ターミナル駅で電車を待つ間、線路の枕木とバラスト(砕石)の間を動くものがある。目を凝らしてみると小さなネズミだ。腹をすかして餌をあさりにでてきたのだろうか。電車が入って来る。潰されるから速く逃げろとと思っていたら、危機一髪、レールの下に潜り込んでいった。
令和二年の干支は『庚子』、もちろんネズミの年である。
『あんどんの油なめけり嫁が君』
金田一春彦先生の「ことばの歳時記」は「嫁が君」という正月の項で正岡子規のこの句を引用している。
嫁に化けた化け猫が夜な夜な行燈の油を舐めるという怪談のことかと早合点しそうだが、嫁が君というのはネズミをいう方言だ。正月には縁起を担いで嫁が君というようになり、これが季語にも取り入れられて、正月の句ということになるというのだ。なぜ、正月のネズミは嫁が君といわれるのか。
養蚕の盛んだった地方ではネズミは蚕の害敵として忌み嫌った。「ネズミが、、、」などと口にするだけで、そこら辺りからチョロチョロ飛び出してきそうな感じになるから、イヤなものは隠語を使おうということになった。隠語博士の楳垣実氏によると、ヨノモノ(夜のものか?)~ヨモノ~ヨメゴ(嫁御)などに転訛して「嫁が君」に落ち着いたというのだが、さてどうなのだろうか。
ウエブの「きごさい歳時記」には、「新年の季語〈嫁が君〉は、忌み言葉のひとつで正月三が日のネズミの異称。家鼠は人の生活の近くに居り食害などで嫌われることによる。その逆に、大黒様の使いとして親しまれる地方では、正月には米や餅を少量供えるところもある」と書かれている。
『餅花やかざしにさせる嫁が君』芭蕉
駅の鉄路を走り回っていたあのチビネズミ、いや嫁が君は、いまごろは正月の餌にありつけたのだろうか。
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