「上橋菜穂子と〈精霊の守り人〉展」@世田谷文学館 2016/05/01
NHK総合で実写ドラマ化された、人気ファンタジー小説「精霊の守り人」の展覧会に行ってきました。
世田谷文学館はムットーニ氏の「からくり劇場」が毎日定刻に上演されるので、毎年行くのは半分はそれが目当て。もう半分は特別展が目当てですが、去年も坂口安吾絡みで来た場所です。
京王線の芦花公園駅は、新宿から来るなら普通列車(各駅)で8駅目。特急などは止まらないのでご注意です。
その芦花公園の南口から右に歩いて徒歩5分。のんびり歩いても10分はかからないと思います。
入場料800円を払って手渡される入場券は紙なんですけと、手首に巻く「バングルチケット」になり、暗闇の中に入ると紋章が浮かび上がります。
これ↓なんですけど、フラッシュたいて写真を録ったら紋章が見えるわけないですよね!私ったら、相変わらすお馬鹿ですね~
特別展内で撮影が許可されている場所は限られていますが、まずは入り口の所に女用心棒バルサの鑓があります。記念写真を撮りたい方にはこちらがお勧めです。
展内にはドラマで使われたバルサとチャグムの衣装が展示されていましたが、そこも撮影スポット。
綾瀬はるかさん達が着たこれらの衣装には、NHK衣装部の並々ならぬこだわりが見えました。使われた素材は、長年衣装部が所蔵していて経年変化したものを組み合わせたものだそうで、非常に手が細かいです。そして、皮を編みこんだ茶色いバルサのベストは、震災復興を目指す宮城県南三陸の人々の手で制作されたものだそうです。
人の手によって自然の恵みが丁寧に織り込まれた二着の衣装は、守り人シリーズの世界にぴったりでした!
もうひとつの撮影スポットは、チャグムが体験する目に見えない世界「ナユグ」が体験できる小部屋です↑
ここは狭い部屋ですが、鏡張りになっているので暗闇の床に映る光が全方向に広がって見え、奥行きのあるナユグの世界が体験できます。
水の世界が次第に変化する様子を写真に撮ってみましたが、自分の姿が写らないようにしたので鏡の壁がほとんど入らなかったのが残念。
床に足を下ろすと、まるで足元の水面がざわめくような面白い仕掛けがあるので、実際は写真よりもっと幻想的で、ちょっと万華鏡の中にいるような感じもしました。
この部屋の中で、先ほどのバングルチケットを見ると、蛍光塗料の・・・じゃなくて(笑)魔術?の力でバングルに紋章が光って浮かび上がります。
上橋さんの小説「守り人シリーズ」は、私はつい最近の3月に入ってから一巻目の「精霊の守り人」を読み始め、とても面白かったので文庫本版を一気読みしました。
一気読みと言っても、主に通勤と帰宅の電車の中が読書タイムなので一日に一冊といった具合ですから、文庫版全11冊を読み終えたのはテレビドラマの第二話の頃だったでしょうか。つまり、にわかファンなので上橋菜穂子さんのことはほとんど知りませんでした。
上橋菜穂子さんは文化人類学を研究していた方でもあり、小説だけでなく評論もお書きになってますし、世界20カ国も旅をしていて、たくさんの異文化に触れてきた人だったんですね。それらの貴重な資料を拝見していると、やっぱりこういったファンタジーが生まれるには、作者の想像力は言うまでもありませんが、実際に見聞きしたり体験した「経験」が物凄く重要なんだろうな、と思わずにいられません。それも、その経験が血となり肉となっていればこそですね。
守り人シリーズの世界は現実にある国や土地ではありませんが、まるで実在する世界を実際に見ているかのようなリアリティのある描写は、こういった旅の経験が土台になっているのでしょう。上橋さんが世界各地を旅して目に留まった物の写真や、そのディティールに注目する上橋さんの言葉などがとても興味深いです。
少女の頃からの空想の旅と、現実の旅と・・・この二つが合わさって精霊の守人は生まれたんですね。
ところで、こういった文学館や展示会は私は「たまに観る」程度ですけど、その面白さとは、小説家の経歴や作品の背景を知ったり関連の品を見たりすることで、新しい視点で作品の世界を捕らることが出来たり、より深く理解して今まで以上に作品が楽しめたりと、「作品ありき」の面白さですよね~。
それにしても、その見せ方には時代を感じさせられました!
なんといっても、展示品の中に肉筆の原稿がありません。
昭和の文豪たちの文学展にあるような、肉筆の原稿用紙がないので、作者本人が実際に行った推敲の跡や校正の赤い字の手入れなどはありません。
最近の多くの小説家がそうであるように、上橋さんも小説をパソコンで書いているんですよね。もっとも最初のうちはワープロでしたので、初期のワープロ機械が展示されていました。
小説の生まれる過程が見られる生原稿がないのは残念ですが、これからは益々そうなっていくのでしょうね。
でも、その代わりに(?)会場のところどころに映像があり、画面の中では上橋さん自身が展示品に関してのエピソードを語ってくださったりしています。
そのどれも興味深いお話でしたが、小説が英語に翻訳された時の脚本家さんとの二人三脚のやりとりについてなど、上橋さんのお顔を見ながらご本人の言葉を聞かせてもらううちに、次第に上橋さんに親しみを感じつつ、楽しく見ることができました。
ドラマとのタイアップといい、映像といい、文学展は今後ますますこういったふうになっていくんでしょうね。
世田谷文学館の「上橋菜穂子と〈精霊の守り人〉展」は7月3日(日)まで。
ちなみに、冒頭に書いたムットーニ氏の「からくり劇場」は常設展の入り口付近にありますので、守り人ファンの方にもぜひお勧めします!
http://www.setabun.or.jp/