今宵も劇場でお会いしましょう!

おおるりが赤裸々に綴る脱線転覆の感想記!(舞台やライブの感想です)

琵琶×朗読×舞踊「雨月物語」

2013年10月27日 01時56分56秒 | 観劇(ミュージカル/音楽劇)

2013/10/20 @black A
飛び猫舎 旗揚げ公演
ドラマチック朗読劇 琵琶×朗読×舞踊 『雨月物語』
【原作】『雨月物語』(上田秋成)
「浅茅が宿」「吉備津の釜」「蛇性の淫」より
【演出】仲村みなみ
【脚色】仲村みなみ、向坂陸
【琵琶】熊田かほり
【朗読】今泉薫/羽場さゆり
【舞踊】山碕峰有希


今週末に心配した台風も勢力が弱まり、東の方に反れてくれて良かったですね。
東京では、午後に雨も止みました。
皆さんのところはいかがでしたか? 何も被害がなかったら良いのですが…

このドラマチック朗読劇「雨月物語」(うげつものがたり)は、先週の日曜日の夜、土砂降りの中を歩いて出かけた舞台です。
雨あしが強かったせいか急に寒くなるし、black Aは駅から少し歩くし、おまけに頭がガンガンと痛くなって吐き気もしてきたので、両国の駅を降りた時には「予約をドタキャンして引き返しちゃおうかな~」とか思ったんですけど(汗)
でも、やっぱり観てきて良かったです。
そのうちに頭痛薬も効いてきたのか、劇が始ってしばらくして、次第に物語に引き込まれていくうちに、すっかり頭が痛いのも忘れました。

この舞台を見に行こうと思ったのは、私はもともと、こういった綺譚( きたん)が好きだから。
もともとファンタジー好きで、幻想物語とか非現実的な話、怪異小説とかは好きなんですよね。古典の狐狸・妖かし、化け物が出てくる物語っていうのも、面白いです。
化け物が面白いというよりは、それに関わる人間の物語が面白いので、結局は人間に興味があるからですが、
昔、卒論にした題材は「今昔物語に見る妖かし」だったり。

で、この「雨月物語」は、「宇治拾遺物語」なんかもそうですけど、おおもとはその「今昔物語」あたりのようです。
そのまた源は中国の古典とも言われてますが、つまり、「雨月物語」をちゃんと読んだことはないものの、私には「どこかで聞いたような話だなぁ」といった感じでした。
その、おどろおどろしい怪談話が、耳に心地よい現代語で生まれ変わり、琵琶の音と共に、生々しい人の声で聞かせてもらうのは、なかなかに雰囲気のある怖さと面白さがありました。
この演出と脚色の仲村みなみさんは、あっきーも出演したNHKのドラマ「コンカツ・リカツ」のシナリオを書いた方だそうですが、「雨月物語」の三つの話をひとつの物語に上手くまとめていました。

それを朗読する今泉薫さんと羽場さゆりさんのお二人は、思った以上に良かったです。
主人公の男は、畑仕事を嫌って妻にばかり働かせ、その妻に「綺麗な小袖を買ってやりたい」などと言って畑を売ってしまい、家のお金を持ち出してひとり商売の旅に出てしまうような短絡的な男ですが、そのうえ約束も守らずに、故郷に長く妻を置き去りにしたまま浮気までするという・・・つまり、本当に「しょーもない男」なんですけど、今泉さんが演じた男はどこかしら育ちがよさそうな男で、まるっきり不誠実な感じがしないので、どうも、この男は「ずっと親とか良く出来た妻に甘ったれて生きてきた、ぼんぼん育ちの考えなし」という感じ。
べつに悪党ではないし、酷い浮気亭主というわけでもないので、この男の薄情さについては、もしかしたら「普通の男」のそれではないか、と感じさせてくれるところがハマってました。

羽場さゆりさんは、その働き者の健気な妻役もさることながら、蛇の化身が正体を現したところからが一層良かったです!
怖いけれども怖くなり過ぎず、感情は出すけど出し過ぎず・・・という絶妙さ、それぞれのシーンの声音も良くて、朗読劇にふさわしいこの読み方は、原作の面白さを味わうにも良かったと思いました。

