イチロー引退の衝撃(2)―アメリカ社会はイチローに何を見て何を評価したか―
前回は、3月21日の夜、東京ドームに駆けつけたファンが、深夜になっても帰る人もなくイチローに
別れを惜しんだ、筋書きには無かった感動的なドラマについて書きました。
それではイチローの本拠地、海の向こうのアメリカでは、イチローの引退にたいしてどのような反応が
あったのでしょうか?
まずは、イチローが所属している『シアトル・タイムス』(3月21日)です。翌日の見出しは 「永
遠の感謝」(Forever Grateful) で、多くの関係者の声が寄せています(注1)。
オーナーのジョン・スタントンは、次のように感謝を述べています。
イチローは2001年に外国人選手にとって新時代の開拓者としてやってきて、衝撃を持って切り
拓いた。彼が日々みせる技術、情熱、準備、これらは真に偉大な者だけが選手生活を通じて成
しえることができる。我々は、彼がマリナーズとメジャリーグたいして行ってくれた全てに感
謝します。個人的には、彼が最後の年に私に与えてくれたアドバイスと洞察に感謝します。
2001年にスカウトマンとしてイチローと会った ジェリー・ディポトGMは、彼を選手としてだけ
でなく、人間としても尊敬している、とコメントしています。
マリナーズの大先輩で殿堂入りをしているケン・グリフィー・ジュニアは、「イチローは日米の壁を取
り外し一つにした偉大な選手」、と称賛しています。そして、イチローが殿堂入りするのを楽しみにし
ている、と締めくくっています。
スコット・サーヴァイス監督は、
監督として、また一ファンとして、私は彼が登録名簿から消えてしまうことが淋しい。しかし、
個人的に言わせてもらえば、彼が年間を通じて私たちとともにいてくれることを知って喜んで
います。昨シーズンにおいても、彼と交わした会話、彼が与えてくれた洞察と大局観は本当に
価値あるものでした。イチローは信じられないほどの実績をもっています。私は、イチローの
監督という特権を与えられたことが幸運で名誉なことだと感じています。
ジェフ・アイデルソン野球殿堂・博物館の館長は称賛しています。
イチローは途方もないプロ精神、尊敬、情熱、日本から持ち込んだ特徴をもって、アメリカの
野球に品格を与えてくれた。・・彼はどの試合においても優美さとスタイルと驚くべき一貫性
を発揮していた。彼の多くの業績は殿堂入りに値するものです。・・・彼の成功がとても意義
深いものであるというのは、彼が生まれ育った文化とは全く異なる文化の中で生活しながらも、
これだけの業績を達成したからです。
『シアトル・タイムス』紙はマリナーズの本拠地の新聞であるから、関係者の称賛と感謝の声が多く寄
せられているのは当然ですが、その他のアメリカのメディアはどんな反応をしたのでしょうか。
まず『ニューヨーク・タイムス』紙は「45才でイチローは日本のパイオニアとしてのキャリアを終え
た」と淡々と事実を伝えました。
ところが同じニューヨークの新聞でも、『ニューヨーク・ポスト』(日本でいえば『東スポ』のような
新聞だそうです)は、
イチローはエルビス・プレスビーとベーブルースとビル・ゲイツを一人にしたような存在だっ
た。彼は象徴であり、アイドルであり、神話だった。
と、日本の新聞でも書かないような、最大限の賛辞を送っています(注2)。
『ワシントン・ポスト』紙は、“引退するイチローはマドンナのようだ”との見出しで、かつての同僚、
長谷川投手の言葉を引用して、“彼はたんたる野球選手ではない。マドンナやマイケルジャクソンと同
じような存在だ」と書いています(注3)。
しかし、何といっても世間を驚かせたのは、イチローをこよなく尊敬し、引退試合となったあの夜に大
粒の涙を浮かべていたチームメイトのディー・ゴードンが、3月29日の『シアトル・タイムス』1面
の全面広告という形で、イチローへの感謝を表わしたことでした(4)。かなり長文なので、彼の気持
ちがこもっている部分だけを抜き出して引用しておきます。
ありがとう イチロー
まず初めに、僕の素晴らしい友人でいてくれて、そして今までで1番好きな野球選手でいてくれ
てありがとう。・・・
僕が野球を始める前、あなたを見て「ワオ、彼は僕みたいに細いのに...彼ができるなら僕にだ
ってできるだろう!」と思ったのを覚えています。あなたの姿が、僕に野球をやりたいって思
わせてくれたんだ。・・・・
エイボン・パーク(Avon Park:フロリダ州にあるゴードン選手の出身地)に住んでいた少年時
代から、あなたは僕のヒーローだった。
あなた以外はみんな、ホームランを打つようなスラッガーだった。でもあなたは自分に、あなた
の仕事に、プロセスに、そして1番大事な...あなたの文化に忠実だった。周りの選手は僕らの倍
くらい大きいけれど、不可能はない。このスポーツで、僕がやりたいこと何でも、すべてが可能
だと、あなたは見せてくれたんだ。・・・・・
でも2015年、僕がマイアミに移籍すると、数日後、なんとあなたもマイアミと契約したんだ!
