大木昌の雑記帳

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大谷翔平の衝撃-メジャーリーグを3度救った日本人選手-

2021-07-18 09:29:09 | スポーツ
大谷翔平の衝撃-メジャーリーグを3度救った日本人選手-

意外に聞こえるかも知れませんが、私は、これまでアメリカの野球界(メジャーリーグ=
MLB)を3人の日本人選手が救ってきたと思っています。

もちろん、現在では、圧倒的に大谷翔平人気ですが、その前に1995年に近鉄バファロ
ーズ(現オリックス)から投手としてロサンジェルス・ドジャーズに入団した野茂英雄と、
2000年11月にオリックスから野手としてシアトル・マリナーズに入団したイチロー
に触れておかなければなりません。

野茂が渡米したMLBは、1994年から長期のストライキに入っていて、アメリカでは
野球にたいする人気が急落していました。

そこに、日本人としては32シーズンぶりにメジャーリーガーとして登場したのが野茂で
した。

野茂は、身体を竜巻のようにねじって投げる独特のフォームで、「トルネード投法」とい
われました。

この独特のフォームで、バッターを次つぎと三振に打ち取ってゆきました。当時、“サンシ
ン”、という日本語が流行し、”NOMOMANIA” という英語の造語が登場しました。

野茂の投球はたちまち、野球に対するアメリカ人の興味を復活させ、人びとが球場に足を
運ぶようになりました。まさに野茂はMLBにとって“救世主”だったのです。

続いてイチローですが、彼がマリナーズに入団した年の翌年(2011)は、いわゆる
「9・11」テロ事件が勃発した年で、アメリカ社会は戦争ムード一色で、人びとの関心
は野球から離れてしまいました。

このタイミングで日本からやってきたのがイチローでした。彼は打って、走って、守って、
驚異的な活躍をして、全米の注目を再び野球に引きつけました。

彼は、ルーティーンの体操で体をほぐした後、打席にはいると、サムライが刀を突き出す
ような独特のしぐさでボールを待ちます。これがまた神秘的な雰囲気を醸し出し、アメリ
カのファンを魅了しました。

このイチロー・スタイルを子どもたちがたちまち真似するようになりました。子どもだけ
でなく、当時、地元のシアトルでは、“夕食の支度をする主婦の手を止めさせたのはイチロ
ーだけです”と言われました。

イチローの登場はアメリカに住むアジア系の人びとに、自身と勇気を与えました。この意
味で、イチローという存在は「社会現象」となったのです。

さて、いよいよ大谷翔平です。彼は2017年のオフに日本ハムからロサンゼルス・エン
ジェルスに移籍しました。そして、実際の出場は2018年のシーズンからでした。

この年の成績はこのシーズンは打者として打率・285、22本塁打、61打点、10盗塁。投手
としては10試合に先発登板し4勝2敗、防御率3・31の成績を残し、MLB史上初の「10登板、
20本塁打、10盗塁」を達成し、シーズンを終了しました。

しかし、かねてからの問題であった肘の故障で10月にトミー・ジョン手術をうけ、翌年
2019年9月には膝の手術を受けました。

このため、事実上2019年の後半と2020年はもっぱらリハビリに専念する事になり
ました。

一部には、大谷をマイナー・リーグに落とした方が良いのではないか、という意見もでて
いました。しかし、この時期が、今年の大活躍をする体を作った重要な期間となりました。

そして、今年2021年のシーズンが始まると、投手とバッターという一人二役の二刀流
が果たして機能するのか、手術とリハビリ明けの今年、多くの人は注目していました。

蓋を開けてみれば、大谷は見違えるように生き生きと躍動し、オールスター前の前半だけ
で33本のホームランを放ちました。この数アメリカン・リーグとナショナル・リーグを
含めた全選手のトップです。

大谷の評価と人気は日ごとに高まり、ついに、オールスター・ゲームでは従来の規則を変
更してまでも、投手と代打の両方に出場可能にしたのです。MLBとファンの誰もが大谷
の二刀流を見たかったからです。

ちょっとオーバーに言えば、今年のMLB前半は、大谷のためのシーズンだったのです。
そして、多くの人をもう一度、野球への関心を高め、球場に足を運ばせたのです。

今期の大谷に成績を見てみましょう。投手としては13試合に登板し、4勝1敗、防御率
は3.49ですから、まあまあで特別好成績というわけではありません。

時々、投球が乱れて4連続四死球をだし、ワン・アウトもとれずに交代したこともありま
した。投手としては、後半戦に期待したいところです。

大谷が人々を惹きつけるのは、美しいフォームで軽々と遠くへ飛ばすホームランです。な
ぜならホームランは野球の「華」だからです。

大谷にはホームランの他にも優れた面がいくつかあります。それは、このシーズンでも見
せた、相手の守備陣形を見て行った、絶妙なセイフティー・バンドです。

次に、彼が12個の盗塁を決めていることです。投手であることを考えれば、全力疾走で
盗塁することは、普通は考えません。なぜなら、盗塁には体力の消耗の他に、二塁手と接
触して怪我をする危険性があるからです。

