Ruby の会

シニアライフ~能楽・ボランティア・旅行・食べ歩き・演劇などを綴っています

一本の無署名記事から~映画「嘘を愛する女」

2018-02-20 | 映画・テレビ・演劇・芸能

 ~~「夫はだれだった」。一風変わった見出しの記事が27年前、本紙の朝刊(東京本社版)に載った。その年に病死した自称医師の山森将智家(まさちか)なる男性が、実は正体不明の人物で、5年間連れ添った女性が途方に暮れているという内容だった。
 作家辻仁成(ひとなり)さん(58)は記事に触発され、「存在証明」という随想を著す。山森氏が偽の身分証のほか、原稿用紙700枚に及ぶ未完の小説を残したことに着目し、「自分の存在を100%創作したのか」と推理した。
 この随想を高校時代に読んだのが映画監督の中江和仁さん(36)。大学に進み、記事をネットで探すが見つからない。ようやく国会図書館で発見する。奇談をいつか映画にしようと構想を温めた。自ら脚本を書き直すこと100回以上。10年をかけた企画が応募474作品という映画コンペを制する。中江さん自身が監督して映画「嘘を愛する女」に結実した。なぞの研究医役を高橋一生さんが、彼の正体がわからずに苦悩する恋人役を長澤まさみさんが演じた。
 「僕の書いた記事がもとになったのでは」。映画館でそう直感したのは本紙の石橋英昭記者(53)。いまは東北の被災地を取材する編集委員だ。「奇妙すぎて忘れがたい一件。あの記事から映画が生まれるとは。記者冥利に尽きます」
 一本の無署名記事が、随想を生み、脚本を生み、映画を生んだ。作品に映る瀬戸内の詩的な風景をたどりながら、四半世紀以上も前の記事がもたらした奇跡のような触発の連鎖をかみしめた。~~

 👆 は、今年2/2(金)の朝日新聞コラム欄「天声人語」の全文である。映画については早くからネットで取り上げられ、かつての朝日新聞の記事のコピーもアップされていた。むか~しの話かと思っていたら、「天声人語」に取り上げられ、朝日の記者さんはまだ現役の方なのだ。これには驚いた。ぜひ見たいと思い、友人と一緒に行く予定があの大雪と重なり延期。2/18(日)にようやく見て来た。 

 あらすじ:  

 川原由加利(長澤まさみ)は、飲料メーカーに勤め、業界の第一線を走るキャリアウーマン。東日本大震災の日、駅の雑踏の中で過呼吸(?)になり蹲ってしまう。立ち止まって声をかけ介抱してくれたのが小出桔平(高橋一生)。彼は由加利のハイヒールの代わりに自分のスニーカーを履かせ、自分は靴下のままその場を去る。その後偶然再会した二人は一緒に暮らすようになる。

 研究医で面倒見の良い恋人桔平と同棲5年目を迎えていた由加利は、ある日彼を母親に紹介しようとするが約束の場所に彼は来ない。イライラしながら彼の帰りを待つ由加利に、「桔平がくも膜下出血で倒れ意識を失ったところを発見された」と病院から連絡が入る。そして、なんと彼の所持していた運転免許証、医師免許証はすべて偽造されたもので、職業はおろか名前すらも「嘘」という事実が判明した。騙され続けていたことへのショックと、「彼が何者なのか」という疑問をぬぐえない由加利は、意を決して私立探偵・海原匠(吉田鋼太郎)を頼ることにした。

 やがて、桔平が書き溜めていた700ページにも及ぶ書きかけの小説が見つかり、そこには誰かの故郷を思わせるいくつかのヒントと、幸せな家族の姿が書かれていたのだった。それが瀬戸内海のどこかであり、蝋燭の灯のような灯台の下の窪みに子供の頃の宝物が隠されていると知った由加利は、桔平の秘密を追う事に...。桔平はなぜ全てを偽り、由加利を騙さなければならなかったのか? そして、彼女はいまだ病院で眠り続ける「名もなき男」の正体に、辿り着くことができるのか―。

 この後は瀬戸内の町や村を手掛かりを求めて探し回る由加利と海原のロードムービーのようにになる。いくつもの灯台を訪ね、漁協や飲み屋で写真を見せ、よく似た人に失望し…。彼の過去に触れ喜んだり、諦めたり、憎しみ怒りを感じたり、旅の間由加利の葛藤が続く。海原と争う場面も。
 海原は「真実は暴かない方がいいこともある…」と自分の体験を語る。が、ついに、海原の助手のキム(ダイゴ)の助けで、桔平の本名がわかり住んでいた家を尋ね当てる。家の中に入り、彼の過去の生活を知ることになる。それは、彼が自分の戸籍も抹殺したいと願うほど悲しい一家の物語だった。が、由加利との5年間の中で、彼が再度人生をやり直そうと願い始めていたところだったのではないか、とも伺われる。   
 かなりネタバレになったが、まだ見ておられない方のために最後だけは伏せておこう。女性の社会進出や育児ノイローゼの問題が絡んではくるが、例えば「怒り」のような激しい場面や何らかの社会問題(彼の過去にそれを予想していたかも)とは関係なく、むしろ優しく美しく話は進む。松たか子の歌う主題歌「つなぐもの」と瀬戸内海の風景がきれいだ。彼の過去を追いながら由加利が求めていたのは、’心のつながり’ だったのかもしれない…。

 高橋一生の場面は少なく、セリフも数えるほどしかない。少ないセリフと表情、雰囲気だけで小池桔平と言う人物を作り上げるスゴイ役者だな~と改めて思った。


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2 コメント

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Unknown (なは)
2018-02-21 18:08:57
清姫様
今日はお目にかかれてよかったです。少しですがゆっくりできました。ありがとう!
この映画、なかなかいわく有りの作品なのですね。貴女の紹介を読んで観に行きたくなりました。
世の中にはいろんな人生があるのだとつくづく思いました。
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Unknown (清姫)
2018-02-22 22:14:48
なはさん
「もやしの唄」の白川さんの話、面白かったですね。
質問もたくさん出て、お芝居を見る楽しみが増えました。

記憶喪失になり、自分は誰? あなたは誰?と言う話はよくありますね。自分の過去を自分で消す、と言うのはよほどのことでしょう。でも、実際にはあることなのですね。
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