新型ウイルス・オミクロン株の脅威と日本
2021年10月30日と31日に、イタリアのローマではG20(主要20か国の首脳会議)
が開催されました。
全体のテーマは「人 地球 繁栄」となっており、1日目は世界経済と国際保健が、そして
2日目には気候変動・環境、そして持続可能な開発(SGDs)が主要課題でした。
こうして並べてみると、今の世界が抱えている主要な課題がはっきり分かります。
つまり、「世界経済」ではコロナ・パンデミックで落ち込んだ世界経済の立て直しが課題で
あり、「国際保健」では、世界でみるとまだコロナ・パンデミックは収束しておらず、一旦
は収束に向かったかに見えたコロナ感染が、再燃しつつあることへの対応が課題でした。
この二つの課題は別々に見えますが、実はその背後にはもう一つ、重要なテーマ(むしろこ
ちらの方が本質かも知れませんが)が隠れています。
それは、パンデミックによって命と経済にもっとも深刻な打撃を受けたのは貧しい国であっ
たという冷厳な事実です。
言い換えると、国際的な貧富の格差が存在し、貧しい国はワクチンを買う経済的な余力がな
いため、ほとんど放置状態にある、という実態があります。
すると、貧しい国で変異が進み、今回の南アフリカ発のオミクロン株のように、新たな変異
種が発生することになります。
オミクロン株については、まだ分からないことがたくさんありますが、感染のスピードが、
これまでの変異種よりはるかに速いことです。香港での事例では、ホテルの反対側の部屋に
いた人にも感染したようなので、ほぼ空気感染のような可能性もあります。
もうひと酢厄介なのは、ウイルスの変異部分が多いことです。このウイルスは全体で50の変
異があり、そのうち30以上の変異がスパイクたんぱく質にみられています。
テレビなどでしかもウイルスの表面にしばしば登場しますが、スパイクたんぱく質には人体
の細胞に入り込むカギの役割があり、現在開発されているほとんどの新型ウイルスワクチン
はこのスパイクたんぱく質を標的としています。
問題は、受容体結合ドメインと呼ばれる、スパイクタンパク質の中で、人体の細胞の表面に
最初に触れる部分)を見てみると、世界中に広まったデルタ株では2つしかなかった変異が、
オミクロン株では10も確認されているのです(注1)。
しかも、諸外国ではワクチンを2回接種した人たちも感染しているし、幼児なども感染して
います。
この新しい状況に対して、米モデルナ社とファイザー社はすでに改良ワクチンを製造中で、
3月には供給できると発表しており、米のバックス社は1月から供給できるとしています。
まず、グローバル化した現代においては人の往き来は止められず、地球上のどこかでウイ
ルスの増殖と感染が継続していれば、やがて再爆発の可能性は消えないからです。
つまり、自国ファーストで、富裕国が自分の国だけをウイルスから守っても、全世界でウ
イルスのコントロールに成功しなければ、モグラ叩きのように、いつまでも新型コロナウ
イルスの変異種と格闘せざるをえません。
全世界が同じ問題を抱え、全世界でそれを制圧することを求められるのは、これまでの世
界の歴史上はじめての経験です。
日本においては、これまでオミクロン株の陽性者は2名だけですが、楽観はできません。
日本は、現在、人口1億3000万人に対して新規陽性者は1日当たり新型コロナウイル
スの新規陽性者は130人前後で世界の状況と比べると、ほぼ“真空状態”といってもいい
状態です。
ところが、ヨーロッパ諸国では人口が日本の半分以下なのに、新規感染者は4~5万人で
す。つまり、日本の人口に当てはめると1日当たり9~10万人ということになります。
原因は分かりませんが、このように感染が沈静化しているのは世界で日本だけなのです。
そこで生ずるかもしれない問題は、オミクロン株にたいしても有効なワクチンが、日本に
届くのは、いつになるか分からない、ということです。
日本はファイザーとモデルナのワクチンを中心に接種してきましたが、これらの会社でオ
ミクロン株に有効なワクチンが、早くて来年の3月だとすると、現在感染者が極めて少な
い日本への供給は、緊急性がない、ということで、後回しされる可能性があります。
もう一つ気になるのは、ここまで新規感染者が減ってくると、国民の間で少しずつ警戒心
が弱まってくるのではないか、という恐れがあります。
確かに現在は、まだ大部分の日本人は警戒感を維持して、マスクの着用をしていますが、
暮れから正月にかけて、人の移動や大人数での会食の機会が増えます。
以前書いたように、専門家の間では第六波は12月以降にやってくる可能性があります。
いずれにしても、この冬をどう乗り切るかが目下の最重要課題です。
最後に、世界的にこのコロナウイルスを制圧するため国際的な枠組みに日本は是非、積
極的にリーダーシップを発揮してほしいと思います。
理想的には、世界の人口の70%がワクチンの接種をすることですが、その財源をどう
するかが問題です。
ファイザーのワクチンは1本あたり40ドル(4500円ほど)、モデルナは80ドル
(9000円弱)です。
必要な財源には、ワクチンそのものの費用だけでなく、冷凍保存する設備は、アフリカ
(現在接種率3%)や南米などの奥地への輸送、住民の接種場所までの移動などなど、
問題は山積みです。
現在、フランスなどが提唱している、ワクチン国際協力基金のような財源を設立し、各
国の財政能力応じて拠出する仕組みが必要です。
(注1)2021年11月26日 BBC NEWS/JAPAN
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-59413580
