大木昌の雑記帳

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岸田新内閣―「新しい資本主義」か「新しいアベノミクス」か―

2021-12-16 08:15:55 | 政治
岸田新内閣―「新しい資本主義」か「新しいアベノミクス」か―

岸田内閣が発足して所信表明演説が、12月6日に行われました。

所信表明演説は、新内閣が発足した時に、首相が自分の政治理念や、この国のリーダーとして
日本をどんな国にしたいのか、あるいはどんな社会を目指すのか、を国民に説明する場です。

首相就任前の総裁選のころは、分配を重視し、新自由主義ではなく「新しい資本主義」を目指
す、と強調していたので、この所信表明でどんなことを言うのか、かなり期待していました。

しかし、9000字にも及ぶ、歴代の首相の所信表明演説よりはるかに長い演説でしたが、中
身をみると、日本が直面する問題を延々と挙げただけでした。

率直な感想を言えば、新型コロナウイス対策、景気回復、社会保障、外交、安全保障などの分
野で現在の日本が抱えている問題を網羅的に羅列しているだけで、そこには、岸田氏の芯とな
る理念や熱意が感じられませんでした。

翌日の『東京新聞』の社説で、「理念・熱意が見えない」というタイトルでこの演説を総括し
ているのもうなずけます。その社説は、次のように書いています。

    新味も熱意も感じられなかったのは、首相がそうした政策で社会をどう変え、どん
    な未来を目指しているのか、具体像を示すにいたっていないからではないか。

私も全く同感です。付け加えるなら、首相の言葉に本気度を感じませんでした。

率直に言ってしまうと、キャッチコピーは、自民党御用達の電通が考え、各分野の問題にたい
しては官僚が手分けして書いた作文を合わせただけ、という印象です。

私が特に注目したのは、「新しい資本主義」の理念と中身、そして外交・安全保障の方針でし
たが、この二つの問題については、残念ながら失望しました。

「新しい資本主義」についていえば、世界の経済学者、歴史家、哲学者、企業家など、ありと
あらゆる人たちが、ここ5年間くらい、現在の資本主義の問題と将来について議論を重ねてき
ています。それだけ、これは現代世界が抱えた大問題なのです。

現代の資本主義の将来というのはそれだけ重く、本質的な問題なのです。

その一部は、NHKBSで「欲望の資本主義」というタイトルのシリーズで放送してきました。

私も、これらの議論は2017年からずっとフォローしてきたので、特別な思い入れがあります。

そこで議論されている内容を考えると、岸田首相が口にする「新しい資本主義」という言葉が
ただただ空疎に響きました。

今や「新しい資本主義」は岸田内閣の看板政策になっていますが、その中身を見ると、これま
での新自由主義的資本主義では格差と貧困が拡大してきたので、「成長と分配の好循環」を作
り出すとしか言っていません。

しかも、この「成長と分配の好循環」というフレーズは安倍内閣のキャッチコピーで、それを
そのまま使い回しています。

しかし安倍政権時代も、賃上げを企業に要請してきましたが、それに応じた企業はほとんどな
く、この9年間ほど実質賃金は長期下落傾向にあり、格差と貧困とデフレ状態も続いています。

そこには、根本的な問題があるからです。安倍政権の時も、岸田首相も、「成長と分配」とい
うとき、何よりもまず「成長」があって初めて「分配」ができる、という思考の罠から抜け出
せないからです。

安倍前首相は、その「成長」をもたらすのがアベノミクスだといってきたし、それなりの具体
的な政策を実施してきました。たとえば「異次元の金融緩和」「機動的な財政政策」などです。
一言でいえば、新自由主義的な発想です。

アベノミクスにより、株価が上がり、ごく一握りの人は、株や金融取引で巨額の利益を得まし
たが、大部分の日本人にとっては何の関係もありませんでした。

その結果が「格差と貧困」であることは、岸田首相も分かっているからこそ、従来の資本主義
とは違う「新しい資本主義」という言葉を使って、なんどか「新しさ」を演出しようとしてい
ますが、中身をみると、アベノミクスとどこが違うのか分かりません。

自民党の議員ですら、「新しい資本主義」とは何か、分からない、と正直に言っています。

私は、「新しい資本主義」というのはたんなるキャッチコピーで、内容は「新しいアベノミク
ス」と言ったほうが事実に合っているのではないか、と思います。

岸田首相は、総裁選のころは、安倍内閣のアベノミクスで拡大した格差と貧困を解消するため
に、「分配」を重視すると言ってきました。その財源として金融所得課税についても言及して
きましたが、いまはすっかり影をひそめてしまいました。

そして、国民に希望をもたせるためか、「令和版所得倍増計画」という仰々しいキャッチコピ
ーも登場しましたが、所信表明演説では、このことに全く触れていません。

もし、本気で分配の財源を見出そうとするなら、金融所得課税、今まで一貫して下げてきた法
人税を元に戻す、富裕層への課税にたいする累進性を以前のように高める、そして大きいのは
450兆円以上に積み上がっている内部留保への課税です。

企業は利益が出ても、それを内部留保金として貯め込んでしまい、働いている社員に分配する
のではなく、他方で新たな技術開発などへの投資も行っていません。

このため、労働者の賃金は上がらず、当然のことながら消費も伸びず、「成長と分配の好循環」
は生まれません。実は、日本の実質賃金はもう韓国よりも低いのです。

そして、企業は投資も行わないので、新しい成長産業も生まれず、したがって新たな雇用も生
まれません。

こうしたことが、日本経済の「好循環」とは逆のマイナスの「悪循環」となって日本経済を長
期低迷と、国際的に見ると長期低落へ追い込んでいるのです。

首相の本気度がどれほどかは分かりませんが、首相は10月15日で「新しい資本主義実現会
議」を設置することを閣議決定し、10月26日、11月8日、11月26日に全3回の会議
が行われました。

その内容は内閣官房ホームページで見ることができます(注1)が、この3回の会議の個別的
な報告は分かりますが、全体としてどのような方向性が打ち出されたのかは分かりません。今
のところ、言いっ放しの状態にあります。

現在は、引き続いて岸田首相が議長を務める同名の会議が開催されることになっており、全体
像と実行計画を来春にまとめることになっています。

どんな人がこの会議のメンバーになるのか分かりませんが、いわゆる”御用学者“を集めた形式
的な会議にすることなく、議長である首相が熱意と本気度をもって、国民に説得力のある「新
しい資本主義」の姿を見せて欲しいと思います。

現在、世界の潮流として、格差の是正、気候変動(温暖化)対策、そして気候変動対策と資本
主義経済との整合性をどうするのか、が大きな問題として議論されています。

もし、岸田内閣が、こうした問題で世界に向かって訴えることができる素晴らしい方向性を打
ち出すことができれば、それは、国際社会への大きな貢献となります。

岸田首相は、たとえキャッチコピーにせよ、「新しい資本主義」という言葉をくちにしたので
すから、それが「新しいアベノミクス」にならないよう切に希望します。

(注1)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/index.html
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イチョウのような落葉樹は、冬に向かって一斉に葉を落とし地面を黄色に         そして、すっかり葉を落とした木は、葉という衣を脱ぎ捨てて、その本体を現す 
 

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