評論家・山崎元の「王様の耳はロバの耳!」
山崎元が原稿やTVでは伝えきれないホンネをタイムリーに書く、「王様の耳はロバの耳!」と叫ぶ穴のようなストレス解消ブログ。
投資銀行業界はどうなる?
サブプライム関連の損失がどんどん明らかになっている。大損した投資銀行の中には海外から資本を受け入れる会社もある。ぱっと目に付くだけでも、それぞれ円換算すると兆円単位の損失を発表した後で、シティグループがアブダビ投資庁から、UBSがシンガポール政府投資公社から、モルガンスタンレーが中国投資から、それぞれ自己資本になる資金の注入を受けることが報じられている。一つのミスで資本増強が必要になるとは、案外だらしがないとも思うが、最近の彼らのビジネスは大きな資本を持っていない勝負にならないし、何より損失が兆円単位とあっては仕方がないのだろう(それに、損失はまだ膨らむ可能性があるし)。
シティグループといえば、先般「週刊SPA!」の「経営者オブザイヤー」の対談(メンバーは、須田慎一郎氏、山本一郎氏と私の3人)の「ワースト部門」で、私が「日本をなめているとしか言いようのないシティグループ」(受賞対象者はプリンス前CEO)を、ワルの筆頭としてあげたところ、他のメンバーからも圧倒的な賛成を得た。
「日本をなめている」とは、そもそも日本のプライベート・バンキング部門があまりの悪事の酷さに閉鎖処分となって日本から追い出されたにもかかわらず、本来だったら東証上場廃止でいい(と私は思った)日興コーディアルを傘下に入れる形で、性懲りもなく、日本の金持ちをカモりに再上陸すること、そして、東証に上場したその日にざっと1兆円ほどのサブプライムの追加損失を発表したことなどを指す。特に、東証上場に関しては、このようなバランスシート自体が信用ならない会社をどうして今上場させるのか不思議だし、追加損失の発生に対しては、即刻管理ポストに移して、上場廃止を検討すべきだろう。アブダビがカネを入れるくらいだから倒産しないのかも知れないが、現状では、日本の一般投資家に広く売り買いさせていい信用(特に情報の)があるとは思えない。
報道によると、アブダビからの資金は利回り11%だという。ドル建てなのだとしてもこれは高い。シティの損失はまだまだこれから現れる公算が大きく、これで立ち直るのか、一時の見せ金で焼け石に水と終わるのかは現時点では分からない。
モルガンスタンレーは、サブプライム問題では、ライバルであった(もう過去形?)ゴールドマン・サックスと随分差が付いたが、UBSと共に、会社のカネでリスクを取り、上手く行けばデカいボーナスをせしめる逞しい人々が前線で働いているので、この程度の損が出ることがあるのは仕方がない。
中国にしても、シンガポールにしても、外国から多額の資本が入ると、日本の金融機関なら、乗っ取られるかも知れないとか、外資の軍門に下ったなどと大騒ぎしかねないが、これらの会社の社員達はにとっては「平気」だろう。彼らは、リスクを取って使うことができる資本と儲けたときのボーナスの約束があれば、資本など誰のものであっても構わない。
かつて「資本(家)が労働者を搾取する」という表現があったが、投資銀行の世界では専門性と従って情報上の優位(マーケット、商品やリスクの仕組みに関する知識、顧客に対するアクセス)を持った社員が、成功報酬(オプションとして評価すると、実は稼ぐ前から価値は大きい)の形で資本と会社を利用し、稼げたときには大きなボーナスをせしめて、失敗したときにはリスクを資本(家)に押しつけるといった形で、「社員が資本(家)から搾取する」ことが可能になっている。お互いの欲がぶつかる汚い世界ではあるが、考えようによっては痛快な業界だ。
投資銀行は、たとえば外部の資本家が買収して経営権を取ったとしても、キープレーヤーがまとめて抜けてしまえば、もぬけの殻だ。それを阻止しようとすると、高い代償を払わなければならない。
かといって、かつてドイツ銀行がやったことがこれに近いと思うが、買収してもぬけの殻になるよりは個々の部品(=人材)を買って自分で組み立てた方がいいという路線を採ると、それはそれで、ひどく高く付く。ドイツ銀の参入が、投資銀行業界の人件費高騰に果たした役割は大きいという記事を、随分前に読んだことがあるが、カネだけ積んでも強い投資銀行が手に入るわけではない。
わがままで率直な愛すべきジャック・ウェルチがキダー・ピーボディーという投資銀行を買ったことについての反省の弁を「ウィニング 勝利の経営」(斉藤聖美訳、日本経済新聞社)から引用しよう。「バウンダリレスネス、チームワーク、率直さというGEのコア・バリューは、投資銀行の持つ三つのバリューと一緒になることがはできなかった。彼らのバリューは、私のボーナス、私のボーナス、私のボーナスに尽きる」(p265)
