彦四郎の中国生活

中国滞在記

蓮と睡蓮の季節―中国の花言葉"花十友"では蓮は「浄友」

2019-06-06 11:43:04 | 滞在記

  日本ではすでに沖縄や南九州が梅雨入りしているが、本州の多くも もうすぐ梅雨入りだろうか。梅雨前線が少しずつ北上していき、中国では上海あたりから日本の紀伊半島近くまで前線が伸びている。日本では紫陽花(アジサイ)が色づきはじめる季節が到来かな。福建省の福州でもアジサイが咲く場所もあるが、日本のアジサイの風情には遠くおよばない。日本のインターネット記事を見ていたら、自宅からほど近い三川合流地区(桂川・宇治川・木津川が合流して淀川となる)の河川敷の竹やぶや草むらで、「ヒメボタル」が乱舞しているという記事があった。なんでも、そのあたりは西日本最大級のヒメボタルの生息地とのこと。

 亜熱帯福州の街路樹として、5月中旬頃から開花し始めた淡い藍色の「藍花」。この花は日本にはなく、亜熱帯の地方にとても相応しい風情のある樹木花だと思う。5月下旬には満開となり、路上に散り始めた。この樹木の花が散ってしまうと、福州にも本格的な夏が訪れ始めるが、今はまだ高温多湿の雨がよく降る。アジサイも藍花も淡い藍色だからこそ、暑い季節の始まりに人々は安らぎを感じるのだろうか。

 睡蓮と蓮の季節を迎えた福州。蓮や睡蓮は中国では日本以上に多いように思われる。そして漢詩にも詠まれる。

 青荷盖緑水 芙蓉披紅鮮 下有並根藕 上有頭並蓮       (五言絶句) <青渡>   ※「藕」はレンコンのこと。

  荷葉五寸荷花嬌 貼波不碍画船揺 相到薫風四五月 也能遮却美人腰  (七言絶句) <荷花> ※「荷花」は蓮花のこと。

 6月に入り、大学構内の水郷にある蓮や睡蓮の花の蕾が次々と開花し始めてきた。また、5月下旬に初めて蓮や睡蓮の浮かぶ水辺のあたりをトンボが回遊しているのを見た。トンボの種類は3種類で、赤とんぼのようなものやシオカラトンボのようなものなど。やはり、日本の京都などに比べると季節の推移が1か月半ほど早い。

 蓮の花が美しい。研究室のある建物から授業を行う教学楼に行く途中にこの蓮池があるが、思わずしばらく立ち止まってしまう。中国人はさまざまな花の「花言葉」を古来からよく作ってきた。生け花はほとんどしないが、「花を愛でる」文化は古代より久しい。宋の時代の曾端と明代の都卯は、花を友人に喩えたことで知られる。「花十友」は次の通り。

 蘭➡芳友、梅➡清友、茉莉(ジャスミン)➡雅友、蠟梅(ろうばい)➡奇友、梔子(くちなし)➡禅友、菊➡佳友、桂花(きんもくせい)➡仙友、海棠(かいどう)➡名友、芍薬(しゃくやく)➡艶友、そして蓮➡浄友となっている。

 蓮が多い水辺の近くには芸術系学部の建物がある。建物ホールには6月に卒業する学生たちの作品が展示されていた。最近、大学の水郷の水が浄化された。これは半年間あまりをかけて広い大学の水郷クリークの水をほとんど抜いて、水草を植えて、浄化装置を全域に設置、そして再び水を入れて「水生生態平衡再造」というものを実施したからだ。

 中国のインターネツトを見ていたら、「日本80後画一幅落水美女、遠看太庸俗、近看却震撼人心!」(日本の1980年代生まれの画家―水も滴る美女、遠くから見ると普通の写真だが、近くから見ると心が震撼し震える)という記事があった。写真も載せられていたが、写真と思ったものは、近くからよく見ると実は油絵だった。油絵での写実の極みというか、ここまで描けるものなのかという震撼だ。

 この日本人画家は、三重野慶という名前のようだ。個展があればぜひ見てみたいと思った。

 

 

 

 

 

 