僕は嬉しすぎて飛び上がり、親友に叫んだんだ。「聞いてよ!イチローとプレーできるんだ!ま
じかよ!この僕が?嘘だろ!?」ってね。・・・・・
あなたがやっと到着して、僕があなたに挨拶に行ったら...もう、あなたはめちゃくちゃ優しか
ったよね。あなたは、僕を可能な限り支援してくれる、と言った。誓うよ、あれは嬉しかった。
今でも僕は「僕はイチとプレーしてるんだぜ!小さいエイボン・パーク出身の僕がだよ?」って
信じられないくらいです。・・・・
そしてあなたの「秘密」を教えてくれていなければ(大丈夫、絶対言わないから!)、今の「打
撃王・ディー・ゴードン」は誕生していなかったよ。
もう説明は不要ですが、イチローがいかに尊敬され愛されているかが、良く分かります。
ところで私はオリックス時代から優れたアスリートとしてイチローを高く評価していましたが、偶然、イ
チローがシアトル・マリナーズに移籍した2001年の1年を振り返るドキュメンタリーを見て,大げさ
でなくショックを受けました。それは、『シアトル・タイムス』のベースボール担当のスポーツ記者の目
をとおしてイチローを追ったドキュメンタリー(英語版。日本語訳付き)でした(注5)。
このドキュメンタリーを見て、日本では想像もできないほどアメリカ社会でイチローは高く評価され、愛
されていることをに驚きました。
イチローは渡米初年度の、2001年ルーキー・イヤーに、首位打者、ア・リーグの新人王とMVP、最
多安打、と次々と金字塔を打ち立ててゆきました。これにはアメリカの大リーガーたちもさすがに驚嘆し
ました。
しかし、私がイチローに興味をもったのは、野球人としてのイチローよりはむしろ、人間として、そして
日本文化の体現者としてアメリカ社会に与えた文化的・社会的なインパクトでした。
たとえば、彼がマリナーズの他のスター選手と一緒にシアトルの小学校を訪れた時、教室に集まっていた
生徒は、まだイチローが現れる前からもう興奮状態でした。
校長先生は、一生懸命静かにするように語りかけますが、止まりません。
“この子どもたちは自分たちがいかにラッキーであるかを知っています。それはイチローがくるからです
・・”とのナレーションに続いてイチローが入ってくると、子どもたちの興奮は絶頂に達します。子ども
たちの目は大きく見開いたままです。
イチローの話が終わって、みんなで床に座ってマリナーズの試合の映像を見る時、イチローがゆっくりと
歩いて子どもたちの間に入って一緒に座ります。
すると、周りの子どもたちは一斉にイチローの首に抱きつき、全身でイチローへの想いを現します。
こんな風に受け入れられた日本人選手はいたでしょうか?子供は正直でストレートです。
また、イチローの出現は、アメリカに住むアジア系のアメリカ人に大きな自信と誇りを与えました。彼ら
は口々に、アジア人のイチローは,体は小さくても、ここまでやれるんだ、という事を示してくれる、と
絶賛しています。
ワシントン大学のある教授が行った調査が紹介されています。それによれば、アジア系の若者に、「希望
を与えてくれる人物は誰か」との質問の答えは、一位がイエス・キリストで75%、そして次が何とイチ
ローで25%なのです!
