映画「殿、利息でござる」 2016/05/21
【監督・脚本】 中村義洋
【脚本】 鈴木謙一
【音楽】 安川午朗
【原作】 磯田道史
【主題歌】RCサクセション
【キャスト】穀十田屋三郎: 阿部サダヲ/菅原屋篤平治: 瑛太/浅野屋甚内: 妻夫木聡/とき: 竹内結子/遠藤幾右衛門: 寺脇康文/穀田屋十兵衛: きたろう/千坂仲内: 千葉雄大/早坂屋新四郎: 橋本一郎/穀田屋善八: 中本賢/遠藤寿内: 西村雅彦/なつ: 山本舞香/加代: 岩田華怜/橋本権右衛門: 堀部圭亮/
斉藤歩/芦川誠/中村ゆうじ/上田耕一/ナレーション: 濱田岳/音右衛門: 重岡大毅/伊達重村: 羽生結弦/萱場杢:松田龍平/きよ:草笛光子/先代・浅野屋甚内十三郎:山崎努
良い映画でした。
・・・いや、言い方を変えようかな。
善きお話でした。
これが実話を元にしているというのに尚更心が洗われたし、人の世に救いを見た感があります。
良い意味で、予想を裏切られた気がしました。
だってねぇ、これを観る前は、主演が 阿部サダヲさんともなれば、「これは絶対に笑える!きっと、ゲラゲラ笑いながら観る映画にちがいない!」とか思ったんですよ。
阿部さんのコメディのセンスは抜群で天才的だと思うし、しかも予告動画を見たらいかにも面白そうで笑えそうな感じだったんです。
こんな感じ↓
この映画、史実とはいえ、ストーリーやら伏線やらのネタバレの話はあまりしたくないです。(予めどんな話か知りたい方は動画を見て下さい。)
もちろん面白かったし、たまにクスリと笑えるところもありました。 だけど始終ゲラゲラ笑いながら見るような全編コメディではなかったです。
はらはらドキドキとかワクワクともちょっと違います。
私はそれらを予想していたので、テンポは決して悪くないのに後半に来るまでは多少じりじりとしたかもしれません。けれども話が進み、最後のほうになると、阿部さん演じる穀十田屋三郎につられるように瞳が涙でいっぱいになりました。阿部サダヲさんは面白いだけじゃなくて、稀有なキャラクターを持つ本当に良い役者さんですね~。
でも、このお話って江戸時代の話なんですよねぇ・・・。
テレビをつければ、今日もどっかの都知事の話題ばかりでうんざり。見ていて都民として、いえ、人として恥ずかしい。
お金、お金、お金・・・お金がなければ人は暮らしていけません。だからお金は大切ですが、大切だからこそ、金銭感覚やお金に対する想い、お金の使い方には人の品性を感じます。
それはお金を通していろいろな心の有り様が見えるから。お金持ちでも心の卑しいは沢山いて、そういう人はたいがいお金にも卑しいです。
その大事な金銭感覚を教えるのは、親の「最も重要な仕事のひとつ」ですね。
ここがマトモならば、人生を大きく踏み外すこともないかもしれない。
貧しくても、真面目に一生懸命に働くこと、人を騙してズルをしてまで得るお金はろくなものでないこと、簡単にお金を貸し借りしたり保証人にならないこと、借りたら返せ、大金を手にしたとたんに近づいてくる人を信用するな、ギャンブルやリボ払いに手を出すな、お金の無い人を見下したり逆に金持ちに対して媚びるな、金で人の心を釣るな、人をカモにして不当に儲けるな、他人の金や公金をちょろまかすな・・・・お金に関しての注意など、言い出したらキリがない(笑) 何にしても言わなきゃならない事はちゃんと言うべきだし、子供は親の背を見て育ちますよね。(とか言いつつ、すぐに無駄遣いしてお金の使い方が下手な私も、書いていて自分の棚上げ状態がだんだん恥ずかしくなってきた)
でも、困っている町の人や仲間のために、「いざとなれば貯金や家の資財を全て投げ打ってでも、自分のお金を役立てろ」とまでは、普通の親なら言いませんよね。
そう言われても、なかなか出来るものじゃなし。
うん、だから現代はやっぱり、賢くて力があり、お金に清い政治家が必要なんですよね。それから、みんなで助け合う精神の保険も。
なんて、脱線してますけど(笑)
お上(かみ)に金を貸そうと千両もの大金を集める町民達もさることながら、前例にない申し立てを受けるお役人達の心の動きも面白かったです。
でもって、そのお役人の武士達の頂点には、な、なんと羽生結弦くんがいたりして! いや~、ご登場のシーンまでその事をすっかり忘れていた私はつい頬が緩みました。
そうだよね~、仙台藩のお話だもんね~! うふふ、羽生くん、なかなか貴重な体験が出来てよかったね! ベテラン揃いの中で一人だけ異質ちゃ異質だけど、そりゃ~きっと緊張したよね~、頑張ったよね~!・・・なぁ~んて、まるで近所のオバちゃん状態(笑)。仙台って、人が素晴らしい!と、羽生くんのご登場で改めて納得。
でもまあ、私のツボっちゃ、羽生くんよりも妻夫木くんなんだけど、羽生くんファンのお友達がさぞかし喜ぶだろうな~とか、思わずニヤニヤ。
ラストに付け足されたエピソードも、決して蛇足になるような事はなく、この顛末に心温まり、清々しくさえ感じました。久々に綺麗な心を持つ人々が見られて嬉しかったです。
映画館を出る頃には、「善い映画だった、見て良かった。」と思うと同時に、「どっかの都知事に見せたい!」とも思いましたよ、ほんとに!