2021年10月30日と31日に、イタリアのローマではG20(主要20か国の首脳会議)
が開催されました。
全体のテーマは「人 地球 繁栄」となっており、1日目は世界経済と国際保健が、そして
2日目には気候変動・環境、そして持続可能な開発(SGDs)が主要課題でした。
こうして並べてみると、今の世界が抱えている主要な課題がはっきり分かります。
つまり、「世界経済」ではコロナ・パンデミックで落ち込んだ世界経済の立て直しが課題で
あり、「国際保健」では、世界でみるとまだコロナ・パンデミックは収束しておらず、一旦
は収束に向かったかに見えたコロナ感染が、再燃しつつあることへの対応が課題でした。
この二つの課題は別々に見えますが、実はその背後にはもう一つ、重要なテーマ(むしろこ
ちらの方が本質かも知れませんが)が隠れています。
それは、パンデミックによって命と経済にもっとも深刻な打撃を受けたのは貧しい国であっ
たという冷厳な事実です。
言い換えると、国際的な貧富の格差が存在し、貧しい国はワクチンを買う経済的な余力がな
いため、ほとんど放置状態にある、という実態があります。
すると、貧しい国で変異が進み、今回の南アフリカ発のオミクロン株のように、新たな変異
種が発生することになります。
オミクロン株については、まだ分からないことがたくさんありますが、感染のスピードが、
これまでの変異種よりはるかに速いことです。香港での事例では、ホテルの反対側の部屋に
いた人にも感染したようなので、ほぼ空気感染のような可能性もあります。
もうひと酢厄介なのは、ウイルスの変異部分が多いことです。このウイルスは全体で50の変
異があり、そのうち30以上の変異がスパイクたんぱく質にみられています。
テレビなどでしかもウイルスの表面にしばしば登場しますが、スパイクたんぱく質には人体
の細胞に入り込むカギの役割があり、現在開発されているほとんどの新型ウイルスワクチン
はこのスパイクたんぱく質を標的としています。
問題は、受容体結合ドメインと呼ばれる、スパイクタンパク質の中で、人体の細胞の表面に
最初に触れる部分)を見てみると、世界中に広まったデルタ株では2つしかなかった変異が、
オミクロン株では10も確認されているのです(注1)。
しかも、諸外国ではワクチンを2回接種した人たちも感染しているし、幼児なども感染して
います。
この新しい状況に対して、米モデルナ社とファイザー社はすでに改良ワクチンを製造中で、
3月には供給できると発表しており、米のバックス社は1月から供給できるとしています。
まず、グローバル化した現代においては人の往き来は止められず、地球上のどこかでウイ
ルスの増殖と感染が継続していれば、やがて再爆発の可能性は消えないからです。
つまり、自国ファーストで、富裕国が自分の国だけをウイルスから守っても、全世界でウ
イルスのコントロールに成功しなければ、モグラ叩きのように、いつまでも新型コロナウ
イルスの変異種と格闘せざるをえません。
全世界が同じ問題を抱え、全世界でそれを制圧することを求められるのは、これまでの世
界の歴史上はじめての経験です。
日本においては、これまでオミクロン株の陽性者は2名だけですが、楽観はできません。
日本は、現在、人口1億3000万人に対して新規陽性者は1日当たり新型コロナウイル
スの新規陽性者は130人前後で世界の状況と比べると、ほぼ“真空状態”といってもいい
状態です。
ところが、ヨーロッパ諸国では人口が日本の半分以下なのに、新規感染者は4~5万人で
す。つまり、日本の人口に当てはめると1日当たり9~10万人ということになります。
原因は分かりませんが、このように感染が沈静化しているのは世界で日本だけなのです。
そこで生ずるかもしれない問題は、オミクロン株にたいしても有効なワクチンが、日本に
届くのは、いつになるか分からない、ということです。
日本はファイザーとモデルナのワクチンを中心に接種してきましたが、これらの会社でオ
ミクロン株に有効なワクチンが、早くて来年の3月だとすると、現在感染者が極めて少な
い日本への供給は、緊急性がない、ということで、後回しされる可能性があります。
もう一つ気になるのは、ここまで新規感染者が減ってくると、国民の間で少しずつ警戒心
が弱まってくるのではないか、という恐れがあります。
確かに現在は、まだ大部分の日本人は警戒感を維持して、マスクの着用をしていますが、
暮れから正月にかけて、人の移動や大人数での会食の機会が増えます。
以前書いたように、専門家の間では第六波は12月以降にやってくる可能性があります。
いずれにしても、この冬をどう乗り切るかが目下の最重要課題です。
最後に、世界的にこのコロナウイルスを制圧するため国際的な枠組みに日本は是非、積
極的にリーダーシップを発揮してほしいと思います。
理想的には、世界の人口の70%がワクチンの接種をすることですが、その財源をどう
するかが問題です。
ファイザーのワクチンは1本あたり40ドル(4500円ほど)、モデルナは80ドル
(9000円弱)です。
必要な財源には、ワクチンそのものの費用だけでなく、冷凍保存する設備は、アフリカ
(現在接種率3%)や南米などの奥地への輸送、住民の接種場所までの移動などなど、
問題は山積みです。
現在、フランスなどが提唱している、ワクチン国際協力基金のような財源を設立し、各
国の財政能力応じて拠出する仕組みが必要です。
(注1)2021年11月26日 BBC NEWS/JAPAN
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-59413580