そして、舞台下手(しもて)の端からいつの間にかぬっと出てくる山碕峰有希さんの姿とその踊りもまた、時に激しく恐ろしく、時に扇情的にエロティックで見応えがあったし、私には「もしかしたら初めてかも?」という生の琵琶の演奏もこの物語にぴったりで、聞き応えもあったしで、朗読と音楽と踊りの三つがバランス良く調和して作られたこの濃密な空気には独特な魅力がありました。

で~、
ここからは、いつもの脱線転覆の感想ですけど~(笑)

この物語は、蛇の化身だった女に祟られたり、死んだ女房に恨まれる男の話で、つまり怪談ですが。
講談の「牡丹燈籠」を聞いた時もそうでしたが、こういう男には、またしても、「大人しく殺されてあげればいいのにぃ~!」とか、思う私(笑)

この蛇の化身なんて、今まで誰からも優しくされたことのない可哀想な女で、だから、たとえ「正体が何であれ構わない」と、男がこの女の魂こそを哀れみ、命を惜しまずに愛しく思ってあげさえすれば、何も怖い思いをせずにすんだと思うんですよ。
べつにいつも蛇の姿をしてるわけじゃなくて、最初は若くて美しい娘だったし。
そもそも、男が薄情だから正体を現してしまうんですよね。

…というか、この男はべつに、その蛇のお嬢さんを愛していたわけでもなさそう。
ただ、若くて美しい娘を夜な夜な抱きたかっただけなのね。 だから愛と恐怖の葛藤なんかもありません。つまりは・・・、
男は若くて美しく、しかも新しく現れる女が好き! 
という、この本能が、つくづくと身の破滅を呼んだりするわけね。

まあ、それにしても、愛は死の恐怖に(たまには)勝つこともあるけれど、そういった「男の本能」にはてんで根性がないらしい。
待ち続けて死んでしまった貞淑な奥さんも、初めて人から優しくされて喜んだ蛇のお嬢さんも、なんだかこんな男には勿体無い。

ああ、突然だけど、なんだか「マノン」の、あの一途なデ・グリュー君が、すごく良い男に思えてきた(笑)

それにしても、この舞台で、「女はみな、その胸の中に、蛇を飼っている」というような台詞があったけど、それはどうなんでしょう?
女がどうこうじゃなくて、今はやっぱり個人差じゃないかしら?
私なんかは、その執念深さが足りなさ過ぎて、いたとしても、蛇というより糸ミミズくらいだと思うんですけど(笑)

今はこの物語の時代と違って、女は男にすがらなくても何とか生きていける。
すっかり男女平等とまではいかない世の中だけど、生きるにしても、愛するにしても、この時代よりはずいぶんと選択肢が多くなったし、男女の役割も昔のままではなくなったし。
だから男女の違いって、だんだん様変わりしつつあると思うんですよね。
現代のストーカー事件を見るにつけても、もしかしたら、女性よりもむしろ男性のほうが執念深くて怖いかも?というくらい男の加害者が多いので、心に蛇を飼っているのは女に限ったことではないのかもしれません。

まあ、そう言っちゃ、この手の怪談噺は面白くなくなりますが(笑)
やっぱり化け物や幽霊は女のほうが美しいし、悲しくて、だからこそ、踏みにじられた恨みの姿が凄まじくて、そのギャップ激しく怖いですよね。

なんだかんだと、やっぱり「古典には古典の面白さがある」と思い出させてくれた舞台でした。

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バレエ「ジゼル」

2013年10月19日 15時22分21秒 | バレエ/ダンス

2013/10/
チャイコフスキー記念 東京バレエ団 「ジゼル」(全2幕)@東京文化会館
【振付・演出】J.コラーリ J.ペロー M.プティパ L.ラブロフスキー
【改訂振付(パ・ド・ユイット)】V.ワシーリエフ / 
【音楽】アドルフ・アダン
【指揮】ワレリー・オブジャニコフ
【演奏】東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
【出演】 ジゼル:吉岡美佳/ アルブレヒト:デヴィッド・ホールバーグ/  ヒラリオン:柄本弾
バチルド姫:高木綾/ 公爵:高岸直樹/ウィルフリード:森川茉央/ジゼルの母:橘静子
ミルタ:奈良春夏/ドゥ・ウィリ:矢島まい、川島麻実子/他

バレエはだいたい一年に二度くらいのペースでゆるゆると観てるけど、今年はちょっと多目になって五本目。
なのに感想を書いてないのは、相変わらずの初心者で、バレエの振付や踊りのことをあまりに知らなさすぎて、書けることが限られているから。

