昔の贅沢は今の宝

2013-01-27 20:57:14 | その他旅行き
伊予の旅 <六>

臥龍山荘は、大洲藩のお殿様が肱川のほとりに作らせた庭園の跡に、明治の時代の豪商が名工を集めて建てさせた別荘です。
入口の門をくぐると右手に石垣があり、石垣の真ん中から木が生えてました。
石垣の石に石臼が使われてたりして、なんだか変わった山荘かも。
と思いつつ石段を上る。
途中の木戸から覗いた建物は、この旅で見てきた建物と同じく古そうですが、漆喰の重厚な蔵とは風情が異なります。
茅葺き屋根の木造建築は障子戸が開かれ、川の風を取り込み夏は涼しそう。

<木戸から>


てことは、冬は寒いということか。
玄関で靴を抜いで室内を見学。
質素ながらも板壁には障子を重ね光を柔らかく通す透かし彫りなんかが施され、良く造られた山荘なんだなと思いはしつつも、冷え切った建物に暖房設備はなく、靴下だけでは防ぎきれない足の裏の冷たさに意識は向かう。
たははー、凍るぅ。
しもやけができるぞ。
これは長く居られない。
部屋は撮影禁止だし、早々に引き上げようとさらりと見て終わろうとしていたら、お客さんも少ないためか受付の女性の方が声をかけてこられました。
お願いした訳でもないのに部屋をひとつひとつ案内してくださいました。

<内庭を見てたらお声掛りが>


この部屋のこちらの壁の透かし彫りは桜の花と筏で春を、右手の透かし彫りは水紋で夏を、左手の欄干には菊が彫られ秋を、背後の丸窓は雪を表し、四季を表現しています。とか

この部屋の畳は一般の畳より目が細かく、今はもう作れないので(補修できず?)入室禁止なんです。
床下には備前の壺が置かれていて、畳を上げると響きの良い能舞台となるんです。とか

この部屋の床の間の棚の後ろの掛軸は富士山です。
手前の違い棚が富士の麓に棚引く雲を表し、その右の丸窓は月を見たてています。とか

その丸窓は西側にあるさっきの部屋の雪を模した窓と、間に仏間を挟んで位置を合わせ配置されているので、西日が差すと丸窓が夕日の色に染まるんです。
座る位置をずらすと縁の欠けたお月様と見ることもできます。とか

仏間に蝋燭を灯すとその明かりが透けて揺らめき、夕日と趣を変えた月明かりになります。
薄暮の時間帯をイメージした部屋なので、襖もねずみ色。
襖の引手は蝙蝠をかたどっていますいます。とか

わざと土壁を塗残し荒れた雰囲気を醸したり。
この廊下は一枚板からできていますが、溝を掘り細長い板を並べたように見せています。とか

あの天井を支える梁は木の表皮をそのまま残して使用されています。
縁側に打ち付けた釘には大工さんのサインのあるものがあったりするんですよ。とか

(私の記憶・理解が間違っている部分があるかもしれませんが、ご容赦。)


もう、説明を聞く度、「ほう!」「へえ!」「ははあ!」。
足裏の冷たさも忘れて感心しきり。
とても考えられ、工夫が凝らされ、でも華美に走らず質素に設計された建物だったのですね。
こういった文化財には、無知な目には説明を受けないと気付かない事柄・意味ってたくさんあるんでしょうね。
この山荘に施された工夫を知らぬまま、見学を終えてしまうところでした。
案内いただいた係員の方は山荘を愛してらっしゃるようで、初めの私のように何も知らぬまま帰られる人を見ては、なんて勿体ないと歯噛みされていたのでは。
出来うる限り知ってもらいたいと考えて、こんなサービスをしていただけたと思っています。
ハイシーズンでお客さんが多くて説明いただけない時でも、各部屋には説明用CDプレーヤーが置いてあるので、スイッチを押せば同様の説明が聞けると思います。

説明を受けたときお聞きしたのですが、撮影禁止なのは部屋の中だけ。
縁側より外側は撮影可能とのこと。
上記の大工さんのサインをゲットしました。

<縁側に打たれた釘。立体的な意匠。ただの釘ではない。こんなの説明がなければ気付きません。>


<そのアップ。サイン付きの釘のありかを2ヵ所教えていただきました。>