5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

葛飾の桃の籬

2014-03-09 21:46:47 |  文化・芸術
「葛飾や桃の籬も水田べり」

寒い冬が続いた今年は梅の開花も遅れているらしい。先日はアメリカからワシントンDCのポトマック桜の開花が4月8日~12日の間になるだろうというちょっと早めの予想があった。「梅は咲いたか桜はまだか」という俗曲があったが、梅と桜が重なりあって咲くことになるかもしれない。となると判別しにくいのが桃の時期だ。既に「桃の節句」も終わったが桃が咲いたというニュースは聞かない。

さて、最初の桃の句は水原秋桜子(ここにも桜)の作で、高橋睦郎の「百人一句」に引用されている春句である。葛飾といっても寅さんの柴又というわけではないのだろうが、昭和初期の田園風景には桃の木の垣根がマッチしたのだろう。

有名なこの大正俳人のことはあまりよく知らない。高橋の説明によると、高浜虚子の弟子として句誌「ホトトギス」の第二黄金期のきっかけを作った俳人であり、素十、青畝、誓子とならんで、その共通する頭文字から「四S」と云われたとある。

産婦人科医の長男に生まれたことで医学を目指し、東大医学部を出て、医専の教授、病院長、さらに宮内庁の侍医役も勤めたとあるから、本業は医者だったわけだが、高校時代から親しんだ俳句の世界でも俳人として名を挙げたのだから、生来能力の高い秀才だったのだろう。

この句は昭和6年、「ホトトギス」から独立して主宰誌の「馬酔木」を発刊した際に第一句集「葛飾」の中に入れた句のひとつだ。秋桜子の句風は主観的抒情句だということだが、これは平安の新古今の雰囲気も感じられる写生句である。

彼の主観を詠んだ春の句ならこんなものはどうだろうか。甘酸っぱい青春のメタフォーとして季節の果物「苺」が使われているのはなかなか見事だと「苺好き」は感心するのである。

「青春のすぎにしこころ苺喰う」





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