というのは今更だけど、私のように、バレエのことを何も知らなくてもバレエは楽しめます。
でも、物語を楽しむために、やっぱり観る前にストーリーくらいは知っておいたほうが良いと思う。
その上で、「バレエは同じ物語でも、振付や踊る人達によって解釈も違うし、観るほうの受け取り方も自由なので、舞台や観る人によってもそれぞれに物語の印象が違って見える」というのが更に面白いんです。
私にとってはそこがバレエの楽しいところ。
初心者には、初心者らしい楽しみ方があるのよね。

その上記を踏まえて、ですが。
私は「ジゼル」を初めて観ましたが、この日の「ジゼル」は予想外で、とても面白かったです!
ダンスを見ているだけで、耳に聞こえぬ台詞が聞こえてくるようでした。
私の観た、この「ジゼル」の感想が一般的かどうかは別として、登場人物の様子が意外だったり納得だったりで魅力的。
それに、バレエにはよくあるシーンですが、物語りには直接関係なさそうな、村の若者達の群舞も素敵でした。
相変わらずの五階席で、天井近くの遠い場所からゆるゆると眺めていると、そこから見る舞台が小さくて綺麗な箱のように見えて、その可愛らしさについ頬がゆるみます。

あ~、可愛いなぁ~! こんな綺麗で可愛い箱が、おうちにもあったらいいのに~!

と、幼児化する私(笑)
だってねぇ~、お仕事から帰ったら、こ~んな箱があって、そこに棲む小人のような妖精さんたちが、「おかえり~!」のダンスをキラキラと踊ってくれたら、きっと癒されるよぉ~?
落ち込んでいる日なんか、「大丈夫だよぉ~」「元気出してね~」のダンスとかさ、もちろん群舞で見たいよね~。
そしたら絶対にニコニコしちゃうよ?

え?、それならDVDでも見てろって?
だめだめ! 小人さんたちは、やっぱり生きてなきゃ~!
なになに? 生きてる妖精さんは「綺麗な心」を食べて生きてるんだから、あたしの処じゃ駄目だって?
ちぇ~っ!! これでもちょっとはあると思ってるんだけど。綺麗な心だってさ~。

なぁ~んて、会話をしていた幕間の休憩時間(笑)

だけど、「綺麗な心? うそうそ!」と突っ込まれたのは、なんといっても、第一幕を観た私の感想のせいだったり。

だってね~、この日のアルブレヒトったら、「本気で恋に落ちて心底ジゼルを愛しく思っている」というわけでもなく、かと言って、「浮気心のほんのお遊びで、純情な乙女をたらし込んでしまいました」というプレイボーイふうでもない。
ただ、「王宮や貴族の間にはない、名もなき珍しい花を見つけたので、つい手折ってしまいました」という、そんな感じ。
彼は公爵の娘でバチルド姫という、りっぱな婚約者がいますが、この日のバチルド姫がなかなか素敵で、良い姫なんだわ!
って、いちいち登場する名に、「この日の」って付けるのもなんだけど(笑)
「アルブレヒトが本当にジゼルを愛していたのか、貴族の戯れだったのか」は、作品によって違うし、バチルド姫も嫉妬深くて性格のきつい女性か、それともこの日のバチルドのように、やきもちは焼くものの、どっちかというと、「自分という婚約者がありながら、純情で可憐なジゼルをだまして二股かけたアルブレヒトにショックを受けている」といった感じに見えたりと、いろいろあるわけで。
だから、あくまでも「この日に、私が思ったそれぞれのキャラ」の話になるわけね。

で、その「この日の」バチルダ姫が良い人そうなので、私は幕間に、
「アルブレヒトはさ~、ただ珍しいお花を触ってみただけで、摘んでもいない。ジゼルにはまだキスもしてないし、ましてやベッドに誘ってもないじゃない。だから、ただ体の弱いジゼルにやさしくしてあげただけで、浮気心なんてこれっぽっちもなかったって、そう言い張って、バチルダを騙し通して許してもらえばいいんだよ~! 」な~んて、言ってたわけよ。
そういうことを言う人の処には、どうやら妖精さんは来ないらしい(笑)

