この本は「いつか陽のあたる場所で」、「すれ違う背中を」に続くシリーズの完結編です。
刑務所で知り合ったペット洋服作りをしている芭子(はこ)とパン職人の綾香が前科持ちという暗い過去を抱えながら
二人で支え合って生きていく物語です。
仙台出身の綾香は幼い息子を家庭内暴力の夫から救うため、夫を殺害してしまいます。
芭子は学生時代、ホストに熱をあげ、その費用捻出のため出会い系サイトで知り合った男性を昏睡させお金を盗むという昏睡強盗罪で刑務所に入りました。
綾香のために逮捕後、離れ離れになってしまった彼女の幼い息子の消息を訪ねてあげようと芭子は綾香に内緒で仙台に向かうのですが、
それが2011年の3月11日だったのです。
結局、芭子は行きの新幹線で隣の席に座った男性と一緒に這う這うの体でタクシー3台を乗り継ぎ、3月12日の早朝、東京までたどり着きます。
タクシー代金は10万円以上に及びました。
仙台からタクシーで福島、宇都宮経由で東京の谷根千にある自宅にたどり着くまでの描写がかなり詳細で著者は被災者にインタビューでもしたのだろ
うかと思ったのですが、「あとがき」を読んで驚きました。
これは作者自身が体験したことだったのです。
この本の執筆のために編集者と仙台の調査に出かけたのが丁度3月11日だったのだそうです。
作者の伯母様が急病で倒れたということでどうしても東京に戻らなくてはならず、編集者とタクシー3台を乗り継いで東京まで戻られたということです。
ですから本の中の芭子が体験したこととして記述されている事柄は、まさに作者の乃南アサさんが実際に体験されたことだったのです。
だからこそ臨場感あふれる描写が可能だったのでしょう。
読みながら何度も「あの時」のことが思い出されました。
震災5周年のこの時期に偶然手にした本にこのようなことが書かれてあるなんて思いだにしませんでした。
話はかわりますが、故郷、大船渡を舞台にしたNHKの土曜ドラマ「恋の三陸、列車コンで行こう」を動画視聴しています。
時折、大船渡湾岸に立つセメント会社のオレンジと白のストライプの煙突が画面に現れます。
上の弟があの付近で仕事をしていて、震災の日、まず「強い地震がありましたが、僕は大丈夫です」というメールが届きました。
その後、暫くして「津波で僕の車も流されてしまいました。僕は高台に避難していたので無事です」というメールが届き、その後3日間
音信普通になってしまい、心配したことなど思い出しました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます