世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

米国の焦りがTPP推進 ドル基軸圏の死守と覇権国家維持は同義だ

2011年10月04日 | 日記
「アメリカ覇権」という信仰 ドル暴落と日本の選択
エマニュエル トッド,加藤 出,須藤 功,倉都 康行,榊原 英資,ロベール ボワイエ,浜 矩子,井上 泰夫,松原 隆一郎,アラン バディウ,的場 昭弘,辻井 喬,水野 和夫,佐伯 啓思
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米国の焦りがTPP推進 ドル基軸圏の死守と覇権国家維持は同義だ


 米国オバマ大統領が横車を押し、割り込むように前のめりになっているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への交渉参加を経団連の米倉爺が「TPPに参加しないと日本は世界の孤児になる」と無暗にあちこちで吹聴している。日経、読売も熱心だ。内閣府、外務省、経産省は賛成で、農水省は反対と云う状況だ。

 実際問題、その中身を吟味するにも内容が今ひとつどころか、殆どがブラックボックス化されている。基本的にはFTAとEPTの多国籍バージョンと云う事だろうが、個別の例外事項は米国には認めるが、他国には認めないと云う噂もあるので、迂闊に交渉参加を表明することは、相当危険だ。菅直人は内容も把握せず、米国のご機嫌取りを狙って「平成の開国」等とほざいていたが、311以降、記憶から飛んでしまったようだ。

  今回、野田首相とオバマ大統領の35分会談において、どれ程の早口で二人が話したか知らないが、キャンベル国務次官補の創作も入っているようだが、無茶苦茶沢山の要求を突きつけられたと、マスメディアは嬉しそうに伝えている。日本のマスメディアは何処の国家の報道機関なのか混乱を起こすくらいだ。まぁ、オバマの希望としては「普天間移設」、「TPPへの交渉参加」、「北朝鮮核・拉致問題」、「牛肉輸入問題」、「ハーグ条約」が羅列されたようである。日本からは「トモダチ作戦」へのお礼のみで、米国への希望は皆無と云う報道だ。

  子供時代の記憶だが、アメリカ通商代表部が日本に乗り込み、GATT違反だと言って、農産物の市場開放を要求する映像を何度も見た。そうして、落花生、デンプン、オレンジ、牛肉、コメと次々市場を解放させられた。子供心にもアメリカが意地悪しに来た、と思ったものだ。しかし、当時はまだ米国に余裕があり、駄目な子供を戒める寛容さがあったのだ、と最近は思うのである。最終的には301条で制裁を科すと言い出した辺りから、米国の経済は怪しくなっていたのかな?とも思う。(*301条は当時のGATT(現在はWTO世界貿易機関)の精神に反していると不評で、現実に行使される事はなかったと記憶している。)

  まぁオバマ大統領も来年の選挙を控え、11月のハワイAPECではイイところを見せたいわけだが、オバマの為に、普天間移設で沖縄県民の意志を完全無視は不可能だし、TPPの交渉参加を表明するにも、党内議論も国会での議論もない状況で、エイヤッ!で意志表示する蛮勇は野田首相にはないだろう。精々、「牛肉輸入問題」「ハーグ条約」の解決が関の山と思われる。実際それが正しい選択だとも言える。

  民主党の輿石幹事長は3日の記者会見で、「11月のアジア太平洋経済協力会議首脳会議までに真剣に議論し、それを受けて野田佳彦首相が国際舞台で発信してくれるだろう」と一見前向きな発言をしたようだが、震災復興増税法案で汲々としている政権が、一国の方向性を見誤るTPPに、充分な議論なく意志表示することは、重大な選択ミスに繋がるだろう。

  TPPが環太平洋戦略的経済連携協定等と邦訳がつくから、妙な幻想を抱くわけで、実体は「包括ドル基軸連邦協定」のようなものである。関税の撤廃だけならFTAやEPTで個別に充分外交が可能なのに、何故TPP(包括ドル基軸連邦協定)なのかである。工業製品や農産物の自由化なんてのは“とば口”であり、金融、電気通信等サービスの自由化であり、公共事業等政府調達の自由化であり、知的財産の自由化である。その上、投資や検疫、労働力等の自由化まで網羅されているのだ。つまり、国家の存立の根っ子を米国化したいと言っている。

