感染爆発と国民のプチ反乱?
―「中止の考えはない。強い警戒感を持って帰省に臨む」―
2021年8月13日、全国の新型コロナの新規陽性が初めて、2万人を超えました。まさに、
火事は首都圏だけでなく、全国に燃え広がり収拾不可能な状態です。
折しも、現在はお盆の最中でふるさとへの帰省と休暇を利用しての旅行の季節です。政府や
東京都は、できるだけ帰省を控えるよう訴えています。それに対してSNSには多くの大喜
利川柳が寄せられています。あるサイトには25の秀作が掲載されています(注1)。
副題に引用した「中止の考えはない。強い警戒心を持って帰省に望む」は、オリンピック中
止の考えはないかと問われて「強い警戒感を持ってオリンピックに臨む」と答えた菅首相の
返事に対する、国民の側からのユーモアと皮肉を込めた傑作の一つです。
このほかにも傑作は多数ありますが、私が特に気に入ったものを、このブログ記事の最後で
もう少し引用しまが、いずれにしても、これらは、意識しているか無意識かは別にして、菅
政権の無策と、オリンピックの強行開催、安心安全という言葉の乱発、検査体制の不備など
の諸要因がウイルスのまん延を許し、行動の自由を奪われた国民の恨みを込めた“プチ反乱”
の表現ではないかとだと私は感じています。
さて、新型ウイルスの拡散問題に戻りましょう。昨年、私たちは、欧米の感染者が何万人、
というニュースに接して、欧米は大変なことになってるなと、やや同情も含めて感じていま
した。
日本においても、1か月前の7月13日には、新規陽性者は2377人でしたから、この一
か月でやく10倍弱に激増したことになります。
とりわけ、東京都の感染者は7月13日にはわずかに830人だったのですが、8月13日
には過去最高の5773人へ約7倍に膨れ上がってしまいました。東京都のモニタリング会
議の議長は「制御不能」との言葉で表現しています。
これに伴って、東京を囲む埼玉・神奈川・千葉の三県へ、さらには全国に沁み出すように感
染が拡大しました。
政府は経済的な打撃を恐れて、東京都に緊急事態宣言を出すことを躊躇していましたが、つ
いに7月12日には4回目の緊急事態宣言を発出し、すでに適用されていた沖県県に対して
も8月22日まで(後に31日まで延長)実施されました。
冒頭で述べた、日本における感染爆発は突然起こったわけではなく、専門家の間では以前か
ら予想され、警告が発せられていました。
たとえばオリンピックの開催について議論されていたころ、政府寄りとみられている政府感
染症対策分科会会長の尾身氏は早くも6月2日に国会で「パンデミック下でのオリンピック
開催は普通はないわけです」とはっきりと警告していました。
国民の間でも、三分の二くらいがオリンピック中止か延期すべきとの意見が主流でした。
政府は、海外からの選手・関係者には、「バブル方式」(泡の中に包み込んで、外部の日本人
とは接触させない方法)を適用し、安心安全なオリンピックを開催(7月23~8月8日)す
る、と反対意見を突っぱねていました。
この時、菅首相も関係閣僚も、明らかに国民の目を問題の本質から意図的に目をそらそうとし
ているように思えます。
専門家や国民が恐れていたのは、参加選手の健康よりはむしろ,五輪のような大規模のお祭
りをやることによって、人びとの気持ちが緩んでしまい、感染が拡大することだったのです。
事実、その後の経過をみれば、予想通り、人びとの気持ちは緩み、“不要不急”の外出は減るど
ころか増え、感染者は急激に増えていったのです。
感染症の専門家はすでに、7月23日の開会式のころには東京都だけでも4000~5000
人、さらに8月中には1万人の新規陽性者が出ても不思議はない、と警告していました。実際、
オリンピック期間中に、新規の感染者はうなぎのぼりに増加しました。
政府は当初から、一方でオリンピックを精一杯盛り上げようと必死でしたが、他方で国民に対
してはて、不要不急の外出は避け、家でテレビ観戦して欲しい、と呼びかけていました。
政府は一方で、オリンピックという盛大なお祭りを強行しておきながら国民には外出の自粛を
要求することの矛盾を、素朴ながら強烈に突いたのは子どもたちでした。
楽しみにしていた運動会が中止となった6月の始め、子供たちは「運動会は中止なのにオリン
ピックはやるの?」という疑問を、を先生や親ぶつけました。
四回目の緊急事態宣言にも関わらず、“人流”(いやな言葉ですが)の減り方はごくわずかで、
新規陽性者の数は増え続けました。
政府や東京都は、飲食店への時短営業や酒類の提供中止を要請しましたが、多くお店は実際に
は営業を続けていました。
これは、政府の言うことを聞いていたら、店はつぶれてしまうという、ギリギリの立場に立た
された経営者のやむに已まれぬ生活防衛であり、十分な補償もしないで一方的に時短営業を要
請し酒類の提供をやめさせようとする政府に対する“反乱”でもあったのです。
