洋花にしては、和花に通じるおとなしさがあり、うつむく加減もしおらしい。
写真のクリスマスローズは、斑入りで優雅な花である。
花の持つ雰囲気の上に、草全体が綿毛に覆われて白っぽく見える感じも、それを際立たせるのかもしれない。
名前の響きも優しい。
「草花舎」の庭の片隅に咲いていた。(写真)
春の七草の一つで、「おぎょう」「ごぎょう」とも呼ばれるようだ。
<全体に綿毛が多く、冠毛がほおけだつ(けばだつ。ふくだむ。の意)ことから古くはホオコグサと呼び、これが転訛したという説がある。>(『野に咲く花』より)
という解説もあった。
デジカメの画面を見せて、Yさんに尋ねた。
「これ、なんの実かしら?」
「ア、それ、イヌビワ」
「これが、イヌビワ?!」
ヤシャブシの名前を知りたくて、調べているとき、聞き知った名前にイヌビワがあった。
植物に詳しいTさんに電話で尋ねたところ、私の説明からTさんがイメージされたのがイヌビワであった。私は、その回答を頼りに『樹木』という本で、早速調べてみた。
が、それは素人目にも、私が求めているものとは全く異なる植物であった。気がかりなので、丹念に『樹木』の写真を眺め、説明を読んでゆくうちに、これだ! と思う植物を探しあてることができた。
そこにはヤシャブシという名が記されていた。
このことについては、2月24日のブログに、<ヤシャブシの実と花と>と題して、既に投稿した。
ヤシャブシを知るに至るプロセスの中で、登場したのがイヌビワであった。
そのとき、心に留めおいた植物に、こんなに早く出会えるとは!
この日の朝、突然Tさんの訪問を受けた。他用もあってのことだった。
私はまず、先日電話で質問し、考えを聞かせてもらったことへのお礼を言い、実は問題の木はイヌビワではなく、ヤシャブシのようだと話した。私の撮った写真を見せながら。
「うん、これは間違いなくヤシャブシです」
という、Tさんの答えだった。私は確信を持つことができた。
Tさんは、房のように下がっているのは雄花で、やがて実になる雌花とは異なることやヤシャブシという木の性質についても語ってくださった。
唐音の蛇岩へ行く道には、海浜植物が沢山あるから、いつでも案内してあげる、とも……。
いまさら植物学を究めようという気はない。ただ妙に気になる植物、親しみを覚える植物に出会うと、その名前を知りたくなることはある。これは人と人との付き合いでも同じことだろう。
どうしても名前の分からないときには、またTさんの教えを請うこともあるだろう。
イヌビワの説明をするとき、Tさんは、昔の子供はよく食べたものだ、と話された。私も昔の子供である。山桃や桑の実をおいしく食べた経験はあるが、イヌビワを食べたという記憶は蘇らない。
Yさんは、イヌビワの実でジャムを作ったことがある、と語られた。
『樹木』には、<熟すと紅色で柔らかくなり食べられる。>と書いてある。
今梢に残った、黒っぽいイヌビワの実は、人に採取されることも、鳥に啄ばまれることもなく、木守りのように冬を越したのだろう。
四季の変化を楽しめる一木が、また草花舎の庭に見つかった。
今、Yさんは、3月3日から始まる<VAGRIE展>―子安一子の日常使いのバッグ―を前に忙しそうだ。
にも拘らず、今日も長居してしまった。
お店を出ようとする私に、
「またイヌビワのジャムを作ってさしあげますから……」
と、Yさんの声。
柊と南天の、二つの植物名をプラスした名前は、葉が柊に似、樹形が南天に似るからだそうだ。
「草花舎」の入り口に近づいたとき、黄の華やぎが目に飛び込んできた。
見ると、黄色い小花が総状に咲いている。(写真)
この前訪れたときには気づかなかったから、まだ黄緑色の蕾だったのだろう。
名前は、Yさんに教えていただいた。
秋には、白粉を帯びた暗紫色の実を結ぶという。
名前を覚えた植物は、その日から私の友達となる。
四季の移ろいを一緒に楽しんでゆこう。
2月27日も晴れのお天気だった。
このところ、晴天が続く。
一週間ぶりに「草花舎」へ行った。
カレーライスを頼んでおいて、お庭を散歩する。
庭木や地面の草花ばかりを眺めながら歩く。
ふと視線をあげると、その先に小窓があった。(写真)
蔓系の植物が窓枠に程よく絡まり、一瞬、非現実的な世界に佇んいるような錯覚を覚えた。
瀟洒な小窓。
物語が生れそうな雰囲気だ。
暫く空想の世界に遊ぶ。