山南ノート4【劇団夢桟敷】

山南ノート4冊目(2008.10.3~)
劇団夢桟敷の活動や個人のことなどのメモとして公開中。

お月さまが見ている

2009-05-10 23:16:49 | モノローグ【エトセトラ】
誰もいないだろうと思って、台詞を吐いてみた。
 
「あ~、お月さまが見ている。」

これは「少女椿」みどりちゃんが見世物小屋の男から勧誘された時の台詞。
活字を声に出してみたくなる夜である。

 
ところが、誰もいないだろうと思っていたのが大間違いで、隣の住人101号室のおばあちゃんが見ていた。
玄関の前で、一瞬、固まった。
私の秘密を見られたような気がした。ぶつぶつ、ひとり言をいう人間に思われたくない。職業だ。 
 
おばあちゃんはアルツハイマーを装っており、「あんた、誰だったかね。」と何度も聞いてくる。
夜中に駐車場をうろうろ歩くおばあちゃんである。車で出る時は轢いてはならないと細心の注意を払っている。
アルツハイマーは仮の姿である。正気なのだ。
その証拠に「さて、私は誰だったのでしょう!」と応えると、腹の底から笑い転げて「あんたは隣の旦那さんですよ。」と指をさす。
その笑顔は天使の微笑み。
 
お月さまが笑っていた。ほぼ満月。