店から締め出された若者は夜の街で若者は「路上飲み」を盛んに楽しんでいました。最後は警
察官まで動員して、注意していましたが、一旦は移動しても、すぐに戻ってきて「路上飲み」
を再開していました。
若者にしてみれば、自分たちの大切な青春と楽しみを奪ったのは政府の無策と矛盾した政策だ
との怒りが心の底にあったのだと思います。
同様の感情は、多くの大人も感じていたに違いありません。昨年の帰省や旅行を諦めた人たち
には、もう政府の言うことばかりを聞いていられない、という感情があったのでしょう。
また、政府が帰省や旅行の中止が呼びかけたにも関わらず、航空便の予約は昨年の同期をはる
かに上回っています。
日本人の多くはオリンピックで競技そのものには感動したものの、菅政権に対する支持率は、
菅首相の期待に反して30%を切ったことに現れています。
日本人このような背景をと、冒頭に示した大喜利川柳の意味が、いっそう鮮明になります。私
が特に気に入ったものを以下にいくつか紹介します。(ほとんどは菅首相の言葉に対して)
「帰省を中止することは一番簡単なこと、楽なことだ。帰省に挑戦するのが国民の役割だ」
「コロナに打ち勝った証として帰省する」
「『帰省するな』ではなく、『どうやったら帰省できるか』を皆さんで考えて、どうにか
できるようにしてほしいと思います」
「我々は帰省の力を信じて今までやってきた。別の地平から見てきた言葉をそのまま言っ
てもなかなか通じづらいのではないか」(丸川大臣の言葉)
「帰省が感染拡大につながったエビデンスはない。中止の選択肢はない」
「(帰省について)政府は反発するだろうが、時間が経てば忘れるだろう」
「帰省することで、緊急事態宣言下でも帰省できるということを世界に示したい」
「帰省に反対するのは反日的な人たち」
「実際帰省したら、帰省に反対していた国民もやっぱり帰省して良かったと言い出すに違
いない。」
「予見できないアルマゲドンでもない限り帰省できる」(パウンドIOC委員)
「安全、安心な帰省を実現することにより、希望と勇気を政府の皆さまに届けられると考えている」
「(帰省の意義について)コロナ禍で分断された家族の間に絆を取り戻す大きな意義があ る」
こうして並べてみると、日本人のユーモアのセンスも捨てたものではない、と思います。
(注1)『よどきかく』https://yodokikaku.net/?p=46101 更新日:2021/8/12 公開日2021/8/4
―「中止の考えはない。強い警戒感を持って帰省に臨む」―
2021年8月13日、全国の新型コロナの新規陽性が初めて、2万人を超えました。まさに、
火事は首都圏だけでなく、全国に燃え広がり収拾不可能な状態です。
折しも、現在はお盆の最中でふるさとへの帰省と休暇を利用しての旅行の季節です。政府や
東京都は、できるだけ帰省を控えるよう訴えています。それに対してSNSには多くの大喜
利川柳が寄せられています。あるサイトには25の秀作が掲載されています(注1)。
副題に引用した「中止の考えはない。強い警戒心を持って帰省に望む」は、オリンピック中
止の考えはないかと問われて「強い警戒感を持ってオリンピックに臨む」と答えた菅首相の
返事に対する、国民の側からのユーモアと皮肉を込めた傑作の一つです。
このほかにも傑作は多数ありますが、私が特に気に入ったものを、このブログ記事の最後で
もう少し引用しまが、いずれにしても、これらは、意識しているか無意識かは別にして、菅
政権の無策と、オリンピックの強行開催、安心安全という言葉の乱発、検査体制の不備など
の諸要因がウイルスのまん延を許し、行動の自由を奪われた国民の恨みを込めた“プチ反乱”
の表現ではないかとだと私は感じています。
さて、新型ウイルスの拡散問題に戻りましょう。昨年、私たちは、欧米の感染者が何万人、
というニュースに接して、欧米は大変なことになってるなと、やや同情も含めて感じていま
した。
日本においても、1か月前の7月13日には、新規陽性者は2377人でしたから、この一
か月でやく10倍弱に激増したことになります。
とりわけ、東京都の感染者は7月13日にはわずかに830人だったのですが、8月13日
には過去最高の5773人へ約7倍に膨れ上がってしまいました。東京都のモニタリング会
議の議長は「制御不能」との言葉で表現しています。
これに伴って、東京を囲む埼玉・神奈川・千葉の三県へ、さらには全国に沁み出すように感
染が拡大しました。
政府は経済的な打撃を恐れて、東京都に緊急事態宣言を出すことを躊躇していましたが、つ
いに7月12日には4回目の緊急事態宣言を発出し、すでに適用されていた沖県県に対して
も8月22日まで(後に31日まで延長)実施されました。
冒頭で述べた、日本における感染爆発は突然起こったわけではなく、専門家の間では以前か
ら予想され、警告が発せられていました。
