5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

梅雨闇の蛍

2020-06-11 21:52:10 | 自然

中日の福井版に「蛍」の話題が載っていた。

天空の城「大野城」で知られた福井県の大野市上丁(かみようろ)を流れる日詰川沿いでは、毎晩、ホタルが飛び交い、幻想的な世界が広がっているという。記事は8日の取材だ。今日は北陸も梅雨入りだったから蛍も一休みだったのだろうか。

環境保全グループ〈ほたるの里丁〉によると、上丁地区の日詰川は上流域だから水質がきれいな為、ホタルは昔から多く生息するとある。グーグルマップで探すと日詰川は街中で赤根川に流れ込む小川だ。

周辺の水田での農薬の使用に気を付けるなど地域全体でホタルの保全に取り組んで10年、源氏ボタルと平家ボタルの両方が生息するのが特長。今年は5月下旬から成虫が飛び始め、今週末頃にはピークを迎える見込みという。

コロナ注意で今年の集客イベントは行われない予定らしいが、これで一層ホタルたちには住みやすい環境が得られたということにもなるだろう。

さて、ホタルが人間の霊魂の姿であるというはなしはよく聞く。

非業の死を遂げた人の怨霊がホタルに化したという伝説もある。源頼政の霊がホタルになったと伝わる京都の宇治川。旧暦五月のホタルを特別視しホタル狩りを忌む高知などの土地柄もあるらしい。闇の中をぼんやりと光って飛ぶホタルには、孤独や死をなんとなく連想させるものがあるのもたしかだ。

「親一人子一人蛍光りけり」

久保田万太郎のこの俳句。これは一人息子を戦地に送り出す父親の気持ちを詠った句だと〈文人たちの句境〉で関森勝夫が述べている。

耕一は万太郎の一粒種。母親は幼時に死んで今は親一人子一人の父子家庭だ。仕事をしながら身近で見守り育ててきた子供を、激しさを増す戦場に送らねばならぬ。明日からはまったく一人になってしまう父親の孤愁。

ひとつひとつが光っても相寄らない蛍火の淋しさ。蛍がこれからの父と子の運命を象徴しているかのように寂光を放ち続けている。梅雨の闇は深い。

 


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