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チェナニサウルス(白亜紀末のモロッコのアベリサウルス類)


モロッコの大型アベリサウルス類といっても、過去の記事で取り上げた大腿骨頭と同じものではない。以前のはセノマニアンで、今回はマーストリヒティアンである。モロッコでは、白亜紀後期の初めセノマニアンのKem Kem bedからはアベリサウルス類の化石が知られていたが、白亜紀末期マーストリヒティアンからは分離した歯しか知られていなかった。アフリカ全体としても、初めてである。これまで白亜紀末(カンパニアンとマーストリヒティアン)のアベリサウルス類は、南アメリカ、マダガスカル、インド、パキスタン、ヨーロッパからは見つかっていたが、アフリカ大陸からは見つかっていなかった。今回、断片的ながら他のアベリサウルス類とは異なる特徴をもつ標本が発見されたので、命名記載されたものである。(最新のケラトサウリアの系統解析(Delcourt, 2018)ではアベリサウルス科から外れてケラトサウルス科に入っているが、ここではアベリサウルス科のカテゴリーに入れておく。)
 チェナニサウルスは、白亜紀末マーストリヒティアン後期に北アフリカのモロッコに生息したアベリサウルス類で、2017年に記載された断片的な化石である。チェナニサウルス・バルバリクスChenanisaurus barbaricus の属名は産出地であるリン鉱山 Sidi Chennaneに、種小名はモロッコの古名バルバロス(バーバリー)に由来する。

チェナニサウルスのホロタイプ標本は、下顎の歯骨の前半部分である。これだけで、どうしてアベリサウルス類とわかるのだろうか。また、新種とされる特徴は何だろうか。

チェナニサウルスの特徴は、大型のアベリサウルス類(推定全長7~8 m)で下顎は比較的丈が高く、側面から見て歯骨がカーブしている、側面の溝とそれに伴う孔が歯骨の上方に位置する、下顎結合は太く、下顎結合の前縁は側面から見て垂直である、などである。

歯槽のサイズと比較して、歯骨は非常に丈が高いことから、比較的短く丈の高い下顎をしていたと考えられる。そのプロポーションはカルノタウルスやエクリクシナトサウルスと似ているが、丈の高さについてはもっと極端かもしれないという。保存された背側縁と腹側縁はカーブしており、ブラキロストラのアベリサウルス類と同様に、下顎の腹側がカーブしていたと考えられる。それに対してマジュンガサウルスでは歯骨の腹側縁はまっすぐである。

歯骨の側面の後方には、長軸方向の深い溝grooveがある。この溝の背方には一連の神経血管孔があり、それらの孔は背方の浅い溝sulcusに向かって開いている。同様の溝grooveと神経血管孔はカルノタウルスやマジュンガサウルスなど他のアベリサウルス類にもみられるが、これらの種類では溝が歯骨のもっと下方に位置している。それに対してチェナニサウルスでは、溝と神経血管孔が上方にあり、ゲニオデクテスと同じ原始的な状態であるという。(ゲニオデクテスは従来ケラトサウルス科とされてきたが、著者らは最も原始的なアベリサウルス類としている。)ケラトサウルスでは、溝は浅く上方にあるという。

また歯骨の側面には一連の窪みや吻合する稜があり、顕著な彫刻sculptureをなしている。同様の特徴はカルノタウルスやマジュンガサウルスなど派生的なアベリサウルス類にもみられる。ゲニオデクテスにはない。
 内側面をみると、他のケラトサウリアと同様に歯間板が癒合している。歯間板は前方では非常に丈が高いが、後方へ行くにつれて急速に小さくなっている。丈の高い歯間板はアベリサウルス類の共有派生形質で、カルノタウルスやマジュンガサウルスのような派生的な種類にも、原始的なアベリサウルス類ゲニオデクテスにもみられるという。歯間板の表面には浅い溝(条線)がある。これはマジュンガサウルスなどにもみられる。
 背側から見ると歯骨は外側に反っている。下顎結合の部分は左右の歯骨が鈍角をなすようになっている。背側から見て左右の歯骨は幅広いU字形をなすという。