それにしてもよ!
ジゼルは実に純情可憐で、いたいけで、おまけに心臓も弱くて、いかにも儚げな少女。
これは、ジゼルの基本よね?
恋をして、「死ぬほど好き!」と思いつめても、なかなか本当には死なないものだけど、この少女に限っては恋した男性に婚約者がいたと知り、ショックのあまり死んでしまいます。
これがたったの一日の出来事なんだから、展開が早い、早い。
たとえアルブレヒト君が心底ジゼルに惚れていたとしても、ほんの何時間かの短い恋に、「ええ~っ!なんでいきなり死ぬの??」と、悲しみよりも、驚きや戸惑いのほうが大きかったんじゃないかと思う。
それよりも、気の毒なのは、ジゼルの幼馴染のヒラリオンで、お忍びで遊びに来たアルブレヒトが貴族だと暴いてみせたのは、そもそもジゼルを思い、恋心ゆえだったので、この人の嘆き悲しみはアルブレヒトよりもずっと深い。
ジゼルの墓に泣き崩れるヒラリオン。
その後に来たアルブレヒトの、花をたむけて死を悼むその姿とは温度差あり。

可哀想にね~。ジゼルがアルブレヒトに出会わなければ、そのうちジゼルはこのヒラリオンと結婚したかもしれないし、心臓が弱くてもヒラリオンにいたわってもらいながら、平凡にでも、もう少し長く幸せに暮らせたかもしれないのにね。
などと思ったり。
たとえ刹那であろうとも、真実の恋にであい、その情熱に命焦がしたいか。
それとも、大した恋心もない相手と平凡て安穏な日々を求めるか。
まあ、たいがいね、情熱的な恋の日々が「安穏に」何年も何十年も続くわけないんだから、どっちかしかないわけよ。だいいち、安穏な日々じゃ物語にならないし。

ところで、妖精ならぬ、この物語の森の精霊さん、ウィリ達が無理邪気で怖いです。
ってか、まず美しい!
純白のロマンティック・チュチュの裾がふわりと広がる姿も幻想的に美しく、ドゥ・ウィリも加えて総勢26名の群舞は夢のように素敵でした。

で、彼女たちは「結婚を前に処女のままに死んでしまった乙女の精霊」だから、男が珍しくて嬉しいのね(笑)
それで「人間を裏切った男を死ぬまで踊らせる」というのは予習済みだけど、あの哀れなヒラリオンまで死んじゃったのは可哀想。(もしかして、この男はうっかり足をすべらせて沼に落ちただけなのか??)

そこへいくと、アルブレヒト君なんかはウィリの美しい女王・ミルタを見る目がなんか嬉しそうだし、「この男、性懲りもなくまた新しい花に手を伸ばそうとしてるんじゃ?」と思えなくもないし、いっそのこと、そのまま踊り続けてあの世に行ってみたらいかがでしょうか?という気がしないでもない(笑)

そんなこんなで、アルブレヒトの命を助け、朝を迎えて消えていくジゼルは、別れの悲しみよりも「愛する人を守り通した」という満足感を感じたかな、私は。
ジゼルは病弱な少女なので、たぶんこの一件がなくても儚い命だったろうと思うけど、恋した相手に騙されたショックで死んでしまったままでは残念すぎる。
この恋は、たとえ短い時間ではあっても、「愛する人を守り通した」という結末がついて、それは他の誰でもなく、精霊の仲間に入れたジゼルにしかできないことだったのだから、恋の起承転結が美しく迎えられて良かったね! と、思う私であった。

それにしてもアルブレヒト君、これに懲りて、あと一年か二年くらいは浮気せずに大人しくしていられるかなぁ・・・。
無理、無理!
という気もするけれど、あのバチルダ姫には幸せになって欲しいな~。

というわけで、
やっぱりバレエを観ると、最後には、「まったく!男ってやつは~っ!」という感想にたどり着いちゃうのはいつものことよね(笑)

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音楽劇「ヴォイツェク」

2013年10月14日 01時45分05秒 | 観劇(ミュージカル/音楽劇)

巷では相変わらず凄惨な事件が続き、ニュースを見る度に暗い気持ちになりますね。

あなた自身はどうですか? たとえば、人を殺したことがありますか?
ないでしょうね。「ある」と言われても困りますけど。

では、夢ならばどうでしょう?
あなたは人を殺したり、殺される「夢」を見たことがありますか?