このほか、ここで紹介できないくらい、イチローがアメリカ社会に与えた影響が多方面に及んでいます。
たとえば、試合が始まる夕方、“夕食の支度をする主婦の手を止めさせたのはイチローだけです”という
のも面白いエピソードの一つです。
実は、それまで私は、野球をたんにスポーツの一つとしてしか見ていなかったのですが、この映像をみて
から、それは非常に大切な「文化」でもあるという認識を新たにしました。
この映像を見て以来十数年、今での、異文化との出会いをテーマとする私の授業で、毎年、イギリスの貴
族的なクリケットを変換して、庶民の「ベースボール」というアメリカのスポーツ文化を生み出した歴史
と、そこに日本的な「野球」を持ち込んだ日本人のイチローの意義を講義で取り上げています。
先に触れた、ディポト・ゼネラルマネジャー(GM)がイチローを「ダライ・ラマのような存在だ」と評し
たように、アメリカ社会はイチローの中に、たんなる優れた野球選手以外に日本的な、というか東洋的な
精神性をみたようです(注6)
このブログでも「イチローの本当のすごさ」という全体のテーマで2013年の8月27日(「4000本安
打に込めたメッセージ」)、9月1日(「ベースボールに「野球」を持ち込んだ男」)、9月6日(「人
間イチローとアメリカ社会」)の三回にわたってを書いていますので、関心のある方はお読みください。
イチローが今後、どのような方向に進むのか、彼は全く語っていませんが、マリナーズ球団としては、か
なりの確率で、彼はマリナーズのフロントに入り、アドアイザー的な役割を果たしてゆくようです。
(注1)https://www.seattletimes.com/sports/mariners/forever-grateful-reaction-to-ichiros-retirement-from-around-baseball-seattle-sports-world/">https://www.seattletimes.com/sports/mariners/forever-grateful-reaction-to-ichiros-retirement-from-around-baseball-seattle-sports-world/
(注2)https://nypost.com/2019/03/21/ichiros-greatness-defined-by-risking-it-all-to-come-to-mlb/
(注3)https://www.washingtonpost.com/sports/2019/03/21/japan-baseball-is-king-retiring-ichiro-suzuki-is-like-madonna-michael-jackson/?utm_term=.92805d004f15
(注4)https://www.seattletimes.com/sports/mariners/thank-you-ichiro-dee-gordon-takes-out-full-page-ad-in-the-seattle-times-dedicated-to-ichiro/
全文と日本語訳は https://www.huffingtonpost.jp/entry/ichiro-dee-seattle_jp_5c9d7ae5e4b00ba63279b8f1
(注5)NHKのBSで放送されたものを録画しましたが、残念ならが放映日時と正式なタイトルは、録画した映像には記録していません。
(注6)『日経新聞』電子版(2019/3/22 1:59)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42755840S9A320C1UU2000/?n_cid=NMAIL007
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イチローと出迎えるチームメイトとゴードン選手 出典は(注4) イチローと抱き合うゴードン選手 出典は(注4)
前回は、3月21日の夜、東京ドームに駆けつけたファンが、深夜になっても帰る人もなくイチローに
別れを惜しんだ、筋書きには無かった感動的なドラマについて書きました。
それではイチローの本拠地、海の向こうのアメリカでは、イチローの引退にたいしてどのような反応が
あったのでしょうか?
まずは、イチローが所属している『シアトル・タイムス』(3月21日)です。翌日の見出しは 「永
遠の感謝」(Forever Grateful) で、多くの関係者の声が寄せています(注1)。
オーナーのジョン・スタントンは、次のように感謝を述べています。
イチローは2001年に外国人選手にとって新時代の開拓者としてやってきて、衝撃を持って切り
拓いた。彼が日々みせる技術、情熱、準備、これらは真に偉大な者だけが選手生活を通じて成
しえることができる。我々は、彼がマリナーズとメジャリーグたいして行ってくれた全てに感
謝します。個人的には、彼が最後の年に私に与えてくれたアドバイスと洞察に感謝します。
2001年にスカウトマンとしてイチローと会った ジェリー・ディポトGMは、彼を選手としてだけ
でなく、人間としても尊敬している、とコメントしています。
マリナーズの大先輩で殿堂入りをしているケン・グリフィー・ジュニアは、「イチローは日米の壁を取