 おそらく、米国の最大の狙いは保険金融がメインなのだろう。米国の工業製品や農産物が自由化され、それらのもが廉価になったから、日本の市場が大きく揺らぐ可能性は少ない。逆に保護政策を国内的に行う結果を招き、国内の生産者が大きく傷つくリスクは少ない。米国の製造業から日本市場への輸出が増えるなんて、本気で考えている筈がない。米国の遺伝子組み換え食品をこぞって購入する消費者も少ない。被害は軽微なもの、つまりTPPはそんなものが狙いではないと云う事だ。

  狙いは、保険金融の参入障壁の撤廃が大きな狙いだろう。彼等は特に公的資金を投入し、その回収をしなければならないAIGの事業拡大が必要不可欠になっている。簡保の市場は彼らの垂涎の的である。また、大震災で大きな打撃を受けた国内損保の市場も狙いに含まれる。なにせ、米国内では、その日暮らしの中間層が増加の一途、貯蓄もゼロ状態で保険加入など、絵に描いた餅状態なのである。

 さらに大きな狙いが米国オバマ大統領にはある。それが米国の覇権の死守だ。EUのユーロ危機が一番心配なように言われているが、米国の経済危機の方が遥かの危機的だ。米国は「ドル基軸通貨」と「安保理常任理事国、戦術核、最大の軍事力」で世界の覇権国家を標榜してきた。しかし、ここでスッポリと抜け落ちているのが、資本主義で最も重要な製造業の実体が失せてしまったことである。

 この実体経済を穴埋めする為に、経済合理性の究極の姿、金融経済をドル基軸の動力源にしようとしたことである。つまり、実体なき金融が米国と云う覇国家の屋台骨を支えたわけだ。「覇権」と「基軸通貨」は極めて同義的であり、ドルの信認が危うくなった覇権国米国にとって、基軸通貨の維持はイコール覇権国の維持である。つまり、ドル基軸圏の囲い込みと同じ効果を持つ、TPPを強力に推進しようと云う事だろう。

 APECで野田首相が「交渉参加」を表明するとは思えないが、仮に表明してしまった場合、そこから離脱することは極めて困難だと云うのが専らの話だ。つまり、米国の恫喝が怖くて、とても抜けられそうもない、と云う事のようだ。まぁ「何も決められない日本」だから、最終的合意をグズグズとしないでおく、と云う方法もないではないが、論議が生煮えのまま交渉参加は政局問題にまで発展する要因になるだろう。筆者としては好ましいことだが、今与党民主党がするべき政治課題は多義に亘るだけに、オーバーフローするのは必定だ。

 最終的に米国は覇権を守り切る為に、あらためてドル基軸圏の再構築に乗り出したとわけで、アジア太平洋広域FTA を視野に入れているようだが、中国・ロシアが易々と米国ドル基軸覇権に好意的だとは、到底思えない。そもそもASEANプラス3の枠組みを支持する中国に対し、日本はASEANプラス6を主張し、経済統合の効果は大きい。

 ただ、この経済圏はASEANが中心となり鳩山の「東アジア共同体構想」に繋がり、中ロが参加することでドル基軸圏が危うくなると米国が焦りまくり、無理やりのTPP構想をぶち上げのだ。最終的にはドル基軸圏貿易枠組みとしてのFTAAP構想に繋ごうと云う意図のようだが、その前に米国の言いなりになる属国、日豪ニュージーランドを抱き込もうと云う事のようだ。さてさて、野田君はオバマの思惑につきあい、日本売りに精を出すのか?どちらにせよ公務員住宅でパフォーマンスしているようでは、先行き暗雲が立ちこめている。


通貨で読み解く世界経済―ドル、ユーロ、人民元、そして円 (中公新書)
小林 正宏,中林 伸一
中央公論新社


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