今宵も劇場でお会いしましょう!

おおるりが赤裸々に綴る脱線転覆の感想記!(舞台やライブの感想です)

映画「怒り」

2016年10月10日 17時41分29秒 | 映画

映画「怒り」 2016/09/20
【監督】李相日
【原作】吉田修一『怒り』(中央公論新社)
【音楽】坂本龍一
【出演】渡辺謙/森山未來/松山ケンイチ/綾野剛/広瀬すず/佐久本宝/ピエール瀧/三浦貴大/高畑充希/原日出子/池脇千鶴/宮崎あおい/妻夫木聡/他

「喜怒哀楽」という熟語がありますけど、人間の感情にはもっと沢山のものがありますよね。
愛とか憎しみ、恐怖や驚き、憧れや諦めとか・・・まあ色々とありますけど、人の感情にはどうしても一言(ひとこと)では言い表せないものがあります。
その「言葉では言い表せない感情」が溢れてしまい、どうしようもなく抑えきれない時、人はどうしたらよいのでしょう?
ある人はそれを音楽にし、ある人は絵を描き、ある人は詩を書いたり小説を書いたりできるかもしれない。
また、ある人は踊ったり、歌ったり、走ったり・・・そんな風にできない人は、だだ笑ったり泣いたり叫んだりするしかないのでしょうか。

この映画で私が受け取った感情は、「怒り」というよりは、もっとずっと複雑な、一言では言い尽くせない感情で、けれどもあえて一言で言うならば、「やり切れない思い」でした。
自分ではどうしようもなく、成すすべのない、「やり切れない思い」は、生きていれば誰だって経験します。
そこには、思い通りにならない他人、思い通りにならない自分、思い通りにならない人生があります。

男は、なぜ、罪も無い人を惨殺したのか? 
壁に残された「怒り」は、何に対する怒りだったのか?
そして、彼はいったい誰で、何処にいるのか・・・? 

沖縄、東京、千葉に現れた、得たいの知れない男たち。
今まで何処にいたのか、何をしていたのかわかりません。
三人の男達と、それぞれに関わる人々、それぞれの物語を、同時進行で交互に見れば見るほどに、誰もが怪しい気がしてきます。
時折出で来る犯人のモンタージュ写真は、見ようによっては、森山未来君にも、綾野剛君にも、松山ケンイチさん(何故にこの方だけ「さん」付け?)にも見えるから不思議です。
・・・とか思っていたら、映画で使われたモンタージュ写真は、シーンによって微妙に調整されて複数あったのだとか! すっかり、はめられた私は、モンタージュが出で来る度にまじまじと見てしまいました。
でも、モンタージュ写真はともかくとしても、男達の様子からしても、やっぱり最後のほうまでは誰が犯人かわかりませんでした。
まあ、もともと推理小説の犯人当ては苦手な私ですが、「この三人のうち、犯人のそばにいる人が、決定的に傷ついてしまうのだろう」とは予想していました。
結局は男達に関わった人々は皆傷ついてしまうのですが、私が傷ついて欲しくないと思った人までもが傷ついてしまったのが、本当にやり切れなかったです。

それにしても、この映画の役者さん達は、もうみんな凄い演技派揃いで! 脚本も良かったですが、その脚本を超えていそうな迫真の演技が皆さん素晴らしかったです。
「素晴らしかったです」と一言で言うのも、なんか芸の無い感想ですが、何ていうか、「痛い」んですよね、それぞれから伝わってくるものが。
人を信じられなくて傷いた者の心の傷は、奥深く染み込むようにじわじわと、、信じて裏切られた者の傷は、抉られたそれが踏みにじられるほどに激痛として伝わりました。
もしそれぞれの傍らにいたとしたら、慰めの言葉も見つからないと思います。 非常に衝撃的でした。

衝撃的といえば、妻夫木くんと綾野剛くんの出会うシーンも衝撃的でした。特に妻夫木くんは、この前に見た「殿、利息でござる」とのあまりの違いで! そのギャップに、見ていてオロオロ(笑)。
二人とも、役柄の幅が広い方で、この先彼らが40代50代と、どんな役者さんになっていくのか楽しみです!

広瀬すずちゃんは、・・・ああ、もう何も言うまい! この難しい役柄をを、ただただ、頑張ったね、と言いたい。
松山ケンイチさんの抑えた演技も、宮崎あおいさんの迫真の叫びも、森山未來くんの爆発するような衝動の姿も、もうどの方の演技も素晴らしくて、やり切れない痛みが伝わってきました。その中でもひと際、渡辺謙さんの静かなる存在感が半端ないです!

ところで、エンドロールを見てから知ったのですが、この映画の音楽は坂本龍一さんだったんですね。 
この映画では、三人の素性の知れない男を巡って、それぞれのシーンで海の景色が印象的ですが、そこに流れる音楽が、最初の頃にはエリック・サティのように物憂げで、最後のほうでは映画「ガタカ」に流れたマイケル・ナイマンのピアノのように切なく、物悲しいと思いました。
と、思ったら、マイケル・ナイマンや、坂本龍一さんの、特にこういった反復する音楽は「ミニマル・ミュージック」というそうで、どうやらサティもそのつながりの元にいたようです。
とても抽象的であり、心の奥底に潜りこんでくるような魅力があります。
映画自体も音楽も、しばらく胸に残りました。

坂本龍一 feat. 2CELLOS 『M21 - 許し forgiveness』(映画『怒り』主題曲)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【2017年観劇・ライブ・映画... | トップ | スガフェス!~20年に一度の... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画」カテゴリの最新記事