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イベリア半島のスピノサウルス類(4)イベロスピヌス



 一般的にスピノサウルス類は長く伸びた顎、がっしりした前肢、高い神経棘で特徴づけられる。スピノサウルス科と識別できる特徴は例えば、前上顎骨のロゼット(歯が円形に配列している)、外鼻孔が前上顎骨歯より後方にある、後方の頸椎と前方の胴椎に腹側のキールがある、中央と後方の胴椎の神経棘の基部に含気性がある、そして歯骨の4本の歯のロゼット、歯冠に条線があるなど多数の歯の特徴があげられる。また他の研究からは、中央と後方の胴椎にaccessory centrodiapophyseal lamina がある、胴椎の神経棘が少なくとも椎体の2倍の高さ、6-7 本の前上顎骨歯などがある。

イベロスピヌスは、前期白亜紀バレミアン(Papo Seco Formation)にポルトガルのセトゥバル県セジンブラSesimbraに生息したスピノサウルス類で、2022年に記載された。これは、元々は“ポルトガルのバリオニクス”であった。1999年にCarlos Natario氏が発見した化石標本ML1190は、Mateus et al. (2011) によって、エナメルの表面に垂直に近いしわがあり、1 mm あたり6-7個の鋸歯があり、稜縁の付近ではしわが45°の角度をなす、などの歯の特徴に基づいて、バリオニクス・ワルケリとされた。しかし恥骨の近位部の側面に隆起があるなど、バリオニクスとの違いも知られていた。その後2020年に追加の化石が発見され、新たに系統解析された結果、2022年に新属新種イベロスピヌス・ナタリオイIberospinus natarioi として記載された。

イベロスピヌスのホロタイプ標本ML1190 は追加された分を含めて、左の歯骨の前方部分、4本の歯を含む歯骨の断片、1本の分離した完全な歯、2本の分離した歯の断片、部分的な右の肩甲骨、1個の胴椎の椎体、2個の破損した胴椎の神経弓、4個の肋骨の断片、左の恥骨柄、右の恥骨、2個の部分的な踵骨、1個の足の末節骨、さまざまな保存状態の15個の尾椎からなる。
 イベリア半島のスピノサウルス類の中では、歯骨もあるし保存が良い方ではあるが、こうして改めて見ると断片的なことに変わりない。

他のスピノサウルス類と区別できるイベロスピヌスの特徴は、1)歯骨のメッケル溝Meckelian sulcus にメッケル孔 Meckelian foramen が1つしかない(他のすべてのメガロサウロイドでは背側と腹側で2個のメッケル孔があるが、イベロスピヌスでは腹側しかない)、2)歯骨の腹側縁がまっすぐである(バリオニクスとスコミムスでは曲がっている)、3)中央から後方の尾椎のプレウロシール(側腔)の中に稜がある、4)肩甲骨の前縁がまっすぐである、など8つの形質からなる。

歯骨の前方部分をCTスキャン解析した結果、よく発達した神経血管網が観察された。またこの標本には12個の歯槽があるが保存の良いものは9個で、その多くに置換歯が観察された。特に一次置換歯だけでなく多くの歯槽に二次置換歯がみられたことはスピノサウルスと同様で、歯の交代が早いことを意味し、魚食への適応と関係している可能性が考えられた。

いくつかの骨についてはその形状を多変量解析(主成分分析)し、他のスピノサウルス類と比較している。分離した完全な歯の形状については、イベロスピヌスはバリオニクスの変異の範囲内に含まれており、またスコミムスの範囲内にもギリギリ含まれた。スピノサウルスの範囲からは外れていた。面白いことに他のイベリア半島のバリオニクス亜科とされる歯とは、大きく離れていたという。
 足の末節骨の形状は、比較できる種類が限られるが、ディロフォサウルスやティランノティタンとは大きく異なり、スピノサウルス(FSAC-KK)と最も近かった。ただしイベロスピヌスの末節骨はスピノサウルスほど底面が平らではない。

最初の系統解析ではスピノサウルス類の中はほとんどポリトミーとなり、バリオニクスとスコミムスが姉妹群となっただけであった。3回目の解析で断片的なヴァリボナヴェナトリクスを除くと解像度がよくなり、スピノサウルス、イクチオヴェナトル、イリタトルがスピノサウルス亜科というべきクレードをなし、バリオニクスとスコミムスが”限定的なバリオニクス亜科”をなした。イベロスピヌスはどちらにも属さず両方と姉妹群となった。ということは最初バリオニクスと同定されたにも関わらず、バリオニクスとごく近縁とは限らないことになる。それも情報量が足りないからかもしれないが。



参考文献
Mateus O, Estraviz-Lopez D (2022) A new theropod dinosaur from the early cretaceous (Barremian) of Cabo Espichel, Portugal: Implications for spinosaurid evolution. PLoS ONE 17(2): e0262614. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0262614
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