日本のTV❷―珠玉の作品、「京杭大運河」「白い巨塔」「街道をゆく」「四度目の女房」「タクシー運転手」

2019-06-05 23:13:43 | 滞在記

◆前号のブログで、途中で記事が途切れてしまいましたので、以下に記事を続けておきます。➡そのドラマの一つ「如懿伝(にょいでん)―紫禁城に散る宿命の王妃」は、5月下旬から毎週土曜日の午前中に、BS「WOWOWプライム」で放送されていてる。中国版「大奥」で、中国ではかなり高い視聴率(テレビ放映)を記録した。

 7月からは同じ放送局で中国王朝ドラマ「宮廷の諍い女」が放送される予定だ。一般に中国のドラマは45分~60分/回が25回以上あるのが普通で、50回というのも珍しくない。歴史ドラマとなると、50回以上が普通で、上記の2つのドラマの場合70回ほどとなっている。

 ぜひに見たかった番組だったが、日本帰国中の2019年2月4日に放送された番組だったので見ることができなかった。京都の自宅のテレビではBSテレ東(BSジャパン)が受信できないからだった。番組名は、日中共同制作中国大紀行「京杭大運河〜王宮に繋がる水の路1794キロを行く」。待ちかねたこのドキュメンタリー番組の再放送が5月26日にあり、2時間をくいいるように視聴した。旅のナビゲーターは俳優の田辺誠一。

 中国の歴史を理解するうえで欠かすことができないのが、華北の北京と華中の浙江省杭州を南北に結ぶ世界最大の大運河「京杭大運河」である。小野妹子が遣隋使として中国に渡った隋の時代に誕生して1400年を経っても尚、世界最大を誇る大運河。杭州から揚子江と黄河という二大大河ともつながり、古代中国の都・長安(西安)や中世近代中国の都・北京王宮(紫禁城)へとつながる水の道をたどり辿りながら、運河の都でもある「杭州・蘇州・揚州・聊州・北京」という街を巡る番組だった。とても優れたドキュメンタリー。

 山崎豊子原作の「白い巨塔」は、いままでに 主役の財前教授役に田宮二郎や唐沢寿明のなど、何度もドラマ化や映画化がされた作品だ。5月22日から26日まで5夜連続でこのドラマ(TV朝日開局60周年記念)が放映された。今回の主役は岡田准一。友人の里見医師役に松山ケンイチ。財前の愛人役に沢尻エリカ。小林薫などの俳優たちが脇をかためる。見応えのあるドラマだった。

 司馬遼太郎の『街道をゆく』シリーズはとても優れた歴史・地域紀行文だ。これほど優れた日本人の紀行文は他にないように思っている。これを映像化したテレビ番組「街道をゆく」が、CS・時代劇専用チャンネルで5月28日から始まった。放送時間は日本時間午前6時(中国時間5時)からの45分間。

 2回目は「モンゴル紀行」だった。モンゴルのゴビ砂漠や草原地域などに、1996年から2002年の間に都合5回にわたり日蒙共同恐竜化石発掘調査隊の一員として行ったことがあった。2002年8月には最もゴビ砂漠の奥地に行ったが、中国との国境が近く、敦煌まで200kmの距離の所だった。そこで見た「満天の星空、夜の空を埋め尽くす星々と銀河、15~20秒に1度くらいの割合で降り注ぐ流れ星」は、生涯忘れられない光景である。「街道をゆく」の挿絵を描いている画伯の絵がとてもよい。このドキュメンタリー番組でも「星々」の挿絵が紹介されていた。

 珠玉の作品ともいえるドラマ、6月2日にCS・時代劇専用チャンネルで放映された、鬼平外伝―「四度目の女房」が素晴らしかった。ドラマ「鬼平犯科帳」(池波正太郎原作)の「外伝」シリーズの一作品。親子代々の盗賊の一味である男。大工の腕は確かなもので、大店(おおだな)の仕事に入ると、店の絵図面を作り、属する盗賊団が忍び込むために建物の修理の際に細工を施す。1つの仕事に数年を費やす。周りからの信頼を得るためにも、勧められて何回か結婚をする。江戸で所帯をもった「四度目の女房」の元もある日突然、「おまえのことが きらいになって さるわけではない」と行燈に書き残し、忽然と姿を消す。ひたすら待ち続けるが、さまざまな辛い運命に落ちる女房。

