芸術監督・演出:蜷川幸雄
出演:さいたまゴールド・シアターの皆さん/堀文明(客演)/他
さいたまゴールド・シアターとは、蜷川幸雄さんが率いる、55歳以上の劇団員42名の“世界一過激”な演劇集団です。
今年の平均年齢71歳というから、去年70歳だったのが順当に一歳延びたのね。
皆さんお元気で本当に良かったです。
私は蜷川さんの舞台をここ数年でいくつか観てきましたが、その中では特にこの方たちのが好きなのでとても嬉しく思います。
それで気合入れて感想を書こうとか思っていたら、ついつい日にちが経っちゃったのよね(笑)
感想を書くつもりが書き逃してしまうときって、大概こういうパターンが多いかも。
なんて話はともかくとして。
このゴールド・シアターの皆さんですが、とにかく凄いエネルギーを感じます!
中には50歳代や60代の方たちもいらっしゃるので、全員がお年寄りではないけれど、物語の中心となる70代や80代の方たちから伝わってくるそのパワーとは、若い人たちの発するそれとはまた別もので、なんというか命の底力を感じるというか(笑)じわり!ズシン!と熱い備長炭ってな感じです。
リアル老人が演じる「お年寄り」たちはこの上なく真摯であり、けれどもどこかユーモラスであったりもします。
ああ、ほんとうに好きだなぁ…この方たち。
私は去年の「アンドゥ家の一夜」で初めてゴールド・シアターを知ったのでまだ二回目ですが、今回の「聖地」は四回目の公演だそうです。
で、「アンドゥ」はケラリーノ・サンドロヴィッチ作だったからやけに面白かったのかな?とか思ったら、今回の松井周さんの脚本も面白かったです!
物語の舞台になるのは近未来。
この国では「安楽死法」が施行され、70歳以上の老人たちは延命医療よりも自らの「最適な死」を望むように求められていました。
つまり、念書さえ書いておけば楽な方法で自殺ができるわけです。
自らが選ぶ「尊厳死」…その“最期”を自然な気持ちで迎えるために作られたというウリの静かな老人ホームに、ある日五人のお爺さんたちが乗り込んできて……という話なんですけどね。
その五人のお爺さんたちは、なんと!元アイドルの「キノコちゃん」ファンクラブのコアな会員だったという人達なんですよ!(笑)
もちろん、その元アイドルのキノコちゃんも今では立派なお婆ちゃん…だったんですけど、実はこの老人ホームで自殺していて、その死が不審だと言い元FCのみなさんが出張ってきちゃったわけなんです。
このあたり、映画「キサラギ」をちょっとばかり思い出しますけど、この物語としてはその不審な死を追求するための推理劇ではなくて、その五人の老人達が院長を追い出して老人ホームを乗っ取り、ここを死ではなく生を選ぶための新たな老人の「聖地」にしようじゃないか…ってな話に進みます。
この題材は、語り方次第では近代の「姥捨て山」を描くような、何とも重苦しい話になりそうだけど、なんたって元アイドルのオッカケだし(笑)、お爺さんたちはその五人にしても、老人ホームの先住の人達にしても、それぞれに事情があるにせよ決して話が暗くはなりません。
余命があと二年とか半年とか言ってさえも、湿っぽくも暗くもない。
それは脚本の上手さもあると思うけど…やっぱりこのゴールド・シアターのリアル老人たちが演じるからかもしれないなぁ…。
二十代の若者の余命二年と、老人の余命二年と、どこが違うのか…。
ある老人は、「もう自分は世の中で何の役にも立たないのだから」といい、またある老人は「今ちょうどプラスとマイナスがゼロだから」山へ行く(安楽死をする)と言います。
だけど、本当にそれでいいのか…??
老人が自分の老いを問い、死を問い、改めて生きることを問います。
でもそれってね、もしそれが私自身の話として思うならば、場合によっては「安楽死」もそう悪くないのかも、と思わなくもありません。
私にとって死の際に訪れるであろう痛みや苦しみは怖くても、死そのものはあまり怖くないので、自分の一番良いときに静かな気持ちで、それこそブラスとマイナスがゼロでフラットになったところで最期を迎えるのは悪くない…かも。
なんて、思ったりもしますけど、実際に長生きして老人になってみたらどうなんでしょうね?
きっとそこへ行き着いてみなければ本当にはわからないのでしょうね。
劇中の中で、五人の元気なお爺さんたちがわざとヨボヨボでボケたふりをする場面がありましたが、それがまるで本当にそんなふう見えて、だからその演技が上手いっていうか、やけにリアルすぎて笑えるっていうか、大真面目な中に何とも言えない可笑しさがありました。
それにしても、「キノコちゃんは僕らの青春だったんだ」とか「僕は妻もいなく子どもいなくてずっと一人暮らしで、キノコちゃん一筋だったんだ」とか言う、元アイドルファンのお爺さんたちには、共感のような愛しさを感じてしまう私です(笑)
いや、私は青春時代にアイドルの追っかけなんてしたことありませんけどね。
でも、胸の中にいつも、いつまでも可愛くて大好きなキノコちゃんが生きている、というお爺さんたちを見て、このまま長生きしていけば、自分もたいがいこんなお婆さんになるのかも?という気がしました(笑)
ま、それも悪くないか…。
…なんて、
結局、気合の入らない感想になっちゃった(笑)
とにかく、私もいつまでこんなふうに舞台を観続けていられるのかは分からないけれど、ゴールド・シアターの皆さんたちも蜷川さんも、ずっとお元気でお芝居を創り続けていてほしいと思いました。