たとえばオリンピックの開催について議論されていたころ、政府寄りとみられている政府感
染症対策分科会会長の尾身氏は早くも6月2日に国会で「パンデミック下でのオリンピック
開催は普通はないわけです」とはっきりと警告していました。
国民の間でも、三分の二くらいがオリンピック中止か延期すべきとの意見が主流でした。
政府は、海外からの選手・関係者には、「バブル方式」(泡の中に包み込んで、外部の日本人
とは接触させない方法)を適用し、安心安全なオリンピックを開催(7月23~8月8日)す
る、と反対意見を突っぱねていました。
この時、菅首相も関係閣僚も、明らかに国民の目を問題の本質から意図的に目をそらそうとし
ているように思えます。
専門家や国民が恐れていたのは、参加選手の健康よりはむしろ,五輪のような大規模のお祭
りをやることによって、人びとの気持ちが緩んでしまい、感染が拡大することだったのです。
事実、その後の経過をみれば、予想通り、人びとの気持ちは緩み、“不要不急”の外出は減るど
ころか増え、感染者は急激に増えていったのです。
感染症の専門家はすでに、7月23日の開会式のころには東京都だけでも4000~5000
人、さらに8月中には1万人の新規陽性者が出ても不思議はない、と警告していました。実際、
オリンピック期間中に、新規の感染者はうなぎのぼりに増加しました。
政府は当初から、一方でオリンピックを精一杯盛り上げようと必死でしたが、他方で国民に対
してはて、不要不急の外出は避け、家でテレビ観戦して欲しい、と呼びかけていました。
政府は一方で、オリンピックという盛大なお祭りを強行しておきながら国民には外出の自粛を
要求することの矛盾を、素朴ながら強烈に突いたのは子どもたちでした。
楽しみにしていた運動会が中止となった6月の始め、子供たちは「運動会は中止なのにオリン
ピックはやるの?」という疑問を、を先生や親ぶつけました。
四回目の緊急事態宣言にも関わらず、“人流”(いやな言葉ですが)の減り方はごくわずかで、
新規陽性者の数は増え続けました。
政府や東京都は、飲食店への時短営業や酒類の提供中止を要請しましたが、多くお店は実際に
は営業を続けていました。
これは、政府の言うことを聞いていたら、店はつぶれてしまうという、ギリギリの立場に立た
された経営者のやむに已まれぬ生活防衛であり、十分な補償もしないで一方的に時短営業を要
請し酒類の提供をやめさせようとする政府に対する“反乱”でもあったのです。
店から締め出された若者は夜の街で若者は「路上飲み」を盛んに楽しんでいました。最後は警
察官まで動員して、注意していましたが、一旦は移動しても、すぐに戻ってきて「路上飲み」
を再開していました。
若者にしてみれば、自分たちの大切な青春と楽しみを奪ったのは政府の無策と矛盾した政策だ
との怒りが心の底にあったのだと思います。
同様の感情は、多くの大人も感じていたに違いありません。昨年の帰省や旅行を諦めた人たち
には、もう政府の言うことばかりを聞いていられない、という感情があったのでしょう。
また、政府が帰省や旅行の中止が呼びかけたにも関わらず、航空便の予約は昨年の同期をはる
かに上回っています。
日本人の多くはオリンピックで競技そのものには感動したものの、菅政権に対する支持率は、
菅首相の期待に反して30%を切ったことに現れています。
日本人このような背景をと、冒頭に示した大喜利川柳の意味が、いっそう鮮明になります。私
が特に気に入ったものを以下にいくつか紹介します。(ほとんどは菅首相の言葉に対して)
「帰省を中止することは一番簡単なこと、楽なことだ。帰省に挑戦するのが国民の役割だ」
「コロナに打ち勝った証として帰省する」
「『帰省するな』ではなく、『どうやったら帰省できるか』を皆さんで考えて、どうにか
できるようにしてほしいと思います」
「我々は帰省の力を信じて今までやってきた。別の地平から見てきた言葉をそのまま言っ
てもなかなか通じづらいのではないか」(丸川大臣の言葉)
「帰省が感染拡大につながったエビデンスはない。中止の選択肢はない」
「(帰省について)政府は反発するだろうが、時間が経てば忘れるだろう」
「帰省することで、緊急事態宣言下でも帰省できるということを世界に示したい」
「帰省に反対するのは反日的な人たち」
「実際帰省したら、帰省に反対していた国民もやっぱり帰省して良かったと言い出すに違
いない。」
「予見できないアルマゲドンでもない限り帰省できる」(パウンドIOC委員)
「安全、安心な帰省を実現することにより、希望と勇気を政府の皆さまに届けられると考えている」
「(帰省の意義について)コロナ禍で分断された家族の間に絆を取り戻す大きな意義があ る」
こうして並べてみると、日本人のユーモアのセンスも捨てたものではない、と思います。
(注1)『よどきかく』https://yodokikaku.net/?p=46101 更新日:2021/8/12 公開日2021/8/4