ただ、このように何とも逞しい投資銀行業界の人々ではあるのだが、サブプライム問題で「証券化」が疑いの目で見られるようになると、次の儲け口は何なのだろうか。もちろん、証券化自体が悪いわけではないし、将来無くなるわけでもないだろうが、投資家はしばらくの間、証券化商品全般に対して慎重だろうから、マーケットは拡大しまい。拡大を続けてきたM&Aにもさすがに一服感があるようだ。
もちろん優秀な狩人たちが揃っているから、いずれは新しいカモを見つけて来るだろうが、当面、狩人の数が多すぎる可能性はあろう。
シティグループといえば、先般「週刊SPA!」の「経営者オブザイヤー」の対談(メンバーは、須田慎一郎氏、山本一郎氏と私の3人)の「ワースト部門」で、私が「日本をなめているとしか言いようのないシティグループ」(受賞対象者はプリンス前CEO)を、ワルの筆頭としてあげたところ、他のメンバーからも圧倒的な賛成を得た。
「日本をなめている」とは、そもそも日本のプライベート・バンキング部門があまりの悪事の酷さに閉鎖処分となって日本から追い出されたにもかかわらず、本来だったら東証上場廃止でいい(と私は思った)日興コーディアルを傘下に入れる形で、性懲りもなく、日本の金持ちをカモりに再上陸すること、そして、東証に上場したその日にざっと1兆円ほどのサブプライムの追加損失を発表したことなどを指す。特に、東証上場に関しては、このようなバランスシート自体が信用ならない会社をどうして今上場させるのか不思議だし、追加損失の発生に対しては、即刻管理ポストに移して、上場廃止を検討すべきだろう。アブダビがカネを入れるくらいだから倒産しないのかも知れないが、現状では、日本の一般投資家に広く売り買いさせていい信用(特に情報の)があるとは思えない。
報道によると、アブダビからの資金は利回り11%だという。ドル建てなのだとしてもこれは高い。シティの損失はまだまだこれから現れる公算が大きく、これで立ち直るのか、一時の見せ金で焼け石に水と終わるのかは現時点では分からない。
モルガンスタンレーは、サブプライム問題では、ライバルであった(もう過去形?)ゴールドマン・サックスと随分差が付いたが、UBSと共に、会社のカネでリスクを取り、上手く行けばデカいボーナスをせしめる逞しい人々が前線で働いているので、この程度の損が出ることがあるのは仕方がない。
中国にしても、シンガポールにしても、外国から多額の資本が入ると、日本の金融機関なら、乗っ取られるかも知れないとか、外資の軍門に下ったなどと大騒ぎしかねないが、これらの会社の社員達はにとっては「平気」だろう。彼らは、リスクを取って使うことができる資本と儲けたときのボーナスの約束があれば、資本など誰のものであっても構わない。
かつて「資本(家)が労働者を搾取する」という表現があったが、投資銀行の世界では専門性と従って情報上の優位(マーケット、商品やリスクの仕組みに関する知識、顧客に対するアクセス)を持った社員が、成功報酬(オプションとして評価すると、実は稼ぐ前から価値は大きい)の形で資本と会社を利用し、稼げたときには大きなボーナスをせしめて、失敗したときにはリスクを資本(家)に押しつけるといった形で、「社員が資本(家)から搾取する」ことが可能になっている。お互いの欲がぶつかる汚い世界ではあるが、考えようによっては痛快な業界だ。
投資銀行は、たとえば外部の資本家が買収して経営権を取ったとしても、キープレーヤーがまとめて抜けてしまえば、もぬけの殻だ。それを阻止しようとすると、高い代償を払わなければならない。
かといって、かつてドイツ銀行がやったことがこれに近いと思うが、買収してもぬけの殻になるよりは個々の部品(=人材)を買って自分で組み立てた方がいいという路線を採ると、それはそれで、ひどく高く付く。ドイツ銀の参入が、投資銀行業界の人件費高騰に果たした役割は大きいという記事を、随分前に読んだことがあるが、カネだけ積んでも強い投資銀行が手に入るわけではない。
わがままで率直な愛すべきジャック・ウェルチがキダー・ピーボディーという投資銀行を買ったことについての反省の弁を「ウィニング 勝利の経営」(斉藤聖美訳、日本経済新聞社)から引用しよう。「バウンダリレスネス、チームワーク、率直さというGEのコア・バリューは、投資銀行の持つ三つのバリューと一緒になることがはできなかった。彼らのバリューは、私のボーナス、私のボーナス、私のボーナスに尽きる」(p265)
