蒼穹のぺうげおっと

-PEUGEOT in the AZURE- マンガ・小説・アニメの感想を書き流すファフナーとエウレカ好きのサイトです

亡国のイージス

2005-03-23 20:23:03 | 小説 感想
最近読了したばかりの本と言えば福井晴敏の『亡国のイージス』。
これがまた秀逸で最初から最後まで緊張しっぱなし、非常に重厚なストーリー展開でもあるんですが一気に読み終わりました。
何と言うかこの感覚は高村薫の『マークスの山』を読んだ時の感覚に似ています。

『マークスの山』も素晴らしい作品だったと思うのですが、共通するのは一級の人間ドラマとミステリーが渾然一体となってストーリーが展開していく点と、精緻に調査された背景、登場人物が非常に魅力的である点、いずれも名作と呼ぶにふさわしいと思うわけです。
#取り扱うテーマや切り口は全く違うのに、海上自衛隊と警察組織という組織構造舞台とした設定にもどこかしら共通点があるからこう感じたのかもしれません。
#ちなみに管理人は『マークスの山』を読み終わるまで作者が女性だということを知りませんでした(これはかなり驚いた)。

本作で取り上げたいポイントや数々の名台詞は挙げればキリがないほどなのですが、一応個人的に感じたポイントはこんな感じです。

■建前や理想の間に浮かんでくる本音の熱さに感じ入る
自分の好みの作風は?と問われれば、登場人物が迷いなく悟りきっている作品よりも、建前を理解しつつも絶えず揺れ続け、そして自問自答し続ける、それでも前に進まなくてはならない、そういった作風が好きです、と迷わず答えるのですが、本作品はまさにそういった魅力的な登場人物の宝庫。

国とは何か、自分たちのアイデンティティーとは何か?という大きな問題提起が絡み合う流れが一つ。
それぞれが所属する組織の建前やしがらみ、そして自身の信念・執念に翻弄される大きな流れが一つ。

この大きな、そして簡単に答えが見つからない問いかけの流れの中で最後に浮かび上がってくるのは、まるでそんな問題提起やしがらみなど関係無いんだ、とばかりに心を突いてくる「人が人を想う情熱」であり、無くしてはならない「何か」だったりするわけです。
しかもその心を突くシーンは全編に渡っており、ひたむきな魂でぶつかってくる仙石先任伍長の姿、そしてそれに影響されて変化していく如月行の姿に何度となく涙してしまうところであり、やはりここがこの作品の見所なんだと思います。

■仙石先任伍長と如月行
どうにもならないんだ、もう仕方ないんだ、と何度も諦めの波が彼らを襲うのにそれでも諦めきれない、むしろ互いがいるからこそ諦めるわけにはいかない、そんな二人の関係性だからこそ、答えの出ない問題提起や、複雑に絡んだ組織構造の闇の中で熱く輝いてみえるんですよ。
感動のポイントや名台詞は数あれど、やはりそんな二人を現すこの台詞でしょうか。

生き甲斐だ。生きててよかったって思えるなにかだ。
それがあるから人は生きていけるんだって・・・・・・
そう教えてくれた人の言葉を、おれは信じる


これが「あんたにだけは信じて欲しかった」の対比表現になっていて余計に泣ける。
やはりこの二人の関係性、この作品はこれに尽きます。

■精緻な情景描写と徹底した調査に驚愕
それにしても驚くべきは作者の取材能力だと思います。自衛艦の仕組みや船内の様子、そして武器の隅々に至るまで、徹底した描きこみがされていて、そういった方面に関しては素人同然の私ですらしっかりとイメージできました。
また自衛官たちの心意気、揺れ動く心情、このあたりの描写も感心するしかない、というほど自然にそして精密に描かれていて、まるで歴史小説家のような徹底した調査ぶりで、この作品の臨場感、緊張感を盛り上げるのに十分過ぎる役割を担っていると思います。
福井さんは近々ガンダムエース誌上でガンダム系の小説を執筆準備しているそうなので、これはこれで非常に楽しみです。


読んでいる最中からずっと脳内BGMは何故か「蒼穹のファフナー」のサントラの曲がエンドレスでかかっていたのですが、読み終わってすぐ、脳内エンドクレジットが流れている時のBGMは「蒼穹作戦」でした。
つか、もう生き残った人々や、散っていった人々に敬礼するくらいの勢いでした。

