5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

ほろほろと

2019-12-26 21:18:06 | 環境

「ほろほろと」という合唱曲を習ったのは中学生の頃だったか高校生だったか。奈良時代の僧侶「行基」の和歌をそのまま歌詞として使い、それに成田為三が旋律を付けている。

 ほろほろと
 鳴く山鳥の
 声聞けば
 父かとぞ思ひ
 母かとぞ思ふ
 
この60年以上前に憶えた唱歌のことを考えたのは、今日の中日夕刊「論壇時評」で東工大の中島岳志教授が「いのちと直結 利他のこころ」というテーマで、先日、アフガニスタンで凶弾に斃れた中村哲医師のことを書いていたからだ。

中島教授は、「用水路を作ることは医療行為そのものだ」という信念で現地での土木灌漑事業に自ら深く携わった中村医師のアフガニスタンでの活動についてふれた後、こう書いている。

『中村の姿を見ながら想起したのは、奈良時代の僧、行基だった。彼は大乗仏教の精神に基づき、灌漑用池や堤といった土木作業に従事した。行基は人々の救済を優先して、禁じられていた寺院外での宗教活動を敢えて行い、社会の中で汗をかいた。厳しい弾圧にあったが、民衆の支えが力となって、やがて国家権力が彼の力を必要とすることになる。大仏建立にあたって、聖武天皇は行基を実質上の責任者として招聘した』

中島教授は『土木は本来が利他的な行為であって、その中核には宗教的な救済の精神が存在した』という。中村医師のボランタリーな土木作業こそ、まさにこれだというわけである。

さらに教授は、近年の地球環境の変化がもたらす自然災害のあり様を見て、今の我々には土木事業の原点をもういちど見つめ直す必要がある。土木から利権や無駄の枠組みを外して、利他的な救済の側面を見直すべきではないかという。

中村医師の活躍したアフガニスタンは「遠い異国の火事」なのではなく「自分のいのち」に直結しているのだという想像力が日本人には欠けているのではないかという厳しい指摘である。

地球上の生きとしし生けるもの、鳥も虫も花も草木も、すべてはつながっている。ほろほろと鳴く山鳥は、旅の行基を呼ぶ自然の声だったのにちがいない。

 


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