髪の手入れに町に出て、帰りのバスを待つ間、駅前の喫茶店に入った。
お化粧室で、手を洗っているとき、左隅の花瓶に、見事な椿が挿してあるのに気づいた。(写真)
一瞬、本物? と、疑った。
間違いなく本物である。
二個の椿の、花びらの色は異なるが、その花蕊(かずい)の豪華さは共通している。
花びらの中に調和よく納まりながら、蕊がびっしりと詰まっている!
一昨日のこと、パソコンに向かって、ブログの記事を書いていたところ、突如、救急車のサイレンが聞こえてきた。
どこに向かうのだろうとカーテンを開け、様子を伺うと、車は家の前を通り過ぎた。突き当たりの丁字路を、左右どちらに曲がったのかは分からない。
心配そうに近所の人たちが道に出てこられた。
私も一足遅れて外に出てみた。
狭い団地なので、救急車の止まった先が、Kさん宅とすぐに分かった。
Kさん宅では独立した子供さんたちが家を離れ、中年のご夫妻が二人で住んでおられる。
かなりの時間が経って、救急車が団地の市道から国道に出て行った。その後に、夫人の車が続いた。ご主人の方に、何らかの異常が起こったらしい。
それ以上のことは何も分からない。
病状が一過性のもので、すぐに退院され、今までどおりの平穏な日常が続くことを祈るだけである。
小雨の中、近所のNさんが、ダックスフンドのクーちゃんを抱いて出てこられた。
「誰だったの?」
と、尋ねられる。
「Kさんのご主人」
「Tさん方のおばあちゃんかと思った」
大方の人は、救急車の音を聞けば、まず高齢者を案じるようだ。
若い人の多い団地では、私も案じられる側だ。
クーちゃんが、不安そうである。飼い主のNさんの腕の中で、ガタガタ震えている。
「クーちゃん、どうしたの?」
と、頭をなでると、
「クーちゃんは、サイレンが怖いんです」
と、犬のクーちゃんに代わって、Nさんが答えられた。
救急車のサイレンは、すぐ遠ざかっていったが、私の胸の動揺は容易に収まらなかった。クーちゃんのお腹から足にかけての筋肉もガタガタと震え、痙攣のやむ気配はなかった。
平穏の脆さ、といったことを考えながら、私は、クーちゃんの頭をなでていた。