵比寿さま」 リメイク by akira

2012年05月17日 00時50分39秒 | 民話(リメイク by akira)
 恵比寿さま

 じゃ、今日は 「恵比寿さま」やっかんな。

 おれが ちっちゃい頃、ばあちゃんから聞いたハナシだ。
ほんとかうそか わかんねぇハナシだけど、ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。

 むかーしの ことだそうだ。
 

 ある村のはずれに ばさまと 孫の優太が 二人っきりで 暮らしていたと。
優太は 不幸にも おとぅとおかぁに 先立たれて ひとりぼっちに なっちまってな、
たったひとりの身内の ばさまが 引き取って 育てていたと。
 わずかばかりの 畑をたがやして、その日食うのが やっとの 貧しい暮らしだったと。

 年を取ってから 子供を育てるってことは 大変なことだ。
「年寄りっ子は 三文安い。」なんて 言われねぇように、
「やーい、あまえっこ。」なんて バカにされないように、
ばさまは 心を鬼にして きびしく 育てていたと。
 それに「暮らしは 貧しくても、心まで 貧しくあっては なんねぇ。」と、
「いいか、優太。・・・心の貧しい人間ってのは 人を見かけで判断する人間のことを 言うんだぞ。
おめぇは 人を見かけで 判断しちゃいけねぇ。
誰にでも どんな人にでも 優しく してあげるんだぞ。」
「困った時は 相見互い。」
 ばさまは くり返し くり返し 言って聞かせたと。

 ばさまは 小さい時から 恵比寿さまを 大事にしていてな、
朝に夕に 恵比寿さまに 手を合わせて 拝んでいたと。
それに、なんかちょっとでも いいことがあると、恵比寿さまに感謝して 手を合わせて 拝んでいたと。
 優太は そんな ばさまの後姿を見て、感謝の心を 学んでいったと。

 ある日のことだ、ばさまが 優太に なにか食べさせようと、畑に行く途中、
道に迷ってる様子の お坊さんに 行き会ったと。
「ごくろーさんで・・・なにか お困りですか?」ばさまが 声をかけると、
「この お寺に行こうと してるんだが、・・・どうも 道をまちがえたようじゃ。」
「どれ どれ。・・・あっ、ここは やっかいなとこじゃ。どれ、おらが一緒に 行ってあげんべ。」
ばさまは 家で 腹をすかして待っている 優太のことも忘れて、
お坊さんを お寺まで 連れていって あげたと。

 お寺に 着くと、
「おおー、ここじゃ、ここじゃ。・・・ばあさんや、世話になったの。・・・これは お礼じゃ。」
そう言って、紙に包んだものを 差し出したと。
「と、とんでもねぇー、おら、そんなつもりじゃ・・・」
「それは わかる。・・・ほんの気持ちじゃ。」
そんなやりとりが 何度かあって、
「ほんじゃ、ありがたく いただきますだ。」
ばさまは 申し訳なさそうに 受け取ったど。

 うちへ帰って あけてみっと、銭っこが 入っていたと。
さっそく 優太を呼んで、
「これで なんかうまいもの 買ってきて 食うか。・・・おめぇー、なにか 食いてぇものあっか?」
「おいら、・・・ぼたもちが食いてぇな。」
「ほうか、ほうか、じゃ、これで 買っておいで。」

 銭っこを あとがつくほど しっかと 握って、お店に行くと、ぼたもちが 二つ 買えたと。
「こっちは ばあの分、こっちは おいらの分。」
嬉しそうに ぼたもちを ながめながら 帰る途中、
ぼろぼろの服を着た じいさんが 道っぱたに 倒れていたと。
「おじさん、どうしたの?」優太が 声をかけると、
「腹がへって 動けねえだ。・・・おら、もう 三日も なんにも 食ってねえだ。」
優太は じいさんの顔と ぼたもちを かわりばんこに 見て、
「どうしようかな?」って、迷っていると、
ばさまの 顔が 浮んできて、・・・ばさまの 声が 聞こえてきたと。
「困った時は 相見互い」・・・だぞ。
「おじさん、・・・これ、食ってくんろ。」
優太は ぼたもちをひとつ つかむと そのじいさんに あげたと。

「ただいま。」
優太が 差し出した ひとつしか入ってねぇ ぼたもちを見て、ばさまは、
「なんだ、一つっきり 買えなかったんか?」
「ううん、ふたっつ 買えたんだけど、おいら 途中で 我慢できなくなって 食っちまったんだ。」
ばさまは それを聞いて「あっ、優太に なんかあったんだな。」って、すぐに 気がついたと。
「おらは 年だから ひとつも食えねぇ。・・・二人で 半分こして 食うべな。」
 ばさまと優太は ひとつのぼたもちを わけあって 食べたと。
「ぼたもちは うんめぇな。」
「うんめぇな。」
二人は 顔を見合わせて にっこ にっこ 笑ったと。

 その夜は しんしんと 冷え込む 寒の戻りがあってな、
わずかに残った マキをくべて、二人は いろりのそばで 身を寄せ合って 寝たと。
「ぶるっ、ぶるっ」
ばさまが 寒さで 目を覚まして、マキをくべようとした時だったと。

「チンチンカラリン チンカラリン。・・・チンチンカラリン チンカラリン。」

 大勢の にぎやかな声が 近づいてきたかと思うと、
家の前で 止まって、・・・軒の下で「どっさ」と、ものをおく 音が 聞こえたと。
「あれー、なんだんべ?」ばさまが 起き上がって 戸をあけてみっと、
なんと、恵比寿さまを 真ん中に 七福神の みんなが 勢ぞろいして 立っていたと。
その前には 米やら、味噌やら、着物やら、いろんなものが どっさと 山のように 積んであったと。
その山の てっぺんには 二人じゃ 食いきんねぇほどの ぼたもちも のっかって いたと。

 ばさまが 優太を起こして、二人で 手を合わせて 拝んでいると、
「ばさまや、・・・お寺までの道案内 ありがたかったぞ。
優太や、・・・ぼたもちは うんまかったぞ。
これは お礼じゃ。」
 そう言うと、すーっと、消えていったと。

「情けは 人のためならず」

 それから、ばさまと優太は 幸せに 暮らしたとさ。

 おしまい