ということで『亡国のイージス』、私絶賛させて頂きたいと思います。
そして今、既に『終戦のローレライ』へ突入、まだ第1巻ですが、すでにぐっと心を掴まれております。
2005年度の上半期は福井作品にのめり込みそうです。


亡国のイージス(上)
価格:¥730 (税込)


もうすぐ映画化ですがキャストはネタバレ
するからみない方が良いです



巌窟王 第23幕 感想

2005-03-23 03:19:08 | 巌窟王
素晴らしかった。ほんとに素晴らしい。
番組始まって以来のOP無しアバン、そしてそこには制作スタッフの名前が浮かび、一瞬今回が最終回かと錯覚するほどでした。

そして本編は、第20幕の感想で「アルベールが伯爵を巌窟王としてではなく、モンテ・クリスト伯としてその最期を見届ける、そういうラストをやってくれれば満足」と書いたとおりの展開を見せてくれたので、個人的にはこれ以上無いというほど満足です。

■巌窟王とモンテ・クリスト伯そしてエドモン・ダンテス
中盤あたりから予想していたのですが「巌窟王」の意味が分かれば自ずとその狙い(というのは作品の狙い)が見えてくると思っていたように、やはり「巌窟王」とは絶望を欲する寄生タイプの「何か」だったわけですが、作品の狙いとしてはやはり「巌窟王」化するモンテ・クリスト伯をアルベールという純粋な心を持つ少年が、「巌窟王」としてではなく「モンテ・クリスト伯」として、ひいては「エドモン・ダンテス」として葬ることができるかどうか、ここがポイントになってくれたわけで、半年間感想を書いてきて本当に良かったなと思うんですよ。
そして因果応報もきちんとやって欲しい、そう思っていたのでやはり納得の最期だったと思うのです。
緊張感を最後の最後まで切らせない脚本、演出は本当に素晴らしいと思います。
前田監督とその制作スタッフに拍手です。

■もうひとつの魅せ場、フェルナン
今回は小杉さん演じるフェルナン、これも実は素晴らしかったと思うのです。
前半の剣戟のシーンはともかく、後半のアルベールを人質に取られてからのフェルナンという男の変化、というよりも懺悔・贖罪、その描き方も素晴らしく、また演じる小杉さんも素晴らしかった。
何もかもに嘘をついてきたフェルナンが最期にアルベールを思う気持ちだけは本物だった!
なりふり構わず、まるで憑き物が落ちたかのようなフェルナンに、ここまでの見せ場を作るというのがまた良かった・・・。
このまま恨みで死んで行くというシチュエーションよりも、視聴者としては今回のフェルナンを見て救われた気がしましたよ。
そしてその後伯爵が「死ではなく、絶望が欲しい」という台詞もまた秀逸。
ここに来てもまだ緊張の糸は切れない、みたいな。
でもそこでヴァティスタン!
ヴェルッチオと言い、奴らどうしてこうもカッコイイですかね?
呆れるほどカッコイイですよ。
フェルナンに話を戻すと、最期の銃を用いるあたりやはり演出が上手いなと。
うん、素晴らしいね。

■エデ
崩壊する城の中で「逃げても構いませんよ」と言うエデですが、「逃げてるのはエデだよ」と思った瞬間、アルベールの台詞に全てを代弁された気がしましたね。
アルベールが最高にカッコイイシーンでした。
そしてユージェニーをお姫様抱っこして飛ぶシーンは全てこのシーンのための伏線だったのか!!迂闊(笑)。
エロイーズとアリの描写もあれでイイな、と思いました。
生きるにせよ、ここで潰えるにせよ、それだけの業を背負ったのだし、その後を視聴者の想像に任せるというのはイイと思います。
また手を引くのがアリというのが設定としては良いなと。

いや、ほんと巌窟王は今シーズン(正確には昨シーズンから)の作品の中でも一・二を争う傑作だと思います。
最初から最後まできっちりと緊張感を与え続けた前田監督と制作スタッフにもう一度拍手を。
素晴らしいミステリーエンタテイメントでした。

次回、最終幕。
エピローグと考えて良いのでしょうか?
最後まで楽しみです。


巌窟王 2
DVD
定価:¥5,880 (税込)
価格:¥4,704(税込)
OFF :¥1,176 (20%)

2005/03/25発売予定
待て!しかして希望せよ!