 数年後に男は仕事のために尾張名古屋で「五度目の女房」と所帯をもつが、「四度目の女房」が忘れられない。その後二人を過酷な運命が待っていた。女に会いたい男は掟破りで殺される。男の役の片岡愛之助、女房の役は前田亜希さん?という名前なのだろうか?女房役の女優の演技も素晴らしい。中国人女性には、ハッと驚くような美しい女性も多いが、中国女性の美しさとはまた違う日本的な女性の特徴をこの女房は演じていた。まさに しっとりとした優しさと顔立ちをもつ「ジャパンビューティ」の女性だ。 

 韓国映画「タクシー運転手―約束は海を越えて―」をついに見ることができた。BS・WOWOWシネマのテレビ放映で6月2日に放送されたのだ。この映画の時代背景は1980年で、韓国ソウルと光州を舞台としている実話に基づいた映画。韓国の「天〇門事件」ともいわれるのが1980年におきた「光州事件」だ。多くの市民やが当時の軍事政権によって弾圧・虐殺された事件である。

 この事件を知られないようにするために光州市は外部から封鎖された。当時、この光州にて命がけで事件を取材したドイツ人ジャーナリストと彼を乗せて光州を共に脱出した韓国人タクシー運転手の実話の物語。このドイツ人記者によってこの事件は写真や動画とともに世界中に発信された。軍事政権下のもとでありながらも韓国の経済成長を成し遂げ、当時の大統領(選挙で選ばれたわけではない)だった朴正煕(パクセイキ)が暗殺された。彼は、前韓国大統領・朴キネ(女性)の父でもあった。

 この暗殺事件後、軍事クーデターによって韓国の全権を掌握したのが全斗煥将軍だった。(その後大統領に就任)  この動きに韓国全土で民主化を求める運動がおこった。それに対する弾圧・大虐殺事件が光州事件。この事件から7年後の1987年に、ついに韓国は選挙によって大統領を選出するという民主化がようやく実現することとなった。

 この「タクシー運転手」は、昨年に日本では初上映され、優れた映画と評判になっていたが、見る機会を逃してしまっていた。テレビ放映を通じて見たが、とても面白くとても優れた映画だった。韓国で大ヒットしたわけだ。6月7日(金)にも、日本のCS・wOWOWプライムで日本時間午前4時10分から再放送がされる予定だ。

※5月中旬頃から6月上旬までの、心に残る優れた日本のTV番組について2回シリーズで記した。地上波テレビ局よりもBS局などの方が優れた良質の番組を放映しているのが最近の日本の傾向だ。他に優れた番組も多い。例えば、地上波の「ポツンと一軒家(TV朝日)」や「こんなところに日本人(TV東京系)」などなど。NHK大河ドラマ「いだてん」を久しぶりに先日見てみたが、やはりレベルの低いドラマに変わりなかった。見て疲れるだけのドラマだった。脚本家の宮藤官九郎は人を丁寧に描けていないのだ。良質な優れたドラマや映画は人が丁寧に描かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 


日本のTV❶—「おしん」小林綾子ロス、そして田中裕子へ―日中共同制作「蒼穹の昴」と田中裕子

2019-06-04 22:21:28 | 滞在記

 2013年9月に中国に初めて赴任した頃、赴任生活期間の目標は3年から最長でも5年間だった。それが今、6年間が経過し9月からは7年目に入ろうとしている。2015年の11月頃に、ある一人の学生が「先生、日本のテレビ放送がリアルタイムで視聴できるようにしてあげますよ」とアパートに来てくれて、パソコンを操作。なんと 日本の「地上波」だけでなく「BS」「CS」など、およそ25ほどのテレビ局の放映をリアルタイムで視聴できることになった。孤独と寂しさをしみじみと味わうことも多い中国生活での「生活大革命」だった。もし、このことがなく、日本のテレビ視聴ができていなければ、もうとっくに中国生活を終えて日本に引き揚げているだろう。