私は、あります。

「Ladies and Gentlemen!(紳士、淑女のみなさん!)」

舞台には、愉快で楽しい夢、ロマンチックな気分になれたり、スカッとしたりするような、そんな幸せな夢ばかりを見に行けば良いものを、人は何故わざわざと、暗い物語や、ホラーだのやサスペンスの恐怖の物語、あるいはこの舞台「ヴォイツェク」のような、全く救いのない、そんな「悪夢」を観に行きたがるのでしょう?
私の場合は・・・
早い話が、「主演が山本耕史さんだから」、ですけど(笑)

そんなわけで、衝動的に行ってきました、久しぶりの赤坂ACTシアター。

   
2013/10/12 
音楽劇 「ヴォイツェク」 @赤坂ACTシアター

【原作】 ゲオルク・ビューヒナー
【脚本】 赤堀雅秋
【演出】 白井晃
【音楽】 三宅純
【出演】 山本耕史/ マイコ/ 石黒英雄/良知真次/ 池下重大/青山草太/半海一晃/春海四方/ 真行寺君枝/ 今村ねずみ/団時朗

この物語は「1821年にライプツィヒで実際に起こったヨハン・クリスティアン・ヴォイツェックによる殺人事件が題材」で、その犯人の2年以上に渡る精神鑑定書をもとに書かれたものだとか。
ヴォイツェクは数年来の激しい気分の落ち込み、心臓の動悸、様々な幻聴に悩まされていたそうです。
その精神障害の原因は、下級兵士である貧困と過労、そして絶望のゆえなのか・・

「紳士、淑女のみなさん。」と呼ばれる観客たちを客席に縛り付けた、休憩なしの135分間。
平凡な暮らしをしている私達に見せた、その絶望の「狂気」とは、いったいどのようなものだったのか・・・

ヴォイツェクは「僕は、あの女以外に何も持っていない」と言います。(台詞はいつもの、うろ覚えですけど)
そして、彼は籍を入れてない妻・マリーのために、下級兵士の給料では足りずに上官の髭剃りだの、怪しげな医者の人体実験の被験者になったりと、寝る暇も惜しんでわずかなお金を稼ぎます。
私は彼の精神障害って、その過労のせいもあったと思うんですけど。

でも、そのわりには、というか、それにしても、この新婚の男女(ですよね? 会ってまだ二年というから)は、ちっとも幸せそうじゃありません。
兵舎とは別に住む母子の元にお金を届けにいくだけで、すぐに帰ろうとするヴォイツェク。
妻と親しく話しもせず、スキンシップをするでもなく、子供を可愛がるわけでもない。
あれではマリーも、愛されている実感がないどころか、孤独だったのではないかと思いますが、そうして彼女は浮気をします。

まあ、ですから、これは楽しいエンターテイメントには全くならない、とても暗い話なんですけどね、女房に浮気をされる前から彼は、「あの世にも、この世にも救いがない」と言う人だったので。
生きていて何の楽しみもない人で、ただ、ひとりの女以外には「何も持っていない」と言うならば、もっと奥さんに愛情を示せば良かったのに・・・なぁ~んていう次元を超えているほどに、最初から頭もおかしいです。
もともと精神障害がありそうな人なんで、正常な人間がある日突然に逆上してしまい日常が崩れていく物語でもないし、つまり、実にじわじわと陰鬱です。
決して、面白い話じゃないです。そういうのとは違います。
なので、私はこの物語の途中で、「私はなんでこの舞台を観に来てしまったのかな?」と思ったくらい。
それで、「そうだ、山本耕史さんを観に来たんだ。彼の狂気を見たかったんだ。」と、心の中で自分に言い聞かせ、ひたすらクライマックスを待ちました。

そのクライマックスといえば、だから殺人事件ですから、ヴォイツェクが妻を殺すシーンというのは最初から知っていました。
そのシーンは、セットの背景の壁がその場で昇って取り払われ、「あっ!」という景色です。
それまでに、じわじわとたまり続けた狂気がついに溢れ出し、その中に浸り、溺れるように妻にナイフを突き刺すヴォイツェクの姿に息を呑み、その狂気の中にも、まだナイフを隠そうとする、「残された正気」に私は涙が流れました。

そうなんですよ。
観ていたあの時はわかりませんでしたが、これを書きながらわかったような気がします。
私が涙したのは、たぶん、彼の狂気ではなくて、わずかばかりの、ほんのわずかに残された正気のせいかもしれません。
あんなふうにナイフを投げても、隠したことにはならないのに・・・。
それでも、とっさに犯行を隠したいと思う程度には、まだ完全に狂っていないのが哀れとさえ思う、あの絶望の、救われぬ姿・・・