り外し一つにした偉大な選手」、と称賛しています。そして、イチローが殿堂入りするのを楽しみにし
ている、と締めくくっています。
スコット・サーヴァイス監督は、
監督として、また一ファンとして、私は彼が登録名簿から消えてしまうことが淋しい。しかし、
個人的に言わせてもらえば、彼が年間を通じて私たちとともにいてくれることを知って喜んで
います。昨シーズンにおいても、彼と交わした会話、彼が与えてくれた洞察と大局観は本当に
価値あるものでした。イチローは信じられないほどの実績をもっています。私は、イチローの
監督という特権を与えられたことが幸運で名誉なことだと感じています。
ジェフ・アイデルソン野球殿堂・博物館の館長は称賛しています。
イチローは途方もないプロ精神、尊敬、情熱、日本から持ち込んだ特徴をもって、アメリカの
野球に品格を与えてくれた。・・彼はどの試合においても優美さとスタイルと驚くべき一貫性
を発揮していた。彼の多くの業績は殿堂入りに値するものです。・・・彼の成功がとても意義
深いものであるというのは、彼が生まれ育った文化とは全く異なる文化の中で生活しながらも、
これだけの業績を達成したからです。
『シアトル・タイムス』紙はマリナーズの本拠地の新聞であるから、関係者の称賛と感謝の声が多く寄
せられているのは当然ですが、その他のアメリカのメディアはどんな反応をしたのでしょうか。
まず『ニューヨーク・タイムス』紙は「45才でイチローは日本のパイオニアとしてのキャリアを終え
た」と淡々と事実を伝えました。
ところが同じニューヨークの新聞でも、『ニューヨーク・ポスト』(日本でいえば『東スポ』のような
新聞だそうです)は、
イチローはエルビス・プレスビーとベーブルースとビル・ゲイツを一人にしたような存在だっ
た。彼は象徴であり、アイドルであり、神話だった。
と、日本の新聞でも書かないような、最大限の賛辞を送っています(注2)。
『ワシントン・ポスト』紙は、“引退するイチローはマドンナのようだ”との見出しで、かつての同僚、
長谷川投手の言葉を引用して、“彼はたんたる野球選手ではない。マドンナやマイケルジャクソンと同
じような存在だ」と書いています(注3)。
しかし、何といっても世間を驚かせたのは、イチローをこよなく尊敬し、引退試合となったあの夜に大
粒の涙を浮かべていたチームメイトのディー・ゴードンが、3月29日の『シアトル・タイムス』1面
の全面広告という形で、イチローへの感謝を表わしたことでした(4)。かなり長文なので、彼の気持
ちがこもっている部分だけを抜き出して引用しておきます。
ありがとう イチロー
まず初めに、僕の素晴らしい友人でいてくれて、そして今までで1番好きな野球選手でいてくれ
てありがとう。・・・
僕が野球を始める前、あなたを見て「ワオ、彼は僕みたいに細いのに...彼ができるなら僕にだ
ってできるだろう!」と思ったのを覚えています。あなたの姿が、僕に野球をやりたいって思
わせてくれたんだ。・・・・
エイボン・パーク(Avon Park:フロリダ州にあるゴードン選手の出身地)に住んでいた少年時
代から、あなたは僕のヒーローだった。
あなた以外はみんな、ホームランを打つようなスラッガーだった。でもあなたは自分に、あなた
の仕事に、プロセスに、そして1番大事な...あなたの文化に忠実だった。周りの選手は僕らの倍
くらい大きいけれど、不可能はない。このスポーツで、僕がやりたいこと何でも、すべてが可能
だと、あなたは見せてくれたんだ。・・・・・
でも2015年、僕がマイアミに移籍すると、数日後、なんとあなたもマイアミと契約したんだ!
僕は嬉しすぎて飛び上がり、親友に叫んだんだ。「聞いてよ!イチローとプレーできるんだ!ま
じかよ!この僕が?嘘だろ!?」ってね。・・・・・
あなたがやっと到着して、僕があなたに挨拶に行ったら...もう、あなたはめちゃくちゃ優しか
ったよね。あなたは、僕を可能な限り支援してくれる、と言った。誓うよ、あれは嬉しかった。
今でも僕は「僕はイチとプレーしてるんだぜ!小さいエイボン・パーク出身の僕がだよ?」って
信じられないくらいです。・・・・
そしてあなたの「秘密」を教えてくれていなければ(大丈夫、絶対言わないから!)、今の「打
撃王・ディー・ゴードン」は誕生していなかったよ。
もう説明は不要ですが、イチローがいかに尊敬され愛されているかが、良く分かります。
ところで私はオリックス時代から優れたアスリートとしてイチローを高く評価していましたが、偶然、イ
チローがシアトル・マリナーズに移籍した2001年の1年を振り返るドキュメンタリーを見て,大げさ
でなくショックを受けました。それは、『シアトル・タイムス』のベースボール担当のスポーツ記者の目
をとおしてイチローを追ったドキュメンタリー(英語版。日本語訳付き)でした(注5)。
このドキュメンタリーを見て、日本では想像もできないほどアメリカ社会でイチローは高く評価され、愛
されていることをに驚きました。
イチローは渡米初年度の、2001年ルーキー・イヤーに、首位打者、ア・リーグの新人王とMVP、最
多安打、と次々と金字塔を打ち立ててゆきました。これにはアメリカの大リーガーたちもさすがに驚嘆し
ました。
しかし、私がイチローに興味をもったのは、野球人としてのイチローよりはむしろ、人間として、そして
日本文化の体現者としてアメリカ社会に与えた文化的・社会的なインパクトでした。
