5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

海の色をした目刺し

2012-11-10 22:06:44 |  文化・芸術
芥川龍之介の句にこんなものがある。

「木枯らしや 目刺しに残る 海の色」

これは、「折々のうた」で編者の大岡信が紹介している秋の句のひとつである。情景そのままを詠んだものだが、龍之介の繊細な情感がしっかりと伝わってくると云う。そういわれれば、その通りだろう。

この句は昭和2年に発刊された「澄江堂句集」に納められたもので、大正6年の作とされる。大正11年の友達への書簡に、「長崎より目指しをおくり来たれる人に」という前書きをつけて引用している。澄江堂は龍之介が使った号。因みに俳号は我鬼であった。

大正10年(1921年)には中国を視察旅行で訪れているが、この旅行後から体調を壊しがちになる。11年の書簡は贈り物の返礼というわけだが、「体調悪し」とでも書かれていたのかもしれない。

海の色を残した長崎の目刺しとはどんなものだったのだろう。WIKIで探すと「うるめいわし」の候に、外洋性回遊魚で刺身にすると美味だが鮮度落ちが非情に早く、市場に出回るのは少ない。「丸干し」などの干物に向いていて、旬は秋と書かれている。

ウルメとは、脂肪膜に覆われた眼が、潤んだように見えることからつけられたというのが一般的だが、長崎の五島列島の方言で、鋭く光ることを「ギドギド」と云い、ウルメの魚体がキラキラと光っているところから「ギドギドオ」の名で呼ばれているという事実の方が、龍之介の云う「海の色をした目刺し」の雰囲気に近そうだ。

龍之介の句作は古調を帯びていて、端正な中に哀愁がただよう佳句が多いが、これは、芭蕉や凡兆、丈草などを好んで愛読したということがその理由だろうと大岡は指摘している。小説も短編が多かった芥川、言葉の選び取り方はまったく見事である。


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