中川右介さんの「歌舞伎 家と血と藝」を読みました。
内容紹介です。
新書ですが、400ページを超える大作です。歌舞伎入門書によく載っているような家系図をもっとわかりやすく分解、解説してある本です。あちこちと入り組んだ歌舞伎の家々を市川團十郎家、尾上菊五郎家、中村歌右衛門家、片岡仁左衛門家、中村吉右衛門家、松本幸四郎家、守田勘彌家の七つに分けて、明治から大正、大正から昭和戦前、昭和戦後から平成の三つの時代ごとにそれぞれの家で誰が動いたのか、どう継承されたのかを述べていらっしゃいます。縦軸・横軸どちらでもいいのですが、家と時代が“マトリックス”の表になっている、そんな本です。
断片的にそれぞれの「家」の歴史を書いた本はこれまでもありましたが、これだけすべてを網羅し、関連付けてあるのはこの本が初めてではないでしょうか。ページ数だけでなく内容的にも大作だと思います。ただ、中川さんの本の特徴とも言える「見てきたように、聞いてきたように…」的な書きっぷりは好き嫌いがあるでしょうね。何事も、結構断定的にズバッと書いてあります。読物的には面白いかもしれません。“ワイドショー大好き”なワタクシは、そういったウワサとかゴシップとか「ほーっ」と楽しみながら読みました。でも、一応この本は、ジャンルとしては実在の人物についてのノンフィクションだと思うので、たまに「どうかなぁ…」と思う場面もありました。どうもこの方、玉ちゃん
ファンのようで、玉ちゃん
は大絶賛(まあ、大絶賛されるだけの役者さんではあるんですが)、その反動?で六世歌右衛門丈をあまり良いように書かれません。それぞれ贔屓というのがありますから、読むほうの受け取り方もいろいろでしょうね。
戦前までのそれぞれの家の襲名はお家騒動とか派閥争いとかごちゃごちゃとあったようですが、戦後以降の襲名についてはほぼ松竹株式会社主導のようで、襲名披露の口上で皆さんがおっしゃる「松竹株式会社のおすすめにより」はリップサービスではなくその通りなんですね。松竹株式会社が主導と言うことは「お客さんが入るかどうか」その一点だけを重視されます。それはそれで非常にわかりやすい基準だと思います。実際、孝夫さん
が十五代目仁左衛門を襲名されたのも、「孝夫さん
が一番人気があったから」という理由ですからね。当時の永山社長は「孝夫さん
が十三代目さんに一番お似ましだから」と我當さんにおっしゃったそうで(当時私が聞いたのは「仁左衛門という名跡は60歳までに襲名しないといけないと言われているから」という理由でしたが)、容姿ばかりは如何ともし難いですから、ウンと言うしかありません。
来年の福助さんの歌舞伎座での歌右衛門襲名披露公演が2ヶ月しかなく、歌右衛門という大名跡なのに、猿之助さん・中車さんの襲名披露公演と同じって、六世歌右衛門丈が生きてらしたら烈火のごとくお怒りになったことでしょうね。「集客ありき」でいけばこうなるんでしょう。まあ、民間会社なので利益追求するのは当たり前っちゃ、当たり前のことなんですが。
一回読んだだけでは全ての家を理解できるものではありませんが(特に戦前は実子や妾の子、兄弟、養子、弟子と登場人物多し)、かと言って二回、三回と読むほどでもないような、そんな本です。誰かの家のことが知りたくなったら、また繰ってみたいと思います。
あとがきによれば、今年4月の歌舞伎座新開場に合わせて出版する予定だったそうですが、執筆の途中で、勘三郎さんと團十郎さんがお亡くなりになり、その前後全く書けない日があったそうで、8月に延びたそうです。そのおかげで4月からの杮葺落公演をごらんになれました。その初日のことがあとがきに書いてありました。
「二〇一三年四月二日、歌舞伎座新開場柿葺落の初日に出かけた。この日、いちばん盛り上がったのは、人間国宝や藝術院会員たちの重厚な演技ではなく、中村勘九郎の息子・七緒八が花道を歩いて出てきた時だった。セリフを言うわけでもなければ見得を切るわけでもない。ただ歩いて出てきただけだ。……それなのに、「中村屋」との掛け声と万雷の拍手――こういう光景は歌舞伎ならではのものだろう。こういう世界は、たしかに入りにくい。だが、入ってしまえば、ひとりの幼児の背後にいる何世代にもわたる歴史が見えて、それだけで面白い。」
内容紹介です。
明治から現在まで、歌舞伎の世界には、世襲と門閥が織りなす波瀾万丈のドラマがあった――。歌舞伎を観るのがもっと楽しくなる本。
○市川團十郎家はなぜ特別なのか?