 2019年4月からNHK・BSプレミアムで午前7:15から「1983年頃に1年間放映された、連続テレビ小説(朝ドラ"おしん")」リバイバル放送がされている。私にとっては初めて視聴するドラマだった。第一部で主人公の"おしん"の少女時代を演じたのは小林綾子。第一部は5月11日に終了した。そして、少女時代の小林綾子を見ることができなくなった。けなげで可愛らしい「小林綾子"おしん"LOSE"[ロス]」に、ちょっとさみしい思いを味わった。橋田寿賀子脚本の見事なドラマだった。明治・大正の時代背景も実によく描かれていた。農村での「地主と小作との関係、小作人生活の状況と農民問題、社会の矛盾」、そして与謝野晶子の詞「君 死にたもうこと なかれ」や中村雅俊演じる脱走兵など。母親や父親を演じる泉ピン子や伊東四朗、そして祖母役の演技も秀逸だった。

 5月13日から始まった第二部。"おしん"は田中裕子が演じることとなった。やはり、小林綾子ロスが尾を引いている。しかし、橋田寿賀子の脚本は やはりすごかった。物語は一回一回の放映が見逃せないほどに展開していく。大学の仕事への出勤の関係で視聴できない曜日もあるが、私の中国生活では「録画」ができないのが残念だ。"おしん奉公先"の大女将のおばあさん役の演技が秀逸。なつかしい渡瀬恒彦も「労働者問題」に心を砕き全国を巡る"アカ運動家"として"おしん"と出会う。"おしん"が初めて好きになった男だ。なぜその男に惹かれていったのかが丁寧に描かれる。

 女工として長年の長時間労働のため"当時は死の病だった結核"になり、納屋で死を迎えていく姉の。この場面は、まさに東北の「女工哀史」を説得力ある脚本で描かれている。そして、死にゆく姉のアドバイス(女が経済的に自立すること)で、髪結いになることを決意して東京に行く"おしん"。まあ、だんだん田中裕子"おしん"も受け入れている。

 この田中裕子は、年月を経てその後、中日共同制作の中国ドラマ「蒼穹の昴」(そうきゅうのスバル)のメインキャストである"西太后(せいたいごう)"として出演している。全24話のドラマだが、これは日本でも中国でもテレビドラマとして放映され、中国では高い視聴率を得た作品となった。原作は浅田次郎。彼の「近代中国シリーズ」の一つが「蒼穹の昴」。浅田次郎の30冊あまりの「中国近代史関連の小説」はすべて読んだ。私の近代中国史把握は浅田次郎の著作によって、その具体的イメージをかなりもつことができた。

 このテレビドラマ「蒼穹の昴」が5月10日よりBS日テレで午前10時から再放送されている。以前からDVDを買ってでも一度見て見たかったドラマだった。仕事の関係で週に2〜3回分しか視聴できないが、原作を読んでいるので まあまあ その展開にはついていけている。5月中旬からは、時差が一時間ある中国時間(日本より1時間遅い―日本が6時なら中国は5時)で、ほぼ毎日、ドラマを通じて田中裕子を見ている。

 5月上旬に日本に10日間あまり帰国する際に、閩江大学の中国人同僚(女性)から「寺坂先生、日本に帰国したら中国のテレビドラマのDVD[日本語版]を購入してきてもらえませんか」と依頼されたものがあった。そのドラマは、中国で空前の視聴率を記録した中国宮廷ドラマだった。そのドラマの一つ「如懿伝(にょいでん)—紫禁城に散る宿命の王妃」は、5月下旬から、毎週土曜日の午前中に

 

 


腐肉給食事件の顛末と、日本に帰化し選挙に出た中国人の「民主主義」に対する思いと6月

2019-06-03 08:15:05 | 滞在記

◆前号のブログの冒頭に「2019年5月19日、」と書きましたが、「2019年5月15日、」の誤りでした。訂正いたします。

 今日は2019年6月3日、あと2日で24節季の「芒種(ぼうしゅ)」(雑穀の種まきの時期。梅雨め。)」。そしてあと1日で 中国で「中国の運命を左右した歴史的大事件」が起きて30年が経過することとなる。そして、それは現代中国において「最大のタブー」とされ、多くの中国国民はその歴史的事実を知らされることもない。まさに、政治権力によって「闇に葬られた歴史的出来事」となっており、今日 その日の日付さえ口にすることさえ「タブー」となっている。中国の大学生たちの多くも、この事件を知らない。

