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銚子電鉄の光と影

2019年07月10日 13時05分34秒 | 身辺雑記・ちょいまじ鉄ネタ
会社のシフト連休を利用して千葉県の銚子電鉄に乗って来ました。大阪・新今宮の私が住んでいるホテルのすぐ近くに夜行バスの乗り場があります。そこから東京・池袋行きの夜行バスに乗り、池袋からJRと京成電鉄で成田まで出て、成田からJRで銚子まで行きました。平日の休みに行ったので、東京まで片道わずか1800円のバス代で行く事が出来ました。 
但し、夜行バスは深夜しか便がないので、2日間の連休全てを旅行に充てる事は出来ません。夜行バスではほとんど寝れないので、2日目には大阪に帰って来て身体を休めなければなりません。1日目の休み前夜に大阪を立ち、休み初日の夜には東京を立って2日目朝には大阪に帰って来る強行軍の旅行となりました。
 
銚子電鉄では「濡れ煎餅」を一杯買いました。そう、あの有名な「濡れ煎餅」です。国土交通省から老朽化した線路や車両の改修を命じられ、車両の定期点検もしなければならない。しかし、赤字の銚子電鉄には、その定期点検する為の資金もありません。月たった900万円の営業収入だけでは、6千万円もする設備更新費や定期点検の費用を捻出する事はとても出来ない。そこで、銚子特産の醤油に浸して焼いた「濡れ煎餅」を売って費用を捻出しようと、「電車修理代を稼がなくちゃならないんです」とネットに書き込み、寄付をつのる事になりました。
そうしたら、鉄道ファンの間で、その書き込みが話題となり、瞬く間に寄付が集まり、車両点検の費用も捻出できるようになりました。銚子電鉄の「濡れ煎餅」もすっかり有名になり、ひっきり無しに注文が殺到するようになりました。 
倒産一歩手前の銚子電鉄を救った「濡れ煎餅」と、銚子駅に停車中の銚子電鉄の車両。
 
銚子電鉄では、この「濡れ煎餅」の成功を機に、他にも同じようなブランド商品を一杯売り出すようになります。それが「まずい棒」「鯖威張る(サバイバル)弁当」「バナナ車掌のバナナカステラ」などの商品です。
 
でも、私は思うのです。銚子特産の醤油を使った「濡れ煎餅」や、漁獲高全国トップの銚子漁港で水揚げされた鯖を使った弁当ならまだ分かります。しかし、何の変哲もないバナナカステラや、お世辞にもおいしいとは思えないコーンフレークの「まずい棒」まで売り出すのは、さすがに行き過ぎではないかと。 
 実際、「まずい棒」はパサパサして全然おいしくありませんでした。幾ら「経営状態がまずい(思わしくない)」に引っ掛けた自虐ネタのお菓子だったとしても、誰がそんなまずい物を買うでしょうか?副業のお菓子作りにばかり精を出しても、本業の鉄道業が疎かになっては本末転倒です。
 
さらに呆れたのが、駅の標識です。銚子電鉄では、ネーミングライツ(命名権)と称して、企業の宣伝文句を駅の愛称に取り入れています。例えば、笠上黒生(かさがみくろはえ)駅の愛称に化粧品会社のCMを取り入れ、「髪毛黒生(かみのけくろはえ)」ともじり、それを駅名標として掲げています。正式な駅名標よりも愛称の駅名標の方が真新しくて目立っていました。 
しかし、そんな事をしたら、一体どちらが本当の駅名か分からなくなってしまいます。そもそも、笠上町と黒生町の中間にできた駅だからこそ、両方の町名を取って「笠上黒生」の駅名になったのに、「髪毛黒生」の方が通りがよくなってしまうようでは、由緒ある地名が消滅してしまうかも知れません。
 
 
銚子電鉄は、それを全ての駅でやりだしたのです。しかも、化粧品会社だけでなく、薬品会社や不動産会社まで引っ張り出して来て。以下が、その正式の駅名と愛称の一覧です。正式駅名→愛称を停車駅順に紹介していきます。
 
