5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

蔵書票

2019-12-25 21:23:40 |  文化・芸術

今日はクリスマス。45年前に全米でヒットしていたフォーシーズンズの〈フーラブズユウ〉の音源を Youtube から借りて「クリスマスになると思い出す雪のイサカ」とツイートした。

当時、冬季休暇でキャンパスに残っていたのは貧乏な留学生たちばかり。人気のない寮の自室でFMラジオから流れていたのがこの歌だ。「愛してくれるのは誰」とは皮肉にしか聞こえなかったが、記憶の中にはクリスマスソングとしてしっかりと仕舞われた。

短い間だったが自分にしては結構集中して勉強ができたのが有難かった。留学記念のメメントに買ったのが大学の校章をデザインした蔵書票の箱入り。アメリカの大学らしい小物である。滞在で増えたハードカバーの裏背に貼り付けて船便で日本へ送った。今でも埃をかぶった英語本をめくれば、クリムゾン色の蔵書票が半世紀近い昔を引き寄せてくれる。

中日夕刊の文化欄にシリーズで寄稿される「文春の流儀」は、文芸春秋社元常務の木俣正剛氏の筆によるものだが、今日は、先日亡くなったイラストレータの和田誠氏との所縁について書かれている。

2004年に田中真紀子のプライベート記事が問題となり、週刊文春が出版差止めの仮処分命令を受けた当時編集長の木俣氏、異例の事態に社内が揺れる中、1977年から長年にわたって表紙のイラストを描き続けていた和田氏から送られてきたのが、茶色の背景に11枚の切手のようなものが描かれた表紙絵である。説明によると、それは「蔵書票」といって本の見返し部分に貼って持ち主を示す紙片だという。

絵の中の蔵書票にはアルファベットで歴代編集長の名前が記されていた。「無言のお洒落な叱咤激励でした」と言う木俣氏は和田氏のこのアイデアが嬉しかったのだろう。

田中角栄研究で総理を退陣に追い込んだ文芸春秋の切れ者編集長・田中健吾氏が始めた週刊文春の改革。その意気込みに憧れて雑誌編集者の道に入ったのが若い木俣氏であり、週刊誌改革のシンボルとなったのが、定番の女性顔写真に代わる和田誠の手書きイラストだったわけだ。〈フーラブズユウ〉も同時代の歌なのだ。

蔵書票を貼られた書籍が大切に個人の書棚にしまわれたのは今は昔のこと。現在の読書家たちにとって消費される書籍には蔵書票など無用だろう、まして電子書籍になればである。

イラストレータ亡き後も彼の遺作は継続して週刊文春の表紙を飾る予定なのだそうだ。はたして2004年の「蔵書票」の版は再び表紙画として甦るのだろうか。

 


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