 30周年を前にして、アメリカ政府がこの事件について中国政府を最近は強く批判していることもあり、1か月前あたりから中国政府は「この事件に関する厳戒」をひいており、もちろんブログなどでそのことに触れるのも危険だ。その日が近くなり、中国の鉄道列車番号で「D〇9〇4号」という列車の運休が急きょ決定したとも伝えられる。

 中国北京の特派員として家族と共に赴任していたNHK特派員が、昨日のNHK番組「これでわかった 世界の今」に解説者として出演していて、「私の小学6年生の娘が 北京にある日本人学校に行っていて、最近、北京の"〇〇門広場"周辺に遠足に行きました。引率していた担任の日本人教員は、児童の先頭にたち"学年と組"を表す「6-〇」というプラカードを掲げていたら、公安警備にしよっぴかれて取り調べを受けました。解放されるのに時間がかかったため、クラスの集合写真には間に合わなかったということがありました。」と語っていた。

 最近の中国の状況から考えて、この事件に関するブログ記事を中国国内で書くことは危険だ。だが「民主主義」というものが必要なのかどうか!?を考えるひとつとして次の中国と日本での できごとのことを記したい。

 日本のテレビの報道番組で「学校給食で"カビ食材"」というニュースが伝えられたのは3月中旬だった。報道によると、学校の給食で使われていたのは、カビだらけの食材。中国四川省成都市の小中一貫校で、抗議する保護者たち。そして、警察が来て、保護者12人が逮捕拘束されるといった記事だった。問題となった学校は、四川省の省都・成都市の市直轄の第七実験中学小学校。全寮制のため(週末には自宅に帰る人が多い)、食事は3食とも給食となっていたようだった。

 テレビ報道で「カビだらけ食材に保護者怒り!—食の安全強化のはずが」「私たちの子供は、5・6年間もこんなものを食べていたんだ!」「私の娘はこの前 学校で吐いたのよ!うちの母が連れて帰ったの。何度も吐いたの!」「今月12日、中学校食堂で保護者が腐った食材を発見」「ネットで拡散」「警察が出動、一部の保護者が殴られもした、一体どうゆうこと!」「今必要なのは謝罪だ!」「当局はこのネットを即削除、なぜ削除」「一時保護者12人連行される」などのテレップが流されていた。また、その報道では、「お粥の中にたくさん腐った肉が入っていた。ゾンビ肉だよ、食べたい?」という生徒の映像と話もテレップで流されていた。

 事件の発端は3月12日に中国のSNS「微博」に投稿されたカビの生えた食材の写真とコメントだった。コメントには「成都市の直轄学校だろう。成都市は学校の食材を調べてくれ」「前学期から子供たちは不調を訴えていたのに学校は改善してくれなかった」などと書かれていた。このSNSは保護者たちに広まり、多くの保護者が集まり抗議行動となっていった。投稿されたSNSは当局から即座に削除されたようだが。

 そして、市や政府判断により駆けつけた警察隊は唐辛子スプレーでデモを鎮圧した。抗議を行っていた保護者のうちの12人が逮捕拘束される事態となったが、その後 長期勾留とはならず解放されたのかと思う。この事件は、中国では当初は全くインターネット記事でも報道されなかった。もちろんテレビ報道も。

 しかしその後、このSNSでの告発は「フェイクニュース」であり、デマを拡散した容疑者を逮捕したとして、初めて当局は報道各局に報道を行わせた。そしてこの事件は「フェイクニュースにだまされた保護者たち」という印象操作を当局が行って幕引きがおこなわれたようだ。多く保護者たちは、「デマ犯の自供は、警察権力の厳しい尋問などにより、あの手この手で嘘の自供をさせたもの」と思っているとも伝えられていた。

