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おおるりが赤裸々に綴る脱線転覆の感想記!(舞台やライブの感想です)

いつかどこかで(76)嶺月

2020年01月19日 22時26分11秒 | いつかどこかで(雑記)

冬の窓 見えねども明るし 金の嶺月  (煌月)

父の名を嶺月(れいげつ)と言います。
これは本名ではなくて、雅号です。
華道の師範だった祖父が付けたその名を、父は趣味の鎌倉彫、書道、和歌や俳句などを嗜む際に使っていました。
嶺は、山の頂上を意味します。

令和2年1月15日、父が他界しました。

私は、去年の仕事納めの日に父が緊急入院してからしばらくは、東京と横浜を行ったり来たりの毎日でした。
一時は「もしかしたら年は越せないのではないか」と危ぶまれましたが、何とか新年の挨拶ができました。
正月休みも終わり、私は新宿の職場に出勤し、姉が緩和ケアの病院に転院する手はずを進めはじめた頃の1月10日、病室の窓から見えた満月がとても美しかったので、スマホで映して起き上がれぬ父にその画像を見せました。
「お父さん、今夜は満月がきれいだよ。山の上の月だから嶺月だね、お父さんの名前と同じだね。」
父はその頃はもう喋れませんでしたが、意識はしっかりしていたので、目を開き頷いてくれました。
表題の写真はその時のものです。
冒頭の下手くそな俳句は私が作ってみました。煌月(こうげつ)は私のペンネームのひとつです。

父は鎌倉彫でたくさんの作品を作りましたが、作品の出来栄えは素人にしてはなかなかのもので、その手先の器用さやセンスの良さ、こつこつと続ける根気良さは姉が受け継ぎました。
一方、俳句や川柳、高齢者向け雑誌への投稿文などは趣味にしても人様にお見せできるほどではなく、それなのに「下手の横好き」で何かと書くのが好きだったところなどは、私がそのままに受け継ぎました。

父は真面目で心正しく誠実で、草花を愛でる風流な人でした。
無口で感情を露わにすることなく、私達姉妹に手を上げたり怒鳴ったりは一度もしませんでした。
日本酒が好きで(これも私が受け継ぎました)、いつからか(たぶん、姉がお嫁に行った後くらいから)、晩酌で酔うと私にだけは冗談で法螺(ほら)を吹くことがよくありました。
くだらない法螺話なのですが、私が容易く騙されて「え~っ!そうだったの~?!」なんて驚けば、すぐに「嘘だよ」とにこにこと笑った父。「やだ~、また騙された!」などど、二人で笑い合う時間が好きでした。

荼毘に付す際、棺には父が集めた御朱印と、たくさんの賞状と感謝状を入れました。
その中には、赤十字からの感謝状もありました。9年前の東日本大震災のおり、自分のポケットマネーから多額の寄付をしたそうです。金額は誰にも教えてくれませんでしたが、被災地の方々の役に立ったなら、娘としても嬉しいです。

……などど、父は奥行き深い人だったので、思い出話を書き始めるときりがありません。
父が若い頃は、日常会話に不自由ない程度には英語が話せる人だった…などとは、ここ数年に知ったことでもあります。

で、
父が15日に亡くなり、4日ほど経ちましたが、私はまだ泣いていないし、あまり悲しいとも思わないんですよね。
父にはもちろんですが、あれこれと手を尽くしてくれた姉にも、言い尽くせないほどに感謝の気持でいっぱいです。
今はその気持ちが強いです。
私は去年の初頭に「私の出来ることが、ちゃんと出来ますように。」と誓いを立てたものの、私の出来た事は姉の100分の1どころか、1000分の1にも及びませんでした。
細やかに父の世話をする姉の姿は神々しくさえ見えました。
姉もまた、通夜でも葬儀でも涙を見せませんでした。父を見送るまでに「出来る事はすべてやった」という、ある種の達成感のあと、疲れと悲しみが来るのは今後なのかもしれません。

さて、この場に少し相応しいお話をするとして。

この1月は、手元に観劇のチケットが3枚あって、そのうちの2枚が「フランケンシュタイン」、1枚は「シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ」でした。
父が逝ったのが「シャボン玉」の観劇日でしたから、これは空席になりました。
噂にきく名作で、しかも久しぶりに観る井上芳雄さんご出演の舞台を、とても楽しみにしていましたが仕方ありません。

両親の老いを強く感じるようになってからの、ここ10年ほど、半年前、三ヶ月前、一ヶ月前の舞台でさえ、チケットを買う際に「この舞台が無事に観られますように」と祈らずにはいられませんでした。私にはまだ母がいるので、その日々は続きます。

劇場の椅子に座れるのは、「健康であること、好きなものに費やすお金があること、自分のための自由な時間を持てること、楽しむ心の余裕があること」と、前に書きましたが、
「他に優先すべきものが無いということ」でもあります。
今はただ、それを胸に刻んでおきたいと思います。

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