①銚子→絶対にあきらめないちょうし
②仲ノ町→パールショップなかのちょう
③観音→金太郎ホームかんのん
④本銚子(もとちょうし)→上り調子 本調子 京葉東和薬品もとちょうし
⑤笠上黒生(かさがみくろはえ)→髪毛黒生(かみのけくろはえ)かさがみくろはえ
⑥西海鹿島→ウェルネス8020こぬま歯科にしあしかじま
⑦海鹿島(あしかじま)→関東最東端より銚子港直送 千葉石毛魚類あしかじま
⑧君ケ浜→ロズウェルきみがはま
⑨犬吠→OTS(ワンツースマイル)犬吠埼温泉
⑩外川(とかわ)→ありがとうとかわ
 
 
飯沼観音への参拝駅として設置された観音駅も、今や場違いの洋風の派手な建物となり、金太郎ホーム(不動産会社)の広告塔に成り下がっていました。
 
これが「絶対あきらめない銚子」や「髪毛黒生かさがみくろはえ」だけなら、まだ愛嬌もやる気も感じられ好感も持てます。しかし、単なる売らんかなの「何ちゃらホーム」やら「何ちゃら歯科」やら「何ちゃら薬品」まで出てくると、もう商業主義が目について、それでも赤字解消の為に受け入れざるを得ない銚子電鉄の従業員や沿線住民が可哀想で、もう見ていられませんでした。 
だって、そうでしょう。これがまだ「チキンラーメンの街 阪急池田」とかだったら、住民にも馴染みがあるから良いけど。「安倍のお友達 加計学園が経営する千葉科学大学最寄り駅の外川」なんて愛称にされたら、駅の利用者はいたたまれないでしょう。 
それでも文句は言えないのです。何故なら、資金援助と引き換えに駅の命名権を企業に引き渡すのがネーミングライツ商法だからです。JRでも問題になったでしょう。山手線の新駅名を、由緒ある地名にせず、企業宣伝丸出しの高輪ゲートウェイにJR東日本が勝手に新駅名にしたと、大問題に。
 
それで本業の鉄道が黒字基調になればまだしも、本業は相変わらず赤字基調から抜け出せず、派手に改装されたのは駅舎だけで、車両もJRのお古でボロボロ、検修庫はまるで廃工場、貧弱な一本架線に、ひび割れた木製架線柱、草茫々の線路に、笠の部分が腐食した信号機の補修・交換も遅々として進まず。もう痛々しくて見ていられない。 
確かに、今までの銚子電鉄従業員の頑張りは素晴らしいと思うし、それで経営を一定立て直す事に成功した「濡れ煎餅」の威力も凄いと思います。でも、それらは所詮、副業にしか過ぎません。幾ら副業で頑張って利益を上げても、肝心の本業がサッパリでは、やはり限界があります。
では、本業を立て直すにはどうすれば良いか。これはもう、一企業や地方自治体の努力だけでは限界があります。銚子電鉄が赤字なのは、過疎化や少子化などの構造的な問題が背景にあるからです。
 
では、そういう問題があるから、もう鉄道需要は減っているから、鉄道は廃止にすれば良いのか。鉄道しか利用できない通学生やお年寄りは切り捨てるのか。
そうじゃないでしょう。それを何とかするのが政治の役割でしょう。政治が役割を発揮して、地域住民の交通権(移動や居住の自由)を保障する観点から、地元の鉄道を下支えしてこそ、初めて、これまでやって来た「濡れ煎餅」販売などの企業努力も身を結ぶのではないでしょうか。こんな商業主義に毒された命名権商法で、長年馴染んできた駅名をオモチャにされなくても、経営再建が可能になるのではないでしょうか。
 
私はこれまで銚子電鉄を応援して、今回も「濡れ煎餅」を一杯買いましたが、今の銚子電鉄の現状を見ていると、もういたたまれなくなります。赤字解消の為とは言え、何故、駅名への愛着まで捨てて、駅を企業の金儲けの道具にされなければならないのか?赤字解消の為なら従業員に過重労働や屈辱を強いても良いのか?それで本当に地域が幸福になるのか?この問題は、決して単なる美談だけに終わらせてはならないと思います。
 
  
銚子駅名に立つ千葉科学大学の宣伝用アーチ。最寄駅は銚子電鉄の外川(とかわ)ですが、誰も銚子電鉄で通学しようとは思わないでしょう。その陰で、ひび割れた木製架線柱や笠の腐食した信号機は補修されず、仲ノ町の検修庫も古びたままの姿で、ヤマサ醤油の工場を背に広がっていました。

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