 この学校は、2003年に「冠城集団(グループ)」の出資によって創立された私立学校で、年間学費はかなり高額で、小中一貫のエリート学校とされる。この集団と成都市共産党委員会は利害関係があり、学校側と市側が共謀して事実隠蔽や「フェイニュース捏造」をしているのではないかとの疑いは消えないようだ。

 日本のテレビ報道番組ではこの事件について、「3月5日から開催の中国全国人民代表者会」「李克強首相—食品・医薬品の安全監督管理を強化と報告」「(全人代の)期間中に食品の安全に関わる問題がクローズアップされることを防ぐ」「そうすると特に全人代とかあるいは党の大きな会議の期間中は」などのテレップ。報道では、笹川平和財団の小原凡司上席研究員が、「中国では政府の権威を失墜されることになりかねない"社会問題化しそうな問題"はすぐに当局によって削除される」とコメントしていた。

 このような社会問題が起きた場合、新聞社やテレビ報道局などの報道機関は「社会の木鐸(ぼくたく)」としての機能を果たすべきものだが、中国ではほぼ100%「木鐸」機能はなく、あらゆることが政府への「許可」「忖度(そんたく)」を求められていてる。また、2015年には人権派弁護士300人に上る拘束事件がおき、弁護士資格剥奪処置なども行われた中国。このような社会問題にかかわろうとする弁護士も限りなく少なくなった。

 私がこの6年間で教えた実数1000人あまりの学生たちは、「選挙」というものの経験は皆無だ。大学の学級委員の選挙もなく、学級委員は大学側から指名される。いわゆる選挙などにより「社会や身近な場所におけるさまざまなことに、意志や思いを表現する方法としての選挙権という概念」すら学生には育っていない中国。

「民主主義」といういうものは必要なのだろう!?「民主主義」、国民による選挙によって指導者を選ぶ大統領制」や「議院内閣制」は人々の生活にとって必要なのだろうか!? 中国のような「一党支配」の方が国の方針の一貫性や国の発展のためには有効なのではないかと考えさせられることも多い昨今の世界。EU離脱を巡るイギリス政治の長期混乱、ヨーロッパでのポピュリズム政党の台頭、衆愚政治ともいえる状況が「民主主義政治国家」では頻発している。このような「民主主義政治」の国々の政治的混乱状況は、中国のテレビ報道では頻繁に繰り返し報道されている。しかし、‥‥‥。

 2019年4月12日付の日本のインターネット記事に「元中国人・李小牧さんは日本の民主主義に夢を見る―歌舞伎町案内人が2度目の選挙に挑む理由」と題された記事があった。その記事の概要は次のようだった。

 李小牧さんは、幼いころからバレーダンサーとして頭角を現したが、父親の政治活動が批判対象となり、名門ダンサーの登龍門「北京舞踏学院」への入学・入団が立ち消えになるなど、共産党政治に翻弄される人生を歩んできた。

 当時の最先端のファッションなどを学ぶために1988年に留学生として来日した李さん。片言の日本語でなんとか見つけたアルバイトが、東京新宿歌舞伎町のラブホテルの清掃だった。ここから歌舞伎町とのつながりが生まれる。テッシュ配りのバイトのかたわら、中華圏の観光客にストリップ劇場や「夜の店」などを案内する仕事も始めた。李さんが案内するのは、自腹をきって「ぼったくり」がないことを確認した店。その後 多くの観光客から優良ガイドと認められ「歌舞伎町案内人」の地位を確立した人で、新宿では有名な中国人となった。

 年月を経て、歌舞伎町での食堂(レストラン)の開業にこぎつけるなど、日本で安定した生活基盤を築き、胸に湧きあがったのは、一党支配の中国にはない「民主主義」への憧れだった。「中国では選挙なんてなかったです。やはり投票をしたいですし、選挙に出てみたかったんです。歌舞伎町案内人として、風俗や歓楽街の街で働いていた人間が政治の道を志せるのは何よりも素晴らしいこと。人口14億人の"選挙のない国"へのメッセージを送ることにもなります」と李さんは語る。