それで、家に帰ってから調べたのですが、精神鑑定の結果、実際にヴォイツェクは幻聴などの精神障害はあるものの、「責任能力あり」ということで死刑になったのだそうです。
この舞台のラストにはわからない事でしたが。
やっぱりそうなんだな、というギリギリの異常を演じた山本耕史さんは流石だと思いました。
今までにない役だったとは思いますが、どこかの場面で、思わずサリエリを思い出したのが、ちょっと意外。
全然違うキャラなんですけど。
正常の中にわずかな狂気を宿す人と、異常の中にわずかに正気を残す人。
全く違うようだけど、どこか似てるのかも?

「山本耕史さんは、よくもまあこんな難しい舞台に挑んだな」と思いました。
そして、「よくもまあ、こんなご時勢に、このようなお芝居を、ACTシアターのような大きなハコで上演したものだ」
とも。

ところで、余談ですが。
私が昔に見た、「殺される夢」の話ですが、ナイフの切っ先を向けられて、夢の中の私は思います。
「ああ、そうだったのか、そんなに思いつめて憎まれ、殺されるほどに自分は愛されていたのだな」と。
まあ、そう書くと、すごいナルシストみたいですけど(笑) なんか、自分が悪いと思ったんですよね。
ドMの基本だったり(笑)
それで、そこまでに至った相手を気の毒に思い、「殺されて仕方ない」と、目を閉じたんです。
ほとんどビョーキ
ところが・・・
っていう話で、この夢には次の瞬間に「えっ?!」という展開があり、それがまた更なる別の悪夢に続いたので・・・というのも、結局ナイフを突き刺して殺してしまったのは私のほうだったので、目が覚めた時には、「夢で良かった」と、心の底からほっとしました。
今思い出しても、あの夢が全くのフィクションで幸せだと思えるくらいです。
だから、現実の「こちら」には無い、「悪夢」の話。
平凡に暮らす「Ladies and Gentlemen」には有り得ない・・・決して有ってはいけない、そういう夢の話です。

「ヴォイツェク」は、繰り返して言うのもなんですが、いわゆる「面白い話」とは違うと思います。
けれども、私にとっては、この先、何かにつけて度々思い出す舞台のひとつになりそうです。

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「SONG WRITERS」 初日 

2013年10月07日 01時17分28秒 | 観劇(ミュージカル/音楽劇)

2013/10/05 @シアタークリエ
【脚本・作詞】森雪之丞
【演出】岸谷五朗
【出演】屋良朝幸/中川晃教/島袋寛子/泉見洋平/藤林美沙/植原卓也/平野良/コング桑田/武田真治/他

「日本発、世界を席巻するスーパー・ミュージカル!」

と公式サイトで宣言するからには、やっぱ海外公演をも視野に入れた作品なのかしら?
だって、「日本から発進して、世界中に片っ端から広ろがっていく、飛びぬけて素晴らしいミュージカル!」っていう意味でしょ?(と、なぜ訳すか?!)
で、だったら、どうする?(と、誰に聞くか?!)

あ、だけど、海外公演については、まだ具体的に耳に入ってきてないですよ。
私は知りませんからね、まさかとは思うけど、これを読んで早とちりしないでくださいね。

え~っと・・・・

この舞台って、ネタバレは厳禁かな?

秘密、秘密、秘密…

これはキーワードでもあるし。

そういや、岸谷五朗さんの演出といえば、「X Day」の時も開幕前から秘密、秘密と言っていたので、私も感想を最後まで秘密にしたんだっけ・・・
口数多いようだけど、これでも私、案外と秘密には口が堅いので。
なので、今回も、物語や演出の感想には最後までネタバレしないように秘密にします。
書くと、私はすぐにネタバレするしね~。
なので、「あなたの見てのお楽しみ」、ってことで。

それ以外の感想ならば、あっきーファンとしては、
あっきーが踊っているよ!楽しそうだね~!良かったね~!
というのも「X Day」の時と同じだけど、今度はあの時以上にたくさん踊っているからそこはファンの見所ね。
「気弱なキャラ」というのには、気弱というよりも、私には随分と「この年頃のアメリカ人にしては(日本人にしても)幼い人すぎるんじゃないか?」とか思ったけど、あっきーファンは「可愛いあっきー」が好きな人が多いから、みんなとても喜ぶと思う。
屋良くんは、私はジャニーズにとても疎いので、失礼ながら初見ですが、バランスの良い方ですね。
ダンスが上手な方だと聞いているので、次はあっきーばかり見てないで、屋良くんのダンスもしっかり見ようと思います。

