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おおるりが赤裸々に綴る脱線転覆の感想記!(舞台やライブの感想です)

映画「長いお別れ」

2019年06月30日 15時41分27秒 | 映画

映画「長いお別れ」 2019.6.3

監督:中野量太
原作:中島京子 
出演:蒼井優 竹内結子 松原智恵子 山崎努

この日は蒼井優さんが例の結婚会見をする前でしたが、ちょうど朝に映画開幕の会見などがTVで放送されたせいか、平日の昼だというのに映画館は満員でした。
その時間帯だからか、それともたまたまだったのか、その観客の多くが(もしかして、ほぼ全員が?)私よりも年上の、お元気な高齢者の皆さんだったというのが驚きであり、少しだけ残念でした。この映画は、ご高齢の方達だけでなく、もっと下の世代の方にも見て欲しいと思ったので。

この映画は決して暗くはないし、劇場内で笑い声が上がる場面が何度もあります。
その屈託のない笑い声を聞きながら思ったのですが・・・
誰でもが「認知症にはなりたくない」と思いながら、でも「自分だけは大丈夫じゃないか?」と楽観しているのかもしれません。
病気が進むにつれてトンチンカンな言動をする「お父さん(山崎努さん)」に、観客が思わず笑ってしまうのは、「映画が楽しめるくらい元気なのだから、今のところは痴呆や介護がまだ他人事なんだろうな」という気がしました。
でなければ……つまり、今の私のように介護の当事者でもなお笑って見ていたのだとすれば……、もしかして、長生きするにはそういう逞しさ、深刻にならずに日常を笑って過ごせる朗らかさや大おおらかさが大切だということかもしれません。

でも、7年かぁ……。

正直言って、その7年はさぞかし大変だったろうと、介護のリアルな現場を思う私です。

この奥さん(松原智恵子さん)の苦労が、どれほどなのかは映画では見えません。
介護サービスを受けるにしろ、入院の手配をするにしろ、いちいち色々と考え、選び、判断し、申請書などの書類をそろえて書くのも想像以上に大変です。
私の実家では姉にすっかり任せてしまっていますが、この家族でそれをしたのは奥さんだったんでしょうね、やっぱり。
画面からは伝わらない苦労のあれやこれや……介護につきものの「臭い」までもをリアルに想像して、「笑える場面」に、私はひとり笑えなくて、ついマジ顔で見てしまいました。
認知症特有のトンチンカンな言動の父親も、お漏らしをした父親に「恥ずかしがらなくていいから」と声をかけて汚れた身体を洗ってあげようとする次女の姿も、実家に遠い場所で何もできずにヤキモキと心配する長女も、どのシーンも、私にとっては、それが「切ない」とも思えないほどに日常です。

なので、もし、認知症になるのがどうしても避けられないというのならば、この家族のお父さんの状況は、滅多にない理想的な状況かも?とも思います。

年を取ってもなお可愛らしく、美人でしっかり者の妻がいて、愛情をもってやさしく世話をしてくれています。
松原智恵子さんは、たとえボケてなくても何度でもプロポーズしたくなるような素敵な奥さんでした。(これがまず珍しい!)
二人の娘達は同居していなくても、何かと気にかけ実家に帰ってその母を助けます。

若い時代には人から尊敬されるような職業につき、大きな家を建てて裕福な老後を過ごし、記憶を失っても、やさしい家族(しかも美人揃い)に囲まれながら、最後に家族から愛されて温かく介護されて逝けるというのは、男性にとって幸せかもしれません。まあちょっと、これほど美人揃いに囲まれて、っていうのは贅沢すぎる気もしますけど(笑)7年という長い時間をかけての「お別れ」ができたこのお父さんは、家族に愛された幸せな人でした。
ラスト間際の遊園地のシーンは冒頭の伏線で想像できてしまったとはいえ、現代だからこその心温まるファンタジーとも見えました。

ところで、先ほど、「この映画は、(高齢の方達だけでなく)もっとその下の世代にも見て欲しい。」と書きましたが、この映画で痴呆や介護に直面するのが女性ばかりだったというのも、少しばかり残念です。
というのも、私の実家もこの映画の家族のように両親と娘二人の家族ですが、世の中はいろいろな家族があると思うんですよね。
この「長いお別れ」は、病気を考えたり介護の様子を描く物語というわけではなくて、何よりも、娘達や孫も含めての、家族それぞれの人生を思う映画だったので、だからこそ、息子がいても良かったんじゃないかと思いました。
蒼井優さんや竹内結子さんは、それぞれに悩みを抱えて生きている娘達を好演していて、思った以上に良かったので文句はありませんが、どちらかが当世大人気のイケメン男優さんならば、もっと若い世代の方たちも興味を持って映画館に足を運ぶかもしれないし。

子供がいてもいなくても、結婚してもしなくても、男でも女でも、誰もが認知症になるかもしれないし、そうならなくても介護が必要な状態になる可能性があるはずです。
これから社会が深刻な高齢化にすすむこともあり、いずれ皆が当事者となります。
それでも幸せに、おおらかに笑って暮らせたらどれほど良いか・・・。
ワクワクドキドキする冒険劇やロマンスも良いですが、もっと現実に近い話を、さまざまな年代、さまざまな立場から描く物語が今後はもっと出てきても良いかもしれませんね。できれば、この映画のようにどことなくユーモアがあって、最後には心温まるような良作が見たいです。

 

それにしても……
我が家も両親共に要介護状態となってから八ヶ月が過ぎました。
「まだ、たったの八ヶ月間」と言うべきかもしれませんが、この間、姉は平日のほぼ毎日を通い、私は会社勤めをしながら毎週土日に泊り込んでの介護という生活に、だんだんと疲労とストレスが蓄積しつつあります。

両親はここ数ヶ月でそれぞれに治療不可能な癌が発覚し、老人性認知症の初期症状も進んできました。
そろそろ自宅での生活に限界が来ています。
その先のプランはしっかり者の姉が調べてくれて相談中です。
さあ、どうなることやら……。

その心配をしつつも、

ああ、休日に自由に遊べる人が羨ましい!私も旅に行きたい、出かけたい~!!
なんて、、、「どの口が言うか
とか、言われそうなほど、ちゃっかりと(でも、姉には内緒で)こんなふうに映画を観たり、ライブやコンサートには出かけている私です