ただ、このように何とも逞しい投資銀行業界の人々ではあるのだが、サブプライム問題で「証券化」が疑いの目で見られるようになると、次の儲け口は何なのだろうか。もちろん、証券化自体が悪いわけではないし、将来無くなるわけでもないだろうが、投資家はしばらくの間、証券化商品全般に対して慎重だろうから、マーケットは拡大しまい。拡大を続けてきたM&Aにもさすがに一服感があるようだ。
もちろん優秀な狩人たちが揃っているから、いずれは新しいカモを見つけて来るだろうが、当面、狩人の数が多すぎる可能性はあろう。
コメント ( 13 ) | Trackback ( 0 )
« 「日本版国家... | 政治家と官僚... » |
http://ir.nikkei.co.jp/irftp/data/tdnr1/home/oracle/80/2007/2b1b095/2b1b0950.pdf
>社員が資本(家)から搾取する」
資本だけが希少な生産要素ではないですからね。
ちなみに、日本の金融機関には、株か債券の運用者しかないので、優先出資のようなハイブリッド証券の売込みがあると、株式部門は「そんな低リターンのもんはいらん!」、債券部門は「クーポンが支払われない可能性のある債券なんかいらん!」と取り合わないと聞いたことがあります。トホホですな。
ーーーーーー
その通りだと思います。今の投資銀行のリスクビジネスにおいては、モラルハザードが起きていると言えるのではないでしょうか。
かつて投資銀行の多くはパートナーシップ制で成り立っていました。最後までパートナーシップ制を維持したのは、ゴールドマンサックスでしたが、パートナーシップ制の時代に例えばトレーディングビジネスで成功した松本大氏(現在マネックス証券社長)が若くしてパートナーに登り詰めたのも、ひとつには「失敗したときにはリスクを資本(家)に押しつける」ことができないように、資本家と社員の利害を一致させることが求められたからではないかと思います。
しかし、投資銀行は、いわゆるM&A取引等の手数料収入ではなく、リスクを取って稼ぐビジネスの収入に重心を移すために、資本の充実を狙って、パートナーシップ制からを捨て株式公開に移行してきたと思うのですが、公開会社制度では、資本を充実させることができる半面、リスクビジネスを担う社員と資本家/株主との間で利害を一致させることが難しくなってしまったというのは、皮肉に思えます。
もし、こうしたモラルハザードが起きる仕組みにおいて、リスクビジネスによるリスクとリターンの分配がフェアになされていないとすると、すべての取引は行ってみれば、ババ抜きゲームに過ぎず、次の新たな商品も本質的にはババ抜きゲームになってしまう危険性があるように感じます。
(山崎さんのバブルの三条件を思い出しますが)
ぜひ「山本一郎」を検索してみてください。
次から次へと嘘をついてきた過去が明らかになります。
彼が現在メディアにでるときに名乗っているイレギュラーズアンドパートナーズ代表は、
帝国データバンクのサイトで検索しても何の情報もでてきません。
プレス・リリースのご紹介ありがとうございます。なるほど普通株に強制転換するのですね。転換までの期間が割合短いようですが、これはシティが、サブプライム問題をしのいだ場合に、買い入れ償却することができるということなのでしょうか。あるいは当面は株価が下押す可能性があるから、転換にタイムラグを作って増資するのか。
あと、アブダビは、カネは出すが口は出さないとも書いてありますね。シティ側には悪い条件ではなさそうにも見えますが、困ったがゆえに資本を受け入れたということではありそうです。
>Unknownさま
>「年寄りにあまり変な商品を持ち込まないで欲しい」とお願いしても止まらないので、
こういう、「どうせ日本でなのだから、稼げるだけ稼げ」とでもいうような感じのするところが、シティさんの嫌なところです。
>大学生さま
たまたま最近、東大卒2年目の若者とお酒を飲む機会があり、一人がコンサル、一人が投資銀行でした(ともに勿論外資系)。日本の会社的な下積み期間を省略して、伸び伸び仕事をしているようでした。もちろん、若い頃からかなりの年収になります。もともとビジネス適性と能力のある人にはいいなと思いました。
ただ、彼ら2人は学生の頃から普通の社会人と変わらぬ付き合いが出来たような、対人能力の高い人たちなので、はっきり言って日本の会社的下積みは時間の無駄でしょう。
