NHK 新版――危機に立つ公共放送 (岩波新書) | |
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●原油価格暴落と資源国の通過危機 経済戦争と核戦争
原油価格の暴落に伴い、ロシアのルーブルは惨憺たる状況になってきているようだ。このような方向性は、ある程度の道筋を拓いたのが、アメリカ・ネオコンである事は事実だ。オバマのプーチンへの嫉妬が、そこに加味されているのかもしれない。米国の対中封じ込め政策の副産物のように、ロシアの孤立戦略が実行されている。BRICsの抬頭を抑え込んでおきたい欧米先進諸国にとって、飛びつくようなアイディアだと思われたのだろう。
ウクライナ内乱を起こすことで、ロシアの牙を、世界のノホホン人達に見せつけた点では、この戦略は成功したかのように写っている。たしかに、ロシアはクリミアを、クリミアの住民が、ロシア帰属を決定したことを受け、速やかにロシアとして編入した事実は、日欧米メディアの報道に接するのみの人々から見れば、ロシアの牙に見えるのだろう。ここまで、ロシア・プーチン大統領を痛めつければ、そろそろ音を上げて白旗を上げるだろうと思われたが、まったく哲人のような発言に終始して、プーチンはカエルの面に小便状態なのだ。
なぜロシア人が、これ程までの経済危機に鈍感なのかと云うと、ロシアは歴史的に、常に経済的に困窮していたわけで、ほんのここ20年くらい上向きだっただけで、常に困窮の歴史を有している。そういう国は、困窮に強いもので、チョッとやそっとのことで、国民が騒ぎ出すことは少ないのである。サウジを説き伏せ、原油価格暴落シナリオを作ったのは米国務省、CIA、ゴールドマンなどの金融勢力だろうが、道筋さえ示せば、後は投機資金が流入するのを眺めていればいい、と云うシナリオなのだろう。
ところが、ロシアやベネズエラだけが痛みを感じる経済制裁戦略なんてものは、この世にないわけで、グローバル経済を生みだした米国自体が、本来知っておくべきだが、どうもアメリカ人は外交軍事と経済を複合的に見定める器量に欠けている点がある。おそらく、グローバル資本に傅く米国政府と云う観念が確立してしまったらしく、グローバル経済下の外交防衛コントロールをホワイトハウスが見失っているように見えてくる。
資源国にダメージを与えて、音を上げさせる戦略だったのだが、資源国全体に通貨安は蔓延し、ドル不足を来している。ところがFRBは金融緩和政策を絞り込み、何時引き締めの大号令を発しようかどうかと云う瀬戸際に立っている。つまり、最大の貿易決済通貨が、限りなく不足する。メキシコや豪州通貨も煽りを食っているし、今後も鉱物資源国にも波及することになるだろう。中東のサウジを除く小国はもろに経済的打撃を受けることになり、治安の不安定化を惹起する様相をみせ始めている。
この辺で、やめておかないとサブプライムローンと同じような経済危機をもたらす可能性があるのだが、どうもあの時同様、走り出したら止められない状況になっているようだ。日本軍と同じようなメカニズムが米国にもあるのかもしれない。火をつけて、消しに回るのがマッチポンプだが、アメリカは火をつけるだけの政府の機能しか持たなくなったようだ。消すのは、市場原理次第と云うことのようだ。そこで、今度は中国ロシアの朋友キューバの引きはがしに躍起となり出したのが、現在のオバマのヤケクソ作戦である。どこまで、この世界の火付け役は、世界中の人々を戦渦に導くのが好きなのだろう。キューバと友好なんて言葉が、現時点で世界の友好に結びつくどころか、一層の火種にさえなりかねないのだ。
しかし、表向きはNY市場が大幅な値上がりに転じ、東京市場も狂騒的に450円近く(11時20分現在)上げている。円安とキューバ市場の米国開放で、米国経済の先行きに安心感が出たためのようだが、中国とロシアからキューバを引きはがした戦勝意識を高揚させた部分があるのだろう。特にキューバとロシアの軍事的関係から、ロシアの核戦略上、重要な位置を占めるキューバが、米国との友好に動き出した安心感は、ロシアの核の脅威を幾分和らげた。ただ、資源国に与えた経済的ダメージが、このまま収まることはなく、EU各国と結びつきが強い、中小のあらゆる生産業者や金融関係企業にとってロシア経済の疲弊は、彼をも巻き込み、EUの商圏に大きなダメージを与えることになる。この静かな冷戦構造が長期化することは、世界経済の鈍化を決定づけるだろうし、延いては、日本経済への影響も小さいものとは言えないだろう。日本にとっても、資源国の通貨下落と米国の、対中、対ロ包囲網はグローバル経済に、想定外の傷を負わせるのではないかと、少々心配している。
プーチンはアジアをめざす―激変する国際政治 (NHK出版新書 448) | |
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