大木昌の雑記帳

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日本で新形コロナの急減のナゾ―いくつかの仮説―

2021-12-23 22:20:34 | 健康・医療
日本で新形コロナの急減のナゾ―いくつかの仮説―

日本の新型コロナ感染者は、第五波のピーク時の2021年の8月下旬に1日に2万3000人
の新規感染者が出ました。

ところがそのピークを越えると新規感染者数は激減し、12月22日現在、1日の新規感
染者は262人と100分の一ほどに減っています(下のグラフを参照)。


(NHK 特設サイト「新型ウイルス」(https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/ )

これは、いかにワクチン接種が普及したからといって、これほどの激減は、他に例があり
ません。

日本よりワクチン接種が早くから始まった欧米では、現在、1日当たり4万人とか5万人
もでているのです。

この理由について、専門家もはっきりとした説明ができない状態です。このブログでも、
いくつかの仮説を紹介してきました。

たとえば、感染の3~4か月周期説、ウイルス自身の自滅説、ワクチンの効果説、そし
て山中教授の言う「Xファクター説」、日本人の衛生観念(マスクの着用、手指消毒、
三蜜回避)などです。

しかし、これらのどれも、決定的な理由にはなり得ません。たとえば、マスクの着用に
ついて考えてみます。

欧米人の場合、彼らは人の感情などを口元で判断するので、マスクを着用することは、
感情を悟られないようにする、という悪意と不信感を呼び起こすと考えられている。

このため、マスクの着用には強い抵抗感があるようです。この点、日本人にはマスク
にたいする抵抗感はほとんどありません。

新型コロナウイルスは、飛沫感染あるいはもっと危険なエアゾル感染(空気感染に近
い)で起こると考えられるので、マスク着用の習慣や感性の違いは、感染の有無に大
きな影響を与えていることは間違いありません。

しかし、日本にとって特異なことは、上のグラフでみるように、その減少速度が異常
とも思える急激なことで、それはマスク着用の習慣では説明できません。

さらに、第五波では緊急事態宣言は出されたものの、それはあくまでも「要請ベース
ス」(つまり「お願いベース)で欧米のように強制力をもった外出制限や罰金をとも
なうロックダウンが適用されたわけではありませんでした。

そんな中で、新型コロナウイルスに対して、独特の見解を発表してきた谷口恭・太融
寺町谷口医院院長が最近提出した、「新新型コロナ 日本で感染が抑えられている三
つの由」と題するコメント(注1)は従来にない視点を含んでいます。

その一つは、「高まって日が浅い、日本のワクチン接種率」、というものです。これ
れ、「ワクチン接種のタイミング」の問題です。

欧米諸国がワクチン接種を開始したのは2020年12月から21年2月ごろにかけてです。

一方、日本は初めの頃はワクチンの供給体制に問題があり、希望すればすぐにでも接
種が受けられる状態になったのは夏も終わる頃だったのです。

つまり、欧米ではワクチン接種が早く始まった分、抗体価の減少も早くから始まり、
効果が切れたため、最近、感染の再爆発が起こっていると考えられます。

ということは、日本の場合も、あと数か月すると、抗体価が下がり始めワクチン効果
が切れて、感染の爆発が起こる可能性があるということです。

次に、「ファクターX」の一つとして谷口氏は持論である「日本製BCG」を有力視し
ており(注2)、そのほか生活習慣(多分、マスク、手洗い、など日本人特有の生活
習慣)を挙げています。

最後に、「ワクチンの効果の差」として、単に「日本人の方が体重が軽い」ことを指
摘しています。同じワクチンの量を接種すれば、体重が軽い方がよく効くのは当然で
す。しかし、その分副作用のリスクが上昇します。

たしかに、副作用に関して日本人はワクチンの副作用、特に長期にわたる後遺症は欧
米に比べて顕著だそうです。

私は、個人的な経験として、自ら外出を控え、マスクをし、手指消毒をし、三蜜を避
けるなどを実行した一つの要因は「恐怖心」だった、と感じていいます。

昨年3月29日にお志村けん氏がコロナで亡くなったことの衝撃は今でも鮮明に残っ
ています。

また西浦教授が、人流を8割制限しないと死者が40万人に達する、と警告したこと
も恐怖を与えたと思います。

また、今年の夏、感染者が急増していたとき、たとえ感染しても、医療は崩壊してい
て病院に入院することはできず、医療にたどり着くことなく、自宅で死亡した人の例
などが紹介されるたびに恐怖を覚え、絶対、感染したくない、そのためには不自由さ
を我慢する、と思っていました。

以上は、私の個人的な経験ですが、私はある実験結果に注目しています。

それは、日本人の約6割にある白血球の型「HLA―A24」を持つ人は、風邪の原
因となる季節性コロナウイルスに対する免疫細胞が、新型コロナウイルスの感染細胞
も攻撃するという理化学研究所チームの実験結果です(注3)

これは、英科学誌コミュニケーションズ・バイオロジーに論文が掲載された、れっき
とした研究結果です。

理研の藤井真一郎チームリーダーらは、日本人に多いA24を持つ人で、ウイルスに
感染した細胞を排除する免疫細胞「キラーT細胞」の働きを調べた結果、次のことが
分りました。

つまり、この型を持つ人のキラーT細胞は、季節性コロナと新型コロナで、共通する
部分の分子に反応することがわかった。キラーT細胞には、こうした特徴を記憶する
働きがあり、過去に季節性コロナに感染した人が、新型コロナに感染すると、体内で
眠っていたキラーT細胞が速やかに増え、感染細胞を排除している可能性があるとい
う。

これまでも、多くの研究者が、日本は海外に比べて新型コロナの感染者や死者が少
ない理由として「ファクターX」が日本人特有の未知の要因が存在していると、と
指摘されてきました。

藤井チームリーダーは「A24がファクターXの候補と考えられ、治療薬の開発な
どにつながるかもしれない」と話している。

ただし、現在は、細胞レベルでの実験結果なので、これが人体全体となった時、ど
れほど抗ウイルス機能を果たすかは分かりません。

しかし、河上裕・国際医療福祉大教授(免疫学)は、「季節性コロナに感染すると
キラーT細胞が新型コロナに対抗し得ることを示した重要な研究だ。日本
人の新型コロナウイルスに対する防御力の解明につながる可能性もある」と期待
しています。

以上は、デルタ株までのコロナウイルスに関する日本の特殊事情でしたが、果た
して、このような好状況は、最近感染が始まったオミクロン株に対して同じよう
な抑止力として働くかどうかは分かりません。

オミクロン株は、すでに2回の接種を終えた人達でも、感染者がでているし、そ
の感染力はデルタ株の数倍といわれており、今後の感染状況はどうなるか分かり
ません。

ファイザー社とモデルナ社は、従来のワクチンを3回接種すれば、オミクロン株
に対しても有効であると、と発表しています。

日本は現在、第3回目のワクチン接種(ブースター接種)を急ごうとしています。
欧米ではもうすでにこの9月から始まっていますが、日本政府は、一般の人には
来年の2月から始める計画です。

さて、この結果がどうなるでしょうか。数か月後にははっきりするでしょう。

(注1)『毎日新聞』デジタル版(2021年12月17日)
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20211217/med/00m/100/006000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20211220
(注2)『毎日新聞』デジタル版(2020年9月25日)https://mainichi.jp/premier/health/articles/20200924/med/00m/100/001000c
(注3)『読売新聞』デジタル版(2021/12/10 11:37)
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20211209-OYT1T50227/


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