境界性人格障害(Borderline Personality Disorder, BPD)は、不安定な自己-他者のイメージ、感情・思考の制御の障害、衝動的な自己破壊行為などによって特徴付けられる、思春期あるいは成人早期より生じる精神障害だ。うつ病などの気分障害(感情障害)に似た症状を持つ。境界性というのは、神経症の症状と精神病(特に統合失調症)の症状の境界の症状から来ている。
この映画の原作は、1994年に出版されたスザンナ・ケイセンによる自伝。主演のウィノナ・ライダー自身も境界性人格障害で精神科に入院したことがあるらしい。そんな経験から、自らからこの映画の制作総指揮をしている。
大学に進学しないのは自分だけ、世間体を気にする両親にも理解されない17歳のスザンナ(ウィノナ・ライダー)は、多量のアスピリンとウォッカを摂取したことで精神病院に入院。衝動的な自己破壊の脆弱性をかかえ、スザンナの心は揺れ動く。 しかし病院で出会った女性入院患者たちとふれあうことで彼女は自分自身を取り戻す道の模索をはじめる。
感情はどこからくるのだろうか?神経細胞のニューロン間で信号(刺激)をやりとりするために必要な物質を神経伝達物質と呼ぶ。50種類以上の神経伝達物質が確認されているが、その働きが比較的解っているのは20種にすぎない。精神活動で重要なのはγ-アミノ酪酸(GABA-ギャバ)、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどだ。特にドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンは総称してモノアミン神経伝達物質と呼ばれるが、これらは情動(emotion)に大きく作用すると同時に脳内の多数の部分に大きな影響を及ぼす。
人を含めた動物は、何らかの刺激を受けるとまず大脳でその刺激を解析し、その信号は海馬に送られる。信号はさらに海馬から「パペッツの回路」と呼ばれる各部位をめぐる流れに乗り、そこで感情が生まれる。生まれた感情はふたたび大脳に取りこまれ長期記憶になる。
感情はモノアミン伝達物質の組成から成り立つ。悲しいけど、つらいけど、楽しくないけど、神秘的じゃないけど、それが事実。
脳内麻薬様物質(オピオイド)は交感神経系の興奮によって、GABA神経系から分泌されるエンケファリン、β-エンドルフィンなどを指す。これらはモルヒネなどの麻薬に極めて近い構造を持つ。オピオイドの大量分泌により、精神活動の麻痺や感情鈍麻といった状態に入る。これは、闘争も回避もできない深刻なストレスにさらされた動物(感情を持つもの)に、最期の救いをもたらす。精神活動の麻痺や感情鈍麻が起こり、現実感のなさが例えば死の恐怖から動物を救う。
長期間反復的に回避不能のストレスにさらされた動物(感情を持つもの)は、脳内オピオイド受容体の感受性が上昇する。そしてそのストレスが急になくなれば禁断症状を引き起こす。そのため、オピオイド受容体の感受性が上昇した生物は、自分で自分の命を危険に晒したり、リストカット(リスカ)など自分の身体や心を痛めつける強烈なストレスなくしては生きていけなくなる。
映画では、その治療として自分の体験、感情を思うままに書き綴ったり、絵として表現する方法エモーショナル・リテラシーが出てくる。自分の閉ざされた感情を再認識するだけでなく、感情の発散の仕方を学ぶことで脳内オピオイド受容体の感受性を低下させていくことができるらしい。
看護婦のヴァレリーがスザンナに、病気と立ち向かう方法を話すセリフ。
Susanna: How the hell am I supposed to recover when I don't even understand my disease?
Valerie: But you do understand it. You spoke very clearly about it a second ago. But I think what you've got to do is put it down.
Put it away. Put it in your notebook. But get it out of yourself. Away, so you can't curl up with it anymore.
スザンナ: 自分で理解できない病気が回復すると思う?
ヴァレリー: 理解してるでしょ。今はっきりと口にした。それを書き留めなさい。あなたのノートに吐き出すの。そうすれば立ち向かえる。
最後に、どうしても書きたいこと。ぼくのブログへ訪れてくれた若い人たちへ。
「私は、あなたがひどく落ち込むたびに血の涙を流しました。私は、もう痛いのはヤです。これ以上私を切らないでください。お願いです、私をもっと大切にしてください。私だって生きたいんです。どうか私を見捨てないで下さい。もっとあなたに愛されたいんです。私は、あなたの手首です。」