「上橋菜穂子と〈精霊の守り人〉展」@世田谷文学館 2016/05/01
NHK総合で実写ドラマ化された、人気ファンタジー小説「精霊の守り人」の展覧会に行ってきました。
世田谷文学館はムットーニ氏の「からくり劇場」が毎日定刻に上演されるので、毎年行くのは半分はそれが目当て。もう半分は特別展が目当てですが、去年も坂口安吾絡みで来た場所です。
京王線の芦花公園駅は、新宿から来るなら普通列車(各駅)で8駅目。特急などは止まらないのでご注意です。
その芦花公園の南口から右に歩いて徒歩5分。のんびり歩いても10分はかからないと思います。
入場料800円を払って手渡される入場券は紙なんですけと、手首に巻く「バングルチケット」になり、暗闇の中に入ると紋章が浮かび上がります。
これ↓なんですけど、フラッシュたいて写真を録ったら紋章が見えるわけないですよね!私ったら、相変わらすお馬鹿ですね~
特別展内で撮影が許可されている場所は限られていますが、まずは入り口の所に女用心棒バルサの鑓があります。記念写真を撮りたい方にはこちらがお勧めです。
展内にはドラマで使われたバルサとチャグムの衣装が展示されていましたが、そこも撮影スポット。
綾瀬はるかさん達が着たこれらの衣装には、NHK衣装部の並々ならぬこだわりが見えました。使われた素材は、長年衣装部が所蔵していて経年変化したものを組み合わせたものだそうで、非常に手が細かいです。そして、皮を編みこんだ茶色いバルサのベストは、震災復興を目指す宮城県南三陸の人々の手で制作されたものだそうです。
人の手によって自然の恵みが丁寧に織り込まれた二着の衣装は、守り人シリーズの世界にぴったりでした!
もうひとつの撮影スポットは、チャグムが体験する目に見えない世界「ナユグ」が体験できる小部屋です↑
ここは狭い部屋ですが、鏡張りになっているので暗闇の床に映る光が全方向に広がって見え、奥行きのあるナユグの世界が体験できます。
水の世界が次第に変化する様子を写真に撮ってみましたが、自分の姿が写らないようにしたので鏡の壁がほとんど入らなかったのが残念。
床に足を下ろすと、まるで足元の水面がざわめくような面白い仕掛けがあるので、実際は写真よりもっと幻想的で、ちょっと万華鏡の中にいるような感じもしました。
この部屋の中で、先ほどのバングルチケットを見ると、蛍光塗料の・・・じゃなくて(笑)魔術?の力でバングルに紋章が光って浮かび上がります。
上橋さんの小説「守り人シリーズ」は、私はつい最近の3月に入ってから一巻目の「精霊の守り人」を読み始め、とても面白かったので文庫本版を一気読みしました。
一気読みと言っても、主に通勤と帰宅の電車の中が読書タイムなので一日に一冊といった具合ですから、文庫版全11冊を読み終えたのはテレビドラマの第二話の頃だったでしょうか。つまり、にわかファンなので上橋菜穂子さんのことはほとんど知りませんでした。
上橋菜穂子さんは文化人類学を研究していた方でもあり、小説だけでなく評論もお書きになってますし、世界20カ国も旅をしていて、たくさんの異文化に触れてきた人だったんですね。それらの貴重な資料を拝見していると、やっぱりこういったファンタジーが生まれるには、作者の想像力は言うまでもありませんが、実際に見聞きしたり体験した「経験」が物凄く重要なんだろうな、と思わずにいられません。それも、その経験が血となり肉となっていればこそですね。
守り人シリーズの世界は現実にある国や土地ではありませんが、まるで実在する世界を実際に見ているかのようなリアリティのある描写は、こういった旅の経験が土台になっているのでしょう。上橋さんが世界各地を旅して目に留まった物の写真や、そのディティールに注目する上橋さんの言葉などがとても興味深いです。
少女の頃からの空想の旅と、現実の旅と・・・この二つが合わさって精霊の守人は生まれたんですね。
ところで、こういった文学館や展示会は私は「たまに観る」程度ですけど、その面白さとは、小説家の経歴や作品の背景を知ったり関連の品を見たりすることで、新しい視点で作品の世界を捕らることが出来たり、より深く理解して今まで以上に作品が楽しめたりと、「作品ありき」の面白さですよね~。
それにしても、その見せ方には時代を感じさせられました!
なんといっても、展示品の中に肉筆の原稿がありません。
昭和の文豪たちの文学展にあるような、肉筆の原稿用紙がないので、作者本人が実際に行った推敲の跡や校正の赤い字の手入れなどはありません。
最近の多くの小説家がそうであるように、上橋さんも小説をパソコンで書いているんですよね。もっとも最初のうちはワープロでしたので、初期のワープロ機械が展示されていました。
小説の生まれる過程が見られる生原稿がないのは残念ですが、これからは益々そうなっていくのでしょうね。
でも、その代わりに(?)会場のところどころに映像があり、画面の中では上橋さん自身が展示品に関してのエピソードを語ってくださったりしています。
そのどれも興味深いお話でしたが、小説が英語に翻訳された時の脚本家さんとの二人三脚のやりとりについてなど、上橋さんのお顔を見ながらご本人の言葉を聞かせてもらううちに、次第に上橋さんに親しみを感じつつ、楽しく見ることができました。
ドラマとのタイアップといい、映像といい、文学展は今後ますますこういったふうになっていくんでしょうね。
世田谷文学館の「上橋菜穂子と〈精霊の守り人〉展」は7月3日(日)まで。
ちなみに、冒頭に書いたムットーニ氏の「からくり劇場」は常設展の入り口付近にありますので、守り人ファンの方にもぜひお勧めします!
http://www.setabun.or.jp/