三月三日、桃の節句である。
女系家族の割に色気のない我が家。子供のころから緋毛氈の段飾りには馴染みがなかった。母親が飾っていたのは盆の上に乘った小さなお内裏さまだったと思う。
今日の中日夕刊の中面を開くと緋色が眼に飛び込んで来た。見出しは「みやびな名品にうっとり」で、徳川美術館毎年恒例の「尾張徳川家の雛まつり」という企画展示を写真取材したものだ。
御三家筆頭の栄華を今に伝えるとあるが、写真の段飾り(高さ2m、幅7m)を見ただけでも、その「みやびやかな装い」には惹き付けられる。明治から昭和にかけての三代の尾張徳川家夫人が所有した七対の男雛と女雛、大小の違いがあるが、すべてが気品に溢れている。三人官女や五人囃子などの人形や細かく作られた調度品の数々。これは大人が楽しめる雛飾りかもしれない。江戸時代から続く雛人形。元来が子供の災いを託す身代わりだったというから、親の気持ちが深く入るのは良く判る。調度品のひとつ、将棋盤には、藤井総太四段と加藤一二三九段の対戦の棋譜と同じに駒を並べるというしゃれたアイデアもされているという。
昨日は中国の春の祭り「元宵節」と米粉団子のデザートについて書いたが、雛祭には菱餅に雛あられに白酒だろうと思い、徳川家の段飾りにそういう細工物はあるだろうかと目を細めて紙面をながめてみたが、食べ物らしき飾りは見つからない。大名家の姫君さまたちは餅やあられを食べることははしたないと叱られたのだろう。
下々の我々はやっぱり「花より団子」ではないか。我が家の超高齢者から「雛まつりのちらし寿司」を買ってきてほしいと頼まれた。昼の用事を済ませて、名古屋駅前の百貨店の地下へ降りる。惣菜や弁当を売るフロアはいつにもまして買い物客でいっぱい。目指すは自分とおなじ、ちらし寿司らしい。
ゆっくりと見て回るスペースはなさそう。最初に見つけた惣菜屋の列にならんで、菱形の器に入ったちらし寿司をゲットした。酢飯に錦糸玉子、桜でんぶ、酢れんこん、ニンジン、さや豌豆、などなどを載せただけの、昔ながらのちらし寿司。三河湾でとれたあさりの味噌汁をつける。
待ちかねていた超高齢者はいそいそと菱形の蓋を開いてにっこり。年寄の部屋が、膝の上だけ春になった。
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