一方、能力を発揮したり、場に慣れたりするのに、時間を要するタイプの人も居り(絶対的な能力は高いことがあるのですが)、こういう人は、入社1,2年目からいきなり差が付いて行くような職場でもみくちゃになるよりも、時間を掛けて人材価値を作るといいと思います。
>marre azzurroさま
鋭いご指摘ありがとうございます。
確かに、仕事の本質と会社の目的を考えると、投資銀行は、パートナーシップが理想かなと思います。
>UNKNOWNさま
リスク管理感覚の発達した、日本の組織でエリートになるようなタイプの人が、案外外資でパッとしないことがあるのは、一つには、この「勇気」になじめない場合があるからでしょう。
>ルーカスさま
山本一郎さんとは主にSPA!で数回お会いしたことがあるだけです。
私には情報の真偽を確認できない噂話をされることはありますが、その種の情報は、真偽を確認してから使えばいいので、困ったことはありませんし、会っていて嫌な思いをしたことはありません。会うのが楽しみな相手です。
「いい人」だと思うけどなあ、というのが彼に対する第一感なのですが、私が彼の「いい人」の部分としか触れていないからそう思うのかも知れません。
何れにせよ、私は、対人的にはかなりのお人好しなので、山本一郎氏に限らず、他人を信用しすぎないように気をつけることにします。
>資本(家)が労働者を搾取する
それが可能だったのは資本(家)が生産手段を握
り、労働者が労働力しか持たず、かつ労働力が「一定
の条件を満たせば誰でも良い」からであったと思いま
す。投資業界においては「誰の金であっても金には変
り無い(それがお金というもの?)」から資本(家)
が搾取される側になっているのでしょう。
確か経営コンサルタントの大前研一氏(山崎さまと
は見方の違う方でしょうが)が「世界は今カネ余り
で、それが一斉に押しかけまた一斉に引く事によって
あちこちの市場を乱高下させている」といった事を
言っていました。「カネ余り」という状況がファンド
マネージャーの"価値"を押し上げているのではないか
と自分は思います。原油や穀物といった市場を乱高下
させる事で、本当にそれを必要とする人が苦しめられ
ています(ガソリン代が!食料品が!)。それを思う
とそのうち「マネーが経済を滅ぼす」のではないかと
思ったりします。イースター島もかつては森に覆われ
ていたらしいですが、住民がモアイ作りに熱中して木
を伐採しまくって結果今では森はほとんど無くなった
という説があるそうですが、世界もそのうち「有り余
るマネーしかない"マネー荒野"」になるのではないで
しょうか。かといってマネーを減らせば不景気になる
でしょうし、それに耐えられない人達もいるで
しょう。かつてダイエーが土地で成長し、土地で潰れ
たように、マネーが経済を発展させ、マネーによって
我々は多くのものを手に入れられ、そしてマネーに
よって経済が潰れるというか「双六の上がり」状態に
なるのも成り行きではないかと思ったりします。
さて、「カネは出すが口は出さない」とは、また豪気なことをおっしゃる。しかし言うまでもないことですが、そういう時ほど怖い。むしろ両方出してもらったほうが、商売としては健全だとは思いますが、それはそれ、シティもそれなりにタヌキでしょうから、考えはあるのでしょう。
やれやれ、どこを向いてもタヌキだらけだな。
弊社に群がる某営業君も、即時的なリターンばかりを求めるので、人間性を疑いはしないまでも、長期的なパートナーではないな、と感じます。
同様に投資銀行の社員も投資銀行の存続や、戦うリングの安定性などにネガを感じ、継続的な利回りを出しにくいいう判断が、「私のボーナス」を優先させるのではないでしょうか?
逆に師匠の本には逆らいますが、198万円の初値が3億円に育ったyahoo株のように、長期的にその企業に属していたほうが結局はトクだった、というような企業体であるべきかな、とITベンチャー社長としては胸に刻んだ次第です。
今年の株価の動きは、一般人には買えないところで上がる、もう下がらないだろうというところから爆下げする。
大資本による力づくの操作無しには説明がつかない状況だと思いました。
こんなことがずっとまかり通るのであれば、だれも株なんか買わなくなるとも思いました。
でも人間に欲がある限り、儲け話があると、過去の失敗を忘れて、ついつい資産運用という名のもとに、いろいろと買うのでしょうね。
山崎先生みたいにハッキリとモノを言われる方がいて、すっきりします。
また、勉強になるお話しを楽しみにしております。
PS:2年で・・・の本も購入させていただきました。
とても勉強になります。