上村松園展(東京国立近代美術館)
上村松園は明治8年京都で生まれ、12歳で京都府画学校に入学し、並行して鈴木松年塾にも通い15歳にして第3回内国勧業博覧会に「四季美人図」を出品、25歳には日本美術院連合絵画共進会の銀牌を受けるなど、ごく若い頃から頭角を現した女流画家です。
次々と気品あふれる人物画を生み出したのちは、73歳で女性として初めて文化勲章受章を受賞したそうです。
…という、詳細は↓この展覧会HPでご覧になって下さい(笑)
http://shoen.exhn.jp/index.htmlこの展覧会のHPは記事がわかりやすく、その文には作品への深い理解と愛情が感じられてとても良いですからご興味のある方はぜひ覗いてみてください。
そして会場では「音声ガイド」を借りることをお勧めします!
この美術館や博物館でよく貸し出している「音声ガイド」ですが、私は基本的には借りないことにしいてます。
何を見るにしても予備知識がなくていちいち初心者の私には「音声ガイド」があると詳細な説明が得られて良いことは良いんですが、時々どうにもその話し声が煩くて作品を感じることに集中できないような気がします。
どうせ専門的な話なんて右の耳から左の耳へ抜けるし(笑)
心を表現したような作品であれば、背景を何も知らなくとも何かしら心に訴えるのではないか……と、思ったりもします。
それで最近は展覧会の会場内の説明文だけで(これはもちろん読みますが) あとは作品を見るとこに集中するために「音声ガイド」は借りないことにしていますが、この上村松園展の音声ガイドは女優の原田美枝子さんが録音しているというので珍しく借りることにしました。
ちなみに料金は500円です。
原田さんのガイドはとても静かな語り口で声も美しく、小うるさい説明などで興醒めさせられるどころか、むしろイマジネーションを豊かに膨らましてくれるような、素敵なガイドでした。
この展覧会は、美術館らしくシンプルで淡々とした作品の展示の仕方とか、パンフレットや公式ホームページ、そしてこの音声ガイドといい、上村松園さんの作品に相応しく全体的に洗練されていたように感じられました。
上村松園さんの作品に現れる人物はどれも女性ばかりです。
松園さんは、美しいばかりの女性を描こうと思ったことは一度もないと言ったそうですが、彼女の作品はみな女性の内面を深く掘り下げたものばかりでした。
体の曲線やポーズ、衣装や小物、そして何よりも主人公たちの僅かとも言える微妙な表情により、作品の背景やその中で生きる彼女たちの心の揺れまでもが感じられます。
写生の段階では生々しく写し取られたそれらの人物も、実際に作品として描くときは表現としてその生々しさを抑えているとのことでしたが、だからこそかもしれませんが私にはどの作品にも生々しい命を感じました。
彼女の代表作といえば「序の舞」と言えそうですが、松園さんの理想の女性像とは、その作品の中の女性のように、ただ美しいだけではなく意地や張りのある女性、そして「意志を感じさせる女性」であったそうです。
あ、だから私は好ましいと思うのか(笑)
粋な艶かしい美人画を見るのも良いですが、生きた女性をそこに見るならば「意志を感じさせる女性」というのは私も好きだと思うので、だから上村松園の作品に魅力を感じるのかもしれません。
展示された作品はどれも素晴らしいものばかりですが、私が特に魅せられた一枚を挙げるとしたら写真にUPした「花がたみ」。
これは原田美枝子さんの音声ガイドを借りて良かったと思いましたが、それを聞きながらじっくり見ていたらウルウルくるものがありました(笑)
この「花がたみ」の女性は狂女です。
恋に狂っている様子はその表情と衣類の乱れでひと目でわかりますが、ガイドによると世阿弥元静の謡曲“花筐”という物語から取り出されたものだそうで、その物語の概要が聞けてとても良かったです。
この女性、照日前は愛する大迹皇子が帝になるために彼女をおいて京の都へ上ってしまったために、恋しさのあまり狂ってしまいます。
絵になったシーンは、恋狂いの照日前が紅葉狩りをする帝たちの一行の前へ立ちはだかるというシーンです。
紅葉がはらはらと舞う中で、照日前が手にしているものはかつて皇子から送られた花かごと手紙です。その表情は、私にはどこかうっとりと幸せそうにも見えます。
松園さんはこの作品を描くために精神病院を訪れ、患者たちと接してスケッチをしたそうです。
その時、心を患った人の顔とはどこか能面と似ていると思ったそうで、能面のスケッチも数多くしたといいます。
ですから照日前の表情は能面と通じるものがあり、うっとりと幸せそうであっても寂しげで、どこか悲しみが潜んでいるようにも思えます。
能面のような照日前の顔は決して美人には描かれていませんが、とても美しい作品でした。
話が思いのほか長くなってしまいましたが(笑)音声ガイドの最後のエピソードが気に入ったので忘れないように書いておきたいと思います。
当時の日本画では「東の鏑木清方、西の上村松園」といわれ美人画の双璧をなした清方氏に、晩年の松園が「私の一生は姉さま遊び(お人形遊び)をして過ごしたようなものです」と言った時、それに応えて清方氏はこう言ったそうです。
「お遊びにしても、随分と偉大な遊びをなすったものですなぁ…」