 李さんは2015年2月に、祖国・中国から日本に帰化。名前は李小牧(リ・シャオム)から李小牧(り・こまき)に変えた。2カ月後の統一地方選、新宿区議会議員選挙にチャレンジした。1018票を獲得したが、当選ラインには400票ほど届かず落選した。あれから4年、この春、李さんは再び民主主義のステージに立つ。新宿区議選に2度目の立候補をすることを決めたのだ。この区議選は4月14日告示、21日に投開票される。

 「元中国人」が民主主義に参加することが、ひとつのメッセージになると考えている李さんだ。

 ※記事の概要はこのような内容だった。2015年の9月から、中国国内では「Yahoo Japan!」の「検索機能」がブロック(閉鎖)されて使えなくなった。最近では、世界的な検索会社「ウッディベキア」の検索も中国ではブロックされた。このため、李さんの選挙結果がどうなったのかを中国で調べることができず、私は結果をまだ知らない。当選していればいいのだがと思う。

 「民主主義」とは人間生活にとって重要なものなのかどうか?いろいろな考えはあるだろう。「腐肉給食事件の顛末」と「区議選に立候補した李さんのこと」は、中国という国の現在について色々なことを考えさせられる出来事であり、また 一人の人である。

 

 

 

 


中国・北京で「アジア文明対話大会」が初開催された❷—「"米国の言う文明の衝突"などない」と習主席

2019-06-01 14:33:53 | 滞在記

 2019年5月19日、中国・北京で「アジア文明対話大会(亚洲文明对话大会)Conference on Dialogue of Asia Civilisations」が開会された。この大会は今回が初めての開催となる。「一帯一路」において新たな世界経済圏の中心となることを目指し 、この「文明対話大会」において、欧米文明・文化に対峙するものとしての中国を中心とした「アジア文明・文化」の存在について世界にアピールする狙いがある。世界各国から代表ら2000人が参加した。アジア諸国(中央アジア含む)だけでなく、一帯一路(陸と海)に関連するヨーロッパのギリシャなどの代表も参加している。

 この大会について日本のテレビでも報道がされていて、報道画面には「中国が文明大会、初開催」「習近平氏提唱、貿易戦争が続く中、アメリカを牽制か」「"中国"アジア文化交流を促進する名目で新たに立ち上げ」などのテレップが流れていた。

 大会では習近平国家主席のスピーチ講演が行われ、どのような発言をするかに世界の注目が集まった。「国際交流を強化することによってアジア運命共同体の構築、ないし、全人類の運命共同体の構築を目指していくべきです。今の中国は、中国のものだけでなく、アジアの中国、世界の中国でもあります。中国が経済や文化で世界をつなげる重要なポジションにいます。」と述べた。また、「自らの人種や文明・文化が優れていると考え、他の文明を変えたり、あるいは置き換えることを主張することはばかげた愚かな考えで、悲惨な結果を招く行動だ。」とも述べている。

 これは、米国国務省の政策立案局長:キロン・スキナー氏が4月に行われた安全保障関連のフォーラムで、米中間の競争を「全く異なる文明同士の、異なるイデオロギーの戦いだ。中国は米国にとっての初めての非白人大国の競争相手だ」との発言に反応したものと言われている。「異なる文明の衝突など起きていない。われわれはすべての文明に美を見いだす目を養う必要があるだけだ」と習近平は付け加えた。「一帯一路」の大経済圏構想に続いて、中国が新たに、「文明・文化」構想を立ち上げたことの意味は大きい。「経済・軍事・文明・文化」は、世界覇権を握るための全ての必要条件となる。中国共産党チャイナセブンの一人で、壮大な「一帯一路」構想の立案者である王滬寧(おう・こねい)[ワン・フーニン]氏がこのアジア文明対話大会に習近平主席とともに参加していたが、彼がこの文明大会の立案者ではないかと 私は推測する。

