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tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

ジンジャー・クッキー、いかがすかあ?(2)

2007-12-18 20:23:21 | プチ放浪 都会編

「ジンジャー・クッキー、いかがすかあ?」
ケーキ屋の前に座った私は、ひたすら道行く人に声を掛けた。
通りの街路樹はオレンジ色のイルミネーションに彩られ、どこからともなく流れるお決まりのクリスマス・ソング。プレゼントの紙袋を手に家路を急ぐサラリーマンやOL。毛糸のぼうしをかぶり、マフラーでぐるぐる巻きになった子供達が、目をキラキラ輝かせながら必死にお母さんやお父さんに話しかけている。そして・・・・・仲良さそうに寄り添うカップル。それぞれが過ごすそれぞれのクリスマスイブ。
こうして一人でクリスマスイブにケーキ屋でバイトしてると思うと、自分がえらく年食っちゃったみたいに思えてくる。

今年のイブも私一人で過ごすことになってしまった。まったく誘いがなかったわけじゃない。でも、イブを行きつけのカフェバーのクリスマス・パーティで過ごすなんてのは耐えられなかった。だから、こうしてケーキ屋のバイトしてる。クリスマスの日に仕事を入れたがる人なんてまずいない。そんなわけで、こんな特別な日だからこそ仕事はすぐに見つかった。駅の近くのケーキ屋。つまりこの店に。
ちょっとかじかんできた手を息で暖め、空を見上げた。ビルの影に切り取られた漆黒の空。黒く低い雲に覆われていた。予報は夜半から雪。思い出したら途端に寒さが強くなってきたように感じる。風が弱いのが救いだ。それに、着ているサンタの服が思っていたよりもあったかいから、耐えられないほどでもない。
なによりも、ここは賑やかだから・・・・・・。ネオンは輝いているし、ひっきりなしに流れてくるクリスマス・ソング・メドレー。誰も待っていない部屋には帰るよりはまし。
とはいえもうすぐ時間だ。バイトの時間は閉店まで。後30分ぐらいで終わってしまう。
ちらちらと雪が降り始めていた。予報通りになってきちゃった。それにしても、ホワイト・クリスマスかぁ。これで恋人でもいればいい雰囲気になれそうだけど・・・・・・。

店内にいる店長からお呼びがかかった。
「雪も降ってきたし、もうあがっていいぞ」
そう。今は傘が手放せないぐらいの降り方になっていた。
「お疲れ様。これ、バイト代ね」
手渡された封筒。中には今日のバイト代。
「・・・・・・申し訳ないんだけど。帰るついでに、すぐ近くへ配達をお願いできないかな?」
ショートケーキの詰め合わせを配達しなきゃならないところがあるらしい。どうせ部屋に帰っても誰もいないんだ。ちょっと回り道するのもいいか。
バイトのお礼にと手渡れたケーキと、それから配達のショートケーキを持って店を出た。
とぼとぼと配達先をめざす。・・・・・・しかし、本当にこんなところに配達させるんだ。
駅の改札口。駅舎の中は師走の喧騒中にも華やいで、行きかう人の群れは足早に家路を急いでいた。

「あのぉ。ケーキの配達、頼んだのオレ。エヘッ」
「・・・・・・え?」
声を掛けてきたのは、1時間前に店頭でジンジャー・クッキーを売っていたときにナンパしてきた軽薄そうな若者だった。
「せっかくのホワイトクリスマスなんだから、ちょっとだけお茶でもしようよォ」
「・・・・・・」
「綺麗だぜ。外で見る雪。ネオンの光に反射して」
外を眺めると、きらきら きらきら 輝いている。光輝くネオンと、その光を際立たすように降る雪。本当に綺麗だった。
軽薄そうな若者。見た目が酷くて、性格もウザくて、おまけにストーカーみたいな真似をして。いつもなら、汚らわしそうににらんで、「うぜえんだよ!」と吐き捨てるところだ。でも、今夜ぐらいは少しだけ微笑んで、そして「断る!」と返事をしてあげようと思った。恵まれない子に笑顔のクリスマス・プレゼントを。

来生たかお - Goodbye Day

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