以下、烏賀陽(うがや)弘道さんのツイート(エックス=旧ツイッターのつぶやき)より。
①大切なこと。1979年のアメリカ・ペンシルバニア州で起きたスリーマイル島原発事故でも、汚染水は出た。そして日本のALPSと同じようにEPICORという核種除去装置をくぐらせて核種を規制値以下にまで除去した。しかし電力会社はサスケハナ川(同原発は河川の中洲にある)への排水はしないことに決定。
①に補足。
ここでスリーマイル島原発の電力会社は、放射線防護の鉄則の一つ「放射性物質は閉じ込める」(環境中に拡散させない)を守った。
これは日本政府・東電のALPS水とは正反対。
日本では
A 放射性物質を拡散した
B かつ公海に拡散したので、それまで国内問題だった汚染が国際問題になった。
②最初は電力会社(GPU)はEPICOR処理後の水をサスケハナ川に放出する予定だった。しかし、下流に上水道の取水口を持つランカスター市が川への排水の差し止めを求めて裁判所に提訴した。
③ランカスター市と電力会社の裁判は和解で終わった。しかし「たとえ環境基準を満たす水であっても、スリーマイル島原発由来の水はサスケハナ川に流さない」という和解条項を電力会社が受諾した。
④これがTMI原発事故で、電力会社がサスケハナ川へのEPICOR処理水の放流を取りやめて、自然蒸発に転換した大きな理由のひとつ。
⑤もうひとつは、電力会社、地域住民、エネルギー省などの同席する対話の場が13年間に80回以上開かれたこと。Citizen Advisary Boardという市民委員は12人。その中には反原発運動家・市民も入っていた。
⑥このCitizen Advisary Boardは、あくまで「対話」の場であって、日本政府や東京電力の「説明会」のような「政府・東電の方針を説明する会合」とは性質がまったく違う。Citizen Advisary Boardは合意を形成するための対話の場所だった。
⑦TMI原発事故の場合は政府・電力会社が地元住民の「合意」を作ろうと努力した。日本政府はあくまで「理解を求めた」だけで「合意」が必要とは最初から一言も言っていない。だから地元漁業者が反対するなかALPS水を排出しても「え?合意が必要なんて約束してませんけど?」と逃げることができる。
⑧13年間に約80回の「対話の場」を重ねるうちに、住民と電力会社・政府の間にも信頼が成立するようになった。EPICOR水の自然蒸発処理が始まったのは、事故発生後12年目の1991年。93年に完了。これは対話の後半で合意が形成されたから。
⑨この「市民アドバイザリー委員会」との対話の場は1993年、78回の会合を経て役割を終えた。1979年の事故発生から14年後である。
⑩事情の違いを述べると
汚染水の量=TMI:9000トン。福島第一:137万トン。
メルトダウンした原子炉=TMI:1つ 福島:3つ
デブリ=TMI:130t 福島:800t
つまり同じメルトダウン事故でも、事故のスケールが桁違いに大きい。
11)日本政府のミスはもっと早期に汚染水の処理方法を検討しはじめなかったこと。2013年12月まで汚染水タスクフォース(原子力工学者10人)は始動しなかった。事故発生から2年9ヶ月である。崩壊熱を冷やすために汚染水が大量に出ることは事故直後からわかっていたのに、時間を浪費しすぎた。
12)事故直後にヨーイドンで処理方法を検討し始めていれば、陸上処理の可能性やその用地確保などもする余裕があったはずだ。またTMIのような地元住民との「合意形成」の場もできたかもしれない。
13)そして重要なことを追記。TMI原発事故では、EPICOR,EPICOR2というALPSに似た核種除去装置を通した水を自然蒸発させた後のヘドロに、高レベルの放射性物質がまだ残っていた。たった9000tの汚染水でも100%除去は無理なのだ。
14)ひとつ訂正。この汚染水をEPICOR処理したあとに残ったヘドロの高レベル放射性物質は、ワシントン州のハンフォードサイトで処理された。アイダホ州の砂漠にある国立研究所(INL)に保管されているのは取り出したデブリだった。
15 ) TMI原発事故は、私も現場に2回行って当時の住民に話を聞いて回り、英語の資料もかなり読んだので、重要なことを書いた。日米の汚染水処理の違いである。
以上で烏賀陽弘道さんのツイート引用を終わります。福島の処理水(実は汚染水)放出については、「日本は環境基準を守って節度をもって処理水を放出しているのに、中国が日本からの水産物輸入を停止して嫌がらせに出ている」「福島の風評被害を煽っている」との報道が主流になっていますが。
実態はかくの如しです。
「日本では A 放射性物質を拡散した B かつ公海に拡散したので、それまで国内問題だった汚染が国際問題になった。」この指摘に尽きます。これは相手が中国であろうと他のどの国であろうと関係ありません。
「チャイナ・シンドローム」というブラックジョークがあります。米国の原発でメルトダウン(炉心溶融事故)が起こったら、溶け出た核燃料が原子炉の底を突き破り、地中深く潜り込んで、やがて地球の裏側にある中国にまで到達するかもしれない。それだけ甚大な被害が出る事をたとえたものです。このブラックジョークのモデルになったのが、1979年の米国スリーマイル島(TMI)原発事故でした。
そのスリーマイルの教訓も生かせずに、32年後の2011年に、今度は日本の福島第一原発で、更に酷い原発事故を引き起こしてしまいました。福島で出た汚染水の総量は、スリーマイルのそれの152倍超にも及びます。それまでも国会で野党から福島原発の津波対策に疑問が出されたのに、大丈夫だとゴリ押しして、後の東日本大震災で質問の指摘通りの事態になってしまったのです。それに対して、人体の許容放射線量をそれまでの年間1シーベルトから20シーベルトに緩め、福島で内部被曝が広がっても放射能被害を認定せず隠蔽。福島県内に設置された放射線測定モニタリングポストの数値に対しても改ざんの噂が後を絶たない。そんな政府の言う事なぞ誰が信用出来ますか。
それなのに、昨今のマスコミ報道と来たら。脱原発の世論が盛り上がった時は、国会前の反原発デモをあれだけ報道しながら、今はもうすっかり政府の宣伝に乗っかり、御用新聞と化してしまっています。おまけに「汚染水なんて言葉を使うのは中国の手先だ」と、「言葉狩り」に出る有様。日本の処理水(汚染水)は他国の処理水(原子炉を冷やした後に出る冷却水)とは違い、メルトダウンしたデブリに直接触れた水で、アルプスでも放射性物質を確実に除去出来たとは言えないのに。海水で薄めればそれで良しと。それでは水俣湾に有機水銀垂れ流したチッソと同じだ。廃炉作業も遅々として進まず、デブリの取り出しがいつ可能になるかも全く分からないのに。
戦時中の「大本営発表」と一体どこが違うのか?これでは昔の「非国民」が「親中」に変わっただけではないか。かつて反原発論デモで「(原発問題に)今まで無関心でスミマセン」というプラカードが登場した事がありましたが、今の世相を見ると、その反省も虚しく、今も無関心であり続けていると言わざるを得ません。「原発さえなければ」と畜舎の壁に書き残して、自殺してしまった福島県の酪農家の無念を、今の日本人は、いまだ踏みにじり続けるのか?