たとえば、彼がマリナーズの他のスター選手と一緒にシアトルの小学校を訪れた時、教室に集まっていた
生徒は、まだイチローが現れる前からもう興奮状態でした。
校長先生は、一生懸命静かにするように語りかけますが、止まりません。
“この子どもたちは自分たちがいかにラッキーであるかを知っています。それはイチローがくるからです
・・”とのナレーションに続いてイチローが入ってくると、子どもたちの興奮は絶頂に達します。子ども
たちの目は大きく見開いたままです。
イチローの話が終わって、みんなで床に座ってマリナーズの試合の映像を見る時、イチローがゆっくりと
歩いて子どもたちの間に入って一緒に座ります。
すると、周りの子どもたちは一斉にイチローの首に抱きつき、全身でイチローへの想いを現します。
こんな風に受け入れられた日本人選手はいたでしょうか?子供は正直でストレートです。
また、イチローの出現は、アメリカに住むアジア系のアメリカ人に大きな自信と誇りを与えました。彼ら
は口々に、アジア人のイチローは,体は小さくても、ここまでやれるんだ、という事を示してくれる、と
絶賛しています。
ワシントン大学のある教授が行った調査が紹介されています。それによれば、アジア系の若者に、「希望
を与えてくれる人物は誰か」との質問の答えは、一位がイエス・キリストで75%、そして次が何とイチ
ローで25%なのです!
このほか、ここで紹介できないくらい、イチローがアメリカ社会に与えた影響が多方面に及んでいます。
たとえば、試合が始まる夕方、“夕食の支度をする主婦の手を止めさせたのはイチローだけです”という
のも面白いエピソードの一つです。
実は、それまで私は、野球をたんにスポーツの一つとしてしか見ていなかったのですが、この映像をみて
から、それは非常に大切な「文化」でもあるという認識を新たにしました。
この映像を見て以来十数年、今での、異文化との出会いをテーマとする私の授業で、毎年、イギリスの貴
族的なクリケットを変換して、庶民の「ベースボール」というアメリカのスポーツ文化を生み出した歴史
と、そこに日本的な「野球」を持ち込んだ日本人のイチローの意義を講義で取り上げています。
先に触れた、ディポト・ゼネラルマネジャー(GM)がイチローを「ダライ・ラマのような存在だ」と評し
たように、アメリカ社会はイチローの中に、たんなる優れた野球選手以外に日本的な、というか東洋的な
精神性をみたようです(注6)
このブログでも「イチローの本当のすごさ」という全体のテーマで2013年の8月27日(「4000本安
打に込めたメッセージ」)、9月1日(「ベースボールに「野球」を持ち込んだ男」)、9月6日(「人
間イチローとアメリカ社会」)の三回にわたってを書いていますので、関心のある方はお読みください。
イチローが今後、どのような方向に進むのか、彼は全く語っていませんが、マリナーズ球団としては、か
なりの確率で、彼はマリナーズのフロントに入り、アドアイザー的な役割を果たしてゆくようです。
(注1)https://www.seattletimes.com/sports/mariners/forever-grateful-reaction-to-ichiros-retirement-from-around-baseball-seattle-sports-world/">https://www.seattletimes.com/sports/mariners/forever-grateful-reaction-to-ichiros-retirement-from-around-baseball-seattle-sports-world/
(注2)https://nypost.com/2019/03/21/ichiros-greatness-defined-by-risking-it-all-to-come-to-mlb/
(注3)https://www.washingtonpost.com/sports/2019/03/21/japan-baseball-is-king-retiring-ichiro-suzuki-is-like-madonna-michael-jackson/?utm_term=.92805d004f15
(注4)https://www.seattletimes.com/sports/mariners/thank-you-ichiro-dee-gordon-takes-out-full-page-ad-in-the-seattle-times-dedicated-to-ichiro/
全文と日本語訳は https://www.huffingtonpost.jp/entry/ichiro-dee-seattle_jp_5c9d7ae5e4b00ba63279b8f1
(注5)NHKのBSで放送されたものを録画しましたが、残念ならが放映日時と正式なタイトルは、録画した映像には記録していません。
(注6)『日経新聞』電子版(2019/3/22 1:59)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42755840S9A320C1UU2000/?n_cid=NMAIL007
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イチローと出迎えるチームメイトとゴードン選手 出典は(注4) イチローと抱き合うゴードン選手 出典は(注4)