しかし、大谷は何より、チームが勝つことを優先しています。ある時、一塁に出ていた大
谷は、思い切った盗塁を決めて二塁に進みました。その日のインタビューで、(この日は
ホームランを打っているのですが)「今日の盗塁はホームランより価値があったと思う」
と述べています。

この盗塁で二塁まで進んでいたために、次のバッターのシングルヒットでホームまで全力
疾走で走り込みスライディングして間一髪セーフになりました。これが決勝点となってサ
ヨナラ勝ちしたのです。

この時、彼が仰向けになったまま両手を突きだして、喜びを全身で表現した光景が忘れら
れません。

こうした大谷のプレーを見ていると、日本の高校野球でたたき込まれた基本がしっかり身
についていると感じます。その一つが、全力疾走・チームプレーです。

いずれにしても、大谷が走る時の、その姿が実にほれぼれするほど美しい。これも大谷の
大きな魅力です。これに匹敵する美しい走りをするのはイチローくらいです。失礼を承知
でいえば、松井秀樹の走りはどことなくドタドタとした印象を与えます。

ちなみに、大谷とイチローとの対比で、興味深いことがあります。ファンは、大谷にホー
ムランを期待します。これに対して、イチローに関してあるシアトルの記者が語っていた
言葉が印象に残っています。彼は、イチローの全盛期のころ、次のように語っています。
    誰も、イチローがホームランを打たないことは知っている。そうではなくて、何
    でもない内野ゴロを見に来るんだ。普通ならアウトになってしまうのに、イチロ
    ーならひょっとして、俊足を飛ばしてセーフになるのではないか、というそのス
    リルを味わうために観戦にくるんだ。

一般にはホームランこそが野球の「華」、内野ゴロは失敗、と思われがちですが、アメリ
カのファンは野球の理解と楽しみ方が深いな、と思います。

野球選手としての大谷の活躍は申し分ないのですが、かれが全米で愛されているのは、人
間としての魅力も大いに影響しています。

まず「見栄え」の良さです。日本人の選手としては長身で193センチもあります。決し
て肥満ではなく筋肉は引き締まっていかにもしなやかな強靭さを感じさせます。それでも
どちらかといえば童顔でいつも笑顔を絶やさず好印象を与えます。

さらに、よくコメントとして挙げられるのは、彼の人柄、優しさ、飾らない素直さ、謙虚
さ、礼儀正しさ、笑顔、ひとなつっこさ(ちょっと持ち上げすぎかな)です。

これら全てを含めて、一言でいえば、大谷(アメリカでは “オータニ”または“ショーヘイ”)
はキュートでカッコイイ。彼が試合で登場すれば“ショータイム”になるのです。

アメリカのファンは、新たなヒーロ、オータニに熱狂している感があります。テレビのアナ
ウンサーも、”異星人”(space alien)、”怪物”(beast)という表現を使っていました。

アスリートとしての大谷の優れた面の他に、テレビやメデイァも大谷の人としての良さをた
びたび取り挙げています。たとえば、グラウンドを歩いているとき、彼が落ちていたゴミを
拾い、ごく自然にポケットに入れたシーンをカメラが捉えていました。

これは、「ゴミを拾うことは運を拾うことだ」という花巻東高校野球部の伝統で、部員にと
っては当たり前のルーティーンなのだそうです。全力疾走もゴミ拾いも、この高校での教育
のすばらしさがこういうところにも出ています。

この他にも、自分の投げたボールで相手チームのバッターが折れてしまったとき、大谷はそ
れを拾って、彼に手渡し、軽く背中をポンポンとたたきました。普通は、このようなことは
しないそうです。

最後に、大谷はホームラン・ダービーでもらった報酬、日本円で1650万円を、日ごろに
なっているスタッフに寄付したことを申し添えておきます。

後半では、ホームランだけでなく、投手大谷の“ショータイム”を是非みたいと思います。
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コロナウイルスはしぶとい。どんどん新人を送るよ。                  もう、どうしたらいいか分かんないよ

『東京新聞』(2021.7.4)   『東京新聞』(2021.7.14)                    

                               

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