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マジュンガサウルスの成長


Copyright 2016 Ratsimbaholison et al.

アベリサウルス類は獣脚類の中でも短く、丈の高い特徴的な頭骨をしている。しかしアベリサウルス類の化石はほとんどが一個体であり、種内変異や成長過程の研究はされていなかった。その中にあってマジュンガサウルスは近年、複数の個体の頭骨が発見されていることから、アベリサウルス類で初めて、成長過程の研究が可能となった。そこでRatsimbaholison et al. (2016) は、マジュンガサウルスの頭骨の成長過程を、幾何学的形態計測geometric morphometrics という手法で解析した。

幾何学的形態計測では、標本の形態をコンピューター上に取り込んでデジタル化し、異なる形態の間で対応づけられるような代表的な計測点(ランドマーク)を定める。そして座標変換のように形態を移行させ、変形した座標の形(deformation grid)が表示される。この方法はすでに、鳥類の頭骨が祖先の獣脚類の頭骨から幼形進化によって生じたことを示す研究や、多数の獣脚類の頭骨を定量的に比較した研究などに用いられている。

頭骨の要素を含むマジュンガサウルスの部分骨格は8個体分あるが、それぞれ保存された骨が異なるので、個々の骨について比較できるのは多くて5個体分くらいである。例えば前上顎骨は5個、上顎骨は4個、涙骨は2個、後眼窩骨は3個、頬骨は3個、方形骨は5個という具合である。アロサウルスなどと比べるとずっと少ないが、アベリサウルス類としては最も多い。

成長過程における前上顎骨の主な形態変化は、鼻骨突起と外鼻孔の下縁の角度が小さくなることと、鼻骨突起の長さの増大であった。
 上顎骨の主な形態変化は、上顎骨体の前方部分の高さの増加と、腹側縁のS字状カーブの湾曲が減少することであった。また定性的には、上顎骨の外側面の粗面(彫刻)が成長とともに発達していた。
 最も顕著な形態変化は、眼窩の周りや側頭部にみられた。涙骨では、涙骨全体の高さの増加、涙骨体の大きさの増加、眼窩の縁の周長の減少がみられた。眼窩の縁の減少は、骨の蓄積とともに眼窩下突起suborbital processの発達とも関係している。また涙骨の前方突起rostral ramusは、幼体では前方を向いているが、成体では前腹方にカーブしている。涙骨は2個しかないので、これが本当に成長に伴う変化なのか、あるいは種内変異なのか確認するためには、もっと多くのサンプルが必要であるという。
 後眼窩骨では、成長とともに背側縁の長さの減少と、涙骨にみられたのと同様に眼窩の縁の減少が観察された。頬骨では、涙骨突起の高さの増加と、頬骨全体の長さの増加が観察された。また同時に、頬骨と方形頬骨の関節面の高さも増加していた。
 方形骨の主な形態変化は、後方の凹みconcavityの相対的減少と、方形骨軸の背側半分の高さの増大であった。歯骨の主な形態変化は、全体的な高さの増加と、歯骨の前腹側端が角ばった形から丸い形に変化することであった。上角骨については、とくに顕著な形態変化はみられなかった。

著者らは個々の骨の他に、3つの部分的に関節したマジュンガサウルスの頭骨(推定42 cm から53 cm)についても比較している。頭骨全体の変形座標をみると、成長に伴ういくつかの形態変化がわかった。まず、頬骨の涙骨突起の高さの増加と、頬骨の前方部分の前後長の増加が起きている。同時に頬骨と方形頬骨の関節面も増大している。また、大型の個体では頬骨の方向が回転しており、頬骨と上顎骨の関節面が、頬骨と方形頬骨の関節面よりも背側にくるように変化している。つまり幼体では水平だったのが、成体では後腹方―前背方の方向になっている。
 2番目に、成長とともに眼窩の大きさは、頭骨のサイズに比べて相対的に小さくなっている。眼窩の下半分は幅が狭くなり、眼窩の上半分は直径が小さくなっている。
 3番目に、頭骨の側頭部は高さが増大し、後眼窩骨の鱗状骨突起と方形頬骨の方形骨突起の間の高さが増加している。

結局、成長に伴って頭骨の丈が高くなるということであり、その点はよくあるパターンに思える。吻の部分では上顎骨の一部が高くなるだけであるが、眼窩の周りから側頭部にかけては全体に丈が高くなっているという。ただし今回、幼体の鼻骨がないために鼻骨の変化は観察できていない。もし鼻骨があれば、成長とともに盛り上がった形になるとか、吻の部分ももっと貢献しているという結論になるかもしれない。

獣脚類の頭骨は一般に、胚・新生児・幼体に比べると、成体では前後に長くなる傾向がある。コエロフィシスやコンプソグナトゥス類などではそうである。しかし、いわゆる大型獣脚類では、系統にかかわらず、途中から頭骨の丈が高くなるように変化するという。ティラノサウルス類の亜成体から成体への変化などがそうである。今回のマジュンガサウルスの研究から、アベリサウルス類の頭骨もこのような大型獣脚類のパターンを示すことがわかった。

感想として気になる点の一つは、上顎骨のラインである。上顎骨の腹側縁のS字状カーブは、成体の方が湾曲の程度が小さくなっているようにみえた。著者らはこれを、成長による変化とは関係ない個体変異の例としてあげているが、なぜそう言い切れるのだろうか。確か、ティラノサウルス類では幼体の方が直線に近く、成体の方が強くS字状にカーブする。それとは逆なので成長に伴う変化とは言いにくかったのか。しかし、アベリサウルス類ではそれが正常な成長パターンということはないだろうか。アベリサウルス類では成長の途中で早めにS字状カーブに達し、その後は湾曲が減少するように変化するのかもしれない。カルノタウルスのような極端な場合はもはやS字状ではなくなって、弧状になっている。

もう一つ気になるのは、歯骨のラインである。前腹側の“おとがい”のような部分は、一般的には成体の方が発達していそうに思えるが、マジュンガサウルスでは早めに“おとがい”が形成されて、成体では全体に膨らんで丸みを帯びるようになっている。これは、他の獣脚類でもみられることだろうか。
 またチェナニサウルスの論文にあったように、歯骨の腹側縁はカルノタウルスなどではカーブしているが、マジュンガサウルスではまっすぐである。成体では確かにそうなっている。ところがなんと、マジュンガサウルスの幼体では腹側縁がカーブしているようである。これは意外だった。チェナニサウルスの論文には、ブラキロストラのようにカーブしている方が派生的にみえるが、アベリサウルス類ではその方が基盤的である可能性もある、とあった。それに関連している。




参考文献
Ratsimbaholison, N.O., Felice, R.N., and O’Connor, P.M. (2016). Ontogenetic changes in the craniomandibular skeleton of the abelisaurid dinosaur Majungasaurus crenatissimus from the Late Cretaceous of Madagascar. Acta Palaeontologica Polonica 61 (2): 281–292.
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