今宵も劇場でお会いしましょう!

おおるりが赤裸々に綴る脱線転覆の感想記!(舞台やライブの感想です)

「シラノ・ド・ベルジュラック」

2011年02月09日 00時35分30秒 | 観劇(ストレートプレイ/人形劇)

【出演】 市川右近、 安寿ミラ、 深沢敦、 小林十市、 駒田一、 栗田芳宏、 石橋正次
MUSICIAN ヴァイオリン:氏川恵美子、 アコーディオン:大田智美

この安寿ミラさんのロクサーヌってば、キッパリ!ハッキリ!してて、なんてわかりやすい女性なんだろう!(笑) 
いいな~っ、このロクサーヌは! 
私がシラノの物語を好きだってことは、たしか以前に鹿賀さんの舞台でも言ったと思うけど、ロクサーヌにこれほど好意を持ったのは初めてかも。

ロクサーヌって女性はね、とびきりの美人で男性たちからの憧れの的なわけだから、そんじょそこらの月並みな褒め言葉や愛の告白なんてもう聞き慣れちゃっていて、賞賛の言葉に対してはさぞかし贅沢な女だろうと思うのよ。
だから、クリスチャンが「あなたを崇拝しています」なんて、つまらないことを言ったもんならすぐにでも「あ、そうですか。では、さようなら」みたいにスパッと切り捨てようとするのね(笑)
そんな、言いたいこと直撃!みたいな、ある意味素直すぎるこのロクサーヌが好きだわ。
そして、シラノがクリスチャンとタッチ交代して美辞麗句を並べると、とたんにクラクラ~!と乙女心が刺激されてしまうような単純なところもね。

この舞台は総勢50人の登場人物をたった7人で演じるというもので、シラノ以外の6人の役者さんたちは舞台上でお着替えしながら次々と別人に役代わりして演じます。
安寿さん以外は全員男性なので、お髭の生えた女房だの尼さんだのもいてその演じ分けが面白いです。
いーや! それだけでなく、あっちこっちが面白い!

だいたいね~、死んだクリスチャンがむっくり起き上がる…のは、次の場面に行くための動作だから何でもないとして…で?! なんで、そこでボレロを踊るんだか?!(笑)
しかも、すっごく嬉しそうで、可笑しいったらありゃしない!!
強者どもの遊び心が満載で、笑いのあるこんな「シラノ」が見られるなんて意外で楽しかったです。

それでも笑いながらでも、やっぱりシラノはシラノ。
この物語の終盤には、私は今回もやっぱり泣かされました。
自分の醜い容姿にコンプレックスを抱き続け、「だから愛される資格がない」と思い込んだ、このシラノというオトコのストイックな愛に涙せずにはいられません。

そういえば、シラノがロクサーヌへ人知れず綴りつけた愛…その手紙なんですけどね、
その前日に観た「ピアフ」でも、ピアフが最も愛したといわれたボクサーのマルセル・セルダンも、遠距離恋愛の中で彼はピアフに手紙をたくさん送っていて、ピアフは「もっと手紙をちょうだい!あなたの言葉が欲しいの」などと言ってましたっけ。
女性は自分に宛てられた愛の手紙が好き…と、ひと括りには言えないにしても…確かに手紙には恋愛を盛り上げる力があるのでしょうね。
「そんなん、口からでまかせじゃん?」と思う人もいるにはいるけどさ(笑)
書くにつけ、読むにつけ、時間と空間を隔てたほうが、より美しく、そして自分の好みに都合よく想像が広がるだろうし。
想像…つまり、幻想と思い込みが恋心を盛り上げるし、でもそれだけじゃない、あれだけ何通も何十通、もしかして何百通?も書くとすれば、口から出任せじゃとても持続できない、それ相応のエネルギーと真心が必要なはず。
それに、褒め言葉って、悪口に比べて案外とネタが尽きるものじゃないかな?
そこに切々とした心が加わってこそ、相手の心を動かすのでしょうね。
もっとも、その手紙ですらも、貰い慣れちゃっている人にはどうだか知らないけど…。

でも、クリスチャンは口下手で詩心が全くないオトコで、シラノが「自分にクリスチャンの美しさがあれば…」と思うように、彼もまた「自分にシラノのような詩心があれば…」と思っている。
このシラノとクリスチャンの二人は一人だけではロクサーヌの愛が得られず、互いが相手なしでは愛されなかっただけに、複雑な感情を交えながらも、いつしか友情を育み合います。
私はこの男達の微妙な友情も好きだなぁ…。
クリスチャンが容姿だけでなく、その心もやはり愛すべき男だとは、もしかしたらロクサーヌには解らなくても、シラノだからこそ解るのかもしれない。
クリスチャンが亡くなるシーン前後の彼らの互いを想う心には胸を打つものがありました。
…って、だからボレロを踊り出すまではね(笑)

正反対のコンプレックスを抱きながら、同じ女性を愛した二人の男。
そして、二人の男性を一人として愛した女。
見方によっては愚かしい話かもしれないけれど、その三人の愚かしさはそれぞれに哀しく、そして愛おしい。
やっぱり私は「シラノ・ド・ベルジュラック」が好きだと思う。

あ、これはてんで蛇足だけど。
舞台の上手でお着替えをしながら時折「ふっ」と小さく息を漏らす駒田さんの横顔は、久しぶりにハンサムだと思いました まる(笑)



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