10個の歯槽が保存されており、3個の歯冠と4個の歯根がある。歯冠は丈が高く、前縁は強く凸型にカーブしており、後縁は比較的まっすぐである。まっすぐな後縁はアベリサウルス類の派生形質で、カルノタウルスやマジュンガサウルスでは歯列全体にみられるが、ゲニオデクテスでは前上顎骨歯と前方の歯骨歯にのみみられるという。


Longrich et al. (2017) の系統解析では、南米の進化したアベリサウルス類(ブラキロストラ)のクレードと、インド・マダガスカル・ヨーロッパのアベリサウルス類(マジュンガサウリナエ)のクレードが再現されたが、チェナニサウルスはそれら2つのグループのどちらにも属さず、外側の基盤的な位置にきた。またアフリカのルゴプスも基盤的な位置にきている。ゲニオデクテスは最も基盤的なアベリサウルス類となっている。

チェナニサウルスは以下の多くの派生形質によりアベリサウルス科Abelisauridaeと認められる。
1)幅広いU字形の下顎結合
2)顕著な歯骨の側面の溝
3)大きな神経血管孔とこれらの孔から背方に伸びる溝sulcus
4)歯骨の側面後方にある顕著な彫刻sculpture
5)歯間板の表面に条線striationがある
6)歯間板は丈が高く、歯骨の内側面でかなり下方まで伸びている
7)亜直方形の歯槽
8)歯冠の前縁は強く凸型にカーブし、後縁はほとんどまっすぐである
9)歯冠の形が頂点から見て非対称で、歯冠の前外側面が強く凸型になっている

全体として、チェナニサウルスの歯骨の形態は、吻の長いマジュンガサウリナエよりも吻の短いブラキロストラのものに似ている。下顎はカーブしていて丈が高い。しかしカーブした下顎は、より基盤的な種類であるケラトサウルスやゲニオデクテスにもみられる原始形質であるといっている。つまり必ずしもブラキロストラに近縁とはいえないといっている。
 側面の溝はマジュンガサウリナエでもブラキロストラでも腹方にあるが、チェナニサウルスでは背方にある。この点でチェナニサウルスはゲニオデクテスと似ている。今回の系統解析ではこのために両方のクレードの外側にきたと思われる。しかしチェナニサウルスや他のアベリサウルス類のデータが非常に限られていることを考えると、今回得られた系統関係は確かなものとはいえない。チェナニサウルスについても他のアベリサウルス類についても、もっと多くのデータが必要であるといっている。

確かに、普通に考えるとブラキロストラに入りそうにみえる。側面の溝の位置でゲニオデクテスの方に引っ張られたのだろうが、1つの形質でそうなるものなのだろうか。ちょっと気になるのは、今回の解析には地域の要素が入っていることで、アフリカ、インド・マダガスカル、南アメリカなどが形質データに含まれている。そのことも、今回のトポロジーに影響しているのではないだろうか。
 ケラトサウリアの総説的な論文(Delcourt, 2018)ではケラトサウルス科に入っている。これもゲニオデクテスと共有する形質のためだろう。アフリカのアベリサウルス類については、もっと多くの標本が発見されないとまだまだというのが感想である。


参考文献
Longrich, N. R., Pereda-Suberbiola, X., Jalil, N.-E., Khaldoune, F. & Jourani, E. (2017) An abelisaurid from the latest Cretaceous (late Maastrichtian) of Morocco, North Africa. Cretac. Res. 76, 40–52.

Delcourt, R. (2018) Ceratosaur palaeobiology: new insights on evolution and ecology of the southern rulers. Scientific Reports 8:9730 DOI:10.1038/s41598-018-28154-x
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