5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

子規の「夜寒」句

2012-11-05 22:14:13 | ことば
時期はずれのハリケーンが襲ったニューヨークでは被災者の寒さ対策が心配だというし、突然の大雪に見舞われた「万里の長城」では日本人の老人ハイカーが凍死したというニュースも読める。

11月に入ればようやく晩秋。近頃は夜になると冷えてくる。秋の季語で云う「夜寒」である。

正岡子規の短文に「夜寒十句」というものがあるのを見つけた。さっそく、SONYリーダーで「青空文庫」にはいったこの文を読んだ。

弟子の高浜虚子宅を訪ねての帰りに、そこで眺めた晩秋の宵景を詠んだ句が並んでいる。

神田小川町界隈を通り抜ける。五と十のつく日が祭日であることから五十稲荷と呼ばれた栄寿稲荷では、ちょうど例祭日の縁日で、夜店をあさりに歩く人々と行き交う。

子規は、若かりし昔、この縁日に来たこともあるが、その当時には夜店を覗こうなどとは少しも思わなかった。しかし今となっては、こんな些細なことさえ懐かしく思えて、店のひとつひとつを冷やかしてみたい気分になるのはどうしてだろう、と述懐している。

「縁日の 古着屋 多き夜寒かな」

路の曲がり角には「つたや・大きんつば」と書かれた小さな行灯を置いて小さな店を出しているところがある。なんとも寂しげで哀れであると感じてとあるが、ようするに、きんつばが食べたかったのだろう。

「きんつばの 行灯暗き 夜寒かな」

淡路町に出ると、戸板の上に柿を並べ寒そうな顔をして売っている婆さんを見かける。柿が大好物だった子規だから、すぐに目がいったわけだ。

「柿店の 前を過ぎ行く 夜寒かな」

上野の新坂を下りながら交番の巡査交代に出会う。小学校教員の収賄事件が起こったタイミングだったらしく、世間で頼もしいのは警察官だけになったと嘆いてみせる。今は、教師も警察官も不祥事ばかりだが。

「交番の 交代時の 夜寒かな」

そして、根岸を通って自宅に帰り着く。

「暗闇に 我門敲く 夜寒かな」





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