 この大会は、中国国内のテレビ・新聞・雑誌や携帯電話でのインターネット記事としても大きく報道されていた。

 閩江大学に何箇所かある大型スクリーンでも、5月20日ころから連日、繰り返し繰り返し「文明対話大会」についての報道番組が放映され続けていた。番組の内容は15分間ぐらいで、最初から最後までつい見てしまうような構成がされている。大会の全体の様子や習近平主席のスピーチ講演だけの構成ならば、立ち止まらずに行ってしまう人が多いだろう。しかし、実によくできているので最後までつい見てしまう。

 アジアや世界のいままでの文明や歴史を映像に流しながら現代にいたる。この歴史パノラマの映像とともに習近平氏のスピーチが音声として流されていく。知らずのうちに習氏のスピーチ音声が耳に入ってくる。近年、このような構成をした映像がよく作成され映像として流されているが、見事と思う。

 アジア文明対話大会の開会・閉会式でのレセプションが、おそらく2008年北京オリンピックの開閉会式が行われた北京市の「鳥の巣スタジアム」で行われたと思える映像が流される。その規模の大きさや壮大さ、華麗さ、文明的な数々のショー。映像を見ていると、そこに参加していた2000人をこえる人々が羨ましくもなってしまう。そして、「中国すごいぞ!」という、多くの人が国に対する誇りと中国人であることに誇りを感じたりもするだろう。

 中国にある2800余りの大学の中でそれなりの規模をもつ総合大学には「马克思主义学院」というものがある。「マルクス主義学院」という意味で、日本語訳では「マルクス主義学部」のことである。中国の大学生は1回生から4回生の前期までの7回ある学期の中で、それぞれ1冊ずつの「社会主義理論や中国共産党歴史や習近平による社会主義理論」などをまなぶことは「必修」である。上記の写真の教科書は、閩江大学の外国語学部の学生が授業で使う1冊。『マルクス主義基本原理概論』で、社会主義思想に関するざっとした概論。大学院の入学試験においては、どんな専門にもかかわらず、この「社会主義理論」に関する試験の配点がけっこう大きいのが中国大学院入試の特徴でもある。

 「学習強国(シャエシーチァングオ)」という中国アプリがある。中国共産党のプロパガンダ機関である中央宣伝部が今年はじめにリリースした政治教育アプリで、習近平国家主席の発言や思想、政策情報などの政治ニュースが毎日発信される。政治だけでなく、経済や地方に関するニュースからサイエンス分野や新作映画の紹介など、多種多様だ。政治に関するクイズもあり、正解するとポイントがたまり、「人物評価」も上がるというアプリ。

 「学習強国」という名前は、昨年末に習主席が「学習の姿勢を尊重し、学習を強化すべき」と発言したことに由来する。「学習」の2文字には、「"習"主席に"学"ぶ」という意味も隠されていると言われている。アプリは中国共産党中央宣伝部とIT情報産業の雄・馬雲氏の「アリババ」が共同開発したもので、現在の登録ユーザー数は1億人をはるかに超えているようだ。なにせ、中国共産党員が9000万人で中国共産党青年同盟員(共青団)が8000万人、合計1億7000万人(ダブっている人もおいるので、実数は1億4000万人くらいかと思う。)中国人口14億人の中、18歳以上の大人(中国)が10億人いるとしても、そのうち7人に1人が中国共産党員又は準党員という国なのである。

 2010年頃までは、インターネットなどのIT情報の発達が、さまざまな欧米や日本などの情報が中国国民に影響を与え、政治の民主化につながるものとの見方が強くもたれていた。しかし、100万人をはるかにこえるといわれる「インターネット監視職員」によって日夜、情報管理がおこなわれ、中国共産党にとって不都合な情報は「水も漏らさぬ」管理によって遮断されている。まさに、現代版「情報統制・万里の長城」である。こんななか、近年、中国のエリートや若者に「習近平主席にほれ込む空気」もあるように 私は感じている。とにかく、いまや世界一のIT国家とも言われるようになってきた中国では、ITを感心するほど上手に中国共産党・習近平支持につなげている。

 ※上記の写真は、5月に入り、さかんに発信されている「反米キャンペーン」の一環(前号のブログ参照)となっている「朝鮮戦争」に関するもの。携帯電話のアプリを開くと、どのアプリにも これが自動的に出てきて簡単に見ることができる。