○松本幸四郎家は劇界の毛利三兄弟?
○中村勘三郎の死は何を意味するか?
○偶数系片岡仁左衛門の悲劇とは?
○栄華を極めた二人の中村歌右衛門の戦略とは?
○尾上菊五郎家の歴史は繰り返す?
○新しい歌舞伎座を担うのは誰か?
○市川團十郎家はなぜ特別なのか?
○松本幸四郎家は劇界の毛利三兄弟?
○中村勘三郎の死は何を意味するか?
○偶数系片岡仁左衛門の悲劇とは?
○栄華を極めた二人の中村歌右衛門の戦略とは?
○尾上菊五郎家の歴史は繰り返す?
○新しい歌舞伎座を担うのは誰か?
新書ですが、400ページを超える大作です。歌舞伎入門書によく載っているような家系図をもっとわかりやすく分解、解説してある本です。あちこちと入り組んだ歌舞伎の家々を市川團十郎家、尾上菊五郎家、中村歌右衛門家、片岡仁左衛門家、中村吉右衛門家、松本幸四郎家、守田勘彌家の七つに分けて、明治から大正、大正から昭和戦前、昭和戦後から平成の三つの時代ごとにそれぞれの家で誰が動いたのか、どう継承されたのかを述べていらっしゃいます。縦軸・横軸どちらでもいいのですが、家と時代が“マトリックス”の表になっている、そんな本です。
断片的にそれぞれの「家」の歴史を書いた本はこれまでもありましたが、これだけすべてを網羅し、関連付けてあるのはこの本が初めてではないでしょうか。ページ数だけでなく内容的にも大作だと思います。ただ、中川さんの本の特徴とも言える「見てきたように、聞いてきたように…」的な書きっぷりは好き嫌いがあるでしょうね。何事も、結構断定的にズバッと書いてあります。読物的には面白いかもしれません。“ワイドショー大好き”なワタクシは、そういったウワサとかゴシップとか「ほーっ」と楽しみながら読みました。でも、一応この本は、ジャンルとしては実在の人物についてのノンフィクションだと思うので、たまに「どうかなぁ…」と思う場面もありました。どうもこの方、玉ちゃん


戦前までのそれぞれの家の襲名はお家騒動とか派閥争いとかごちゃごちゃとあったようですが、戦後以降の襲名についてはほぼ松竹株式会社主導のようで、襲名披露の口上で皆さんがおっしゃる「松竹株式会社のおすすめにより」はリップサービスではなくその通りなんですね。松竹株式会社が主導と言うことは「お客さんが入るかどうか」その一点だけを重視されます。それはそれで非常にわかりやすい基準だと思います。実際、孝夫さん



来年の福助さんの歌舞伎座での歌右衛門襲名披露公演が2ヶ月しかなく、歌右衛門という大名跡なのに、猿之助さん・中車さんの襲名披露公演と同じって、六世歌右衛門丈が生きてらしたら烈火のごとくお怒りになったことでしょうね。「集客ありき」でいけばこうなるんでしょう。まあ、民間会社なので利益追求するのは当たり前っちゃ、当たり前のことなんですが。
一回読んだだけでは全ての家を理解できるものではありませんが(特に戦前は実子や妾の子、兄弟、養子、弟子と登場人物多し)、かと言って二回、三回と読むほどでもないような、そんな本です。誰かの家のことが知りたくなったら、また繰ってみたいと思います。
あとがきによれば、今年4月の歌舞伎座新開場に合わせて出版する予定だったそうですが、執筆の途中で、勘三郎さんと團十郎さんがお亡くなりになり、その前後全く書けない日があったそうで、8月に延びたそうです。そのおかげで4月からの杮葺落公演をごらんになれました。その初日のことがあとがきに書いてありました。
「二〇一三年四月二日、歌舞伎座新開場柿葺落の初日に出かけた。この日、いちばん盛り上がったのは、人間国宝や藝術院会員たちの重厚な演技ではなく、中村勘九郎の息子・七緒八が花道を歩いて出てきた時だった。セリフを言うわけでもなければ見得を切るわけでもない。ただ歩いて出てきただけだ。……それなのに、「中村屋」との掛け声と万雷の拍手――こういう光景は歌舞伎ならではのものだろう。こういう世界は、たしかに入りにくい。だが、入ってしまえば、ひとりの幼児の背後にいる何世代にもわたる歴史が見えて、それだけで面白い。」