楽しみにしていた歌は、スピーカーの正面の、わりと端っこにいたせいか、(舞台は隅々までよく見えたけど)楽器の音が大きく聞こえて、どの方の歌も歌詞があまり良く聞き取れなかったのが残念(って、まだ難聴じゃありません!)
これは回数観ているうちにわかるんでしょうけど。
歌詞はパンフレットにもいくつか載っていたけれど、せっかく一流の作詞家さんが書いた歌詞なんだから、音楽に乗ってこそのそれを次は楽しみにしたいです。

この舞台、初日から大千秋楽まで約一ヶ月半と、今どきの舞台にしては長丁場なので、みなさん、怪我に気をつけて、体調を整えながら最後まで頑張って欲しいです。

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映画「謝罪の王様」

2013年10月05日 03時31分37秒 | 映画

【脚本】宮藤官九郎
【監督】水田伸生
【キャスト】阿部サダヲ/井上真央/竹野内豊/ 岡田将生/尾野真千子/荒川良々/濱田 岳/松本利夫/高橋克実/松雪泰子/他

この映画を見て笑い転げたい!そして、できればちょっとは感動とかもしてみたい!
何よりも、、「謝罪の極意」とやらを、ぜひとも教えてもらいたい!

とか思ったのは、今年に入ってから「ごめんなさい」とか、「申し訳ありません」とか、謝ったり謝罪文を書いたりするのがやたらに多くなって(って、仕事のうえでだけど)、もうほんと!情けなくて嫌になっちゃう毎日なんだもの。
それがまた、「べつに私がミスしたり、悪かったわけじゃないんだけど」ということばかりでね~。
とか内心思っていたりすると、謝っても逆に火に油を注いでしまうし

そんなこんなで、これは公開すぐの、先週の土曜日に見に行った映画です。 

  

期待通りに笑わせてもらいました!!
面白かったです!!

うん、でも、笑いながら、本当に「謝罪の極意」がわかったかも。
「ごめんなさい」って、表面上で言っても伝わらないのよね。
何で謝るのか理解すること、どう謝るのかはすごく大切。
そういうことがわかってないと、かえって相手を怒らせてしまう。
謝れば謝るほどに、いっそう墓穴を掘っていく駄目な相談者役の皆さんと、謝罪師の阿部サダヲ氏とのやり取りが、ほんと笑えます!


ところで、私はすぐに謝ってしまうほうで、それも毎回と結構本気で謝っていますけど、思えば、ほとんど人から「ごめんなさい」を言われたことがないみたい。
だって、めったに怒らないから。
特に最近じゃ、こっそりと文句や愚痴を言っていても、「絶対に怒らない人」「何があっても切れない人」と周りから言われるようになったのは、たぶんそれは、私がすぐに他人を許してしまったり、ミスをする人に親近感を覚えたり、駄目な人や失礼な人を面白がってしまうからなんでしょうね。
でなければ、もしかしたら、「人に謝ってもらうほど、自分には価値がない」とか「大切にしてもらうような人間でもありません」と、どこか諦めちゃっているのかもしれないな・・・・。

あ、なんか書きながら、だんだん自虐的にどんよりしてきた(笑)
う~ん、でも、「ごめんなさい」と言わせる、その状況自体、ないほうが良いに決まってる。
「人として許せない」ことは、絶対に許せないと思うしね。


それにしてもよ!
この脚本が面白いっていうのもあるけれど、阿部サダヲさんがほんとに面白いです!
私は声を出してたくさん笑って、すっきりしました!
それに、胸にじーんときて、うっかり涙ぐんだシーンもありました。
「ごめんなさい」を言って、許される人も、許すほうも、どちらも楽になるのが、見ていてなんかほっとするし。

土下座を超える謝罪とは、果たしてどんなものか?!

小さな「ごめんなさい」から、国家レベルの謝罪もあり、オムニバス的にいろいろなシーンがアチコチで繋がっているストーリーも面白く、ラストのダンス・シーンも楽しかったです。

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