2019年5月19日、中国・北京で「アジア文明対話大会(亚洲文明对话大会)Conference on Dialogue of Asia Civilisations」が開会された。この大会は今回が初めての開催となる。「一帯一路」において新たな世界経済圏の中心となることを目指し 、この「文明対話大会」において、欧米文明・文化に対峙するものとしての中国を中心とした「アジア文明・文化」の存在について世界にアピールする狙いがある。世界各国から代表ら2000人が参加した。アジア諸国(中央アジア含む)だけでなく、一帯一路(陸と海)に関連するヨーロッパのギリシャなどの代表も参加している。
この大会について日本のテレビでも報道がされていて、報道画面には「中国が文明大会、初開催」「習近平氏提唱、貿易戦争が続く中、アメリカを牽制か」「"中国"アジア文化交流を促進する名目で新たに立ち上げ」などのテレップが流れていた。
大会では習近平国家主席のスピーチ講演が行われ、どのような発言をするかに世界の注目が集まった。「国際交流を強化することによってアジア運命共同体の構築、ないし、全人類の運命共同体の構築を目指していくべきです。今の中国は、中国のものだけでなく、アジアの中国、世界の中国でもあります。中国が経済や文化で世界をつなげる重要なポジションにいます。」と述べた。また、「自らの人種や文明・文化が優れていると考え、他の文明を変えたり、あるいは置き換えることを主張することはばかげた愚かな考えで、悲惨な結果を招く行動だ。」とも述べている。
これは、米国国務省の政策立案局長:キロン・スキナー氏が4月に行われた安全保障関連のフォーラムで、米中間の競争を「全く異なる文明同士の、異なるイデオロギーの戦いだ。中国は米国にとっての初めての非白人大国の競争相手だ」との発言に反応したものと言われている。「異なる文明の衝突など起きていない。われわれはすべての文明に美を見いだす目を養う必要があるだけだ」と習近平は付け加えた。「一帯一路」の大経済圏構想に続いて、中国が新たに、「文明・文化」構想を立ち上げたことの意味は大きい。「経済・軍事・文明・文化」は、世界覇権を握るための全ての必要条件となる。中国共産党チャイナセブンの一人で、壮大な「一帯一路」構想の立案者である王滬寧(おう・こねい)[ワン・フーニン]氏がこのアジア文明対話大会に習近平主席とともに参加していたが、彼がこの文明大会の立案者ではないかと 私は推測する。
この大会は、中国国内のテレビ・新聞・雑誌や携帯電話でのインターネット記事としても大きく報道されていた。
閩江大学に何箇所かある大型スクリーンでも、5月20日ころから連日、繰り返し繰り返し「文明対話大会」についての報道番組が放映され続けていた。番組の内容は15分間ぐらいで、最初から最後までつい見てしまうような構成がされている。大会の全体の様子や習近平主席のスピーチ講演だけの構成ならば、立ち止まらずに行ってしまう人が多いだろう。しかし、実によくできているので最後までつい見てしまう。
アジアや世界のいままでの文明や歴史を映像に流しながら現代にいたる。この歴史パノラマの映像とともに習近平氏のスピーチが音声として流されていく。知らずのうちに習氏のスピーチ音声が耳に入ってくる。近年、このような構成をした映像がよく作成され映像として流されているが、見事と思う。
アジア文明対話大会の開会・閉会式でのレセプションが、おそらく2008年北京オリンピックの開閉会式が行われた北京市の「鳥の巣スタジアム」で行われたと思える映像が流される。その規模の大きさや壮大さ、華麗さ、文明的な数々のショー。映像を見ていると、そこに参加していた2000人をこえる人々が羨ましくもなってしまう。そして、「中国すごいぞ!」という、多くの人が国に対する誇りと中国人であることに誇りを感じたりもするだろう。
中国にある2800余りの大学の中でそれなりの規模をもつ総合大学には「马克思主义学院」というものがある。「マルクス主義学院」という意味で、日本語訳では「マルクス主義学部」のことである。中国の大学生は1回生から4回生の前期までの7回ある学期の中で、それぞれ1冊ずつの「社会主義理論や中国共産党歴史や習近平による社会主義理論」などをまなぶことは「必修」である。上記の写真の教科書は、閩江大学の外国語学部の学生が授業で使う1冊。『マルクス主義基本原理概論』で、社会主義思想に関するざっとした概論。大学院の入学試験においては、どんな専門にもかかわらず、この「社会主義理論」に関する試験の配点がけっこう大きいのが中国大学院入試の特徴でもある。
「学習強国(シャエシーチァングオ)」という中国アプリがある。中国共産党のプロパガンダ機関である中央宣伝部が今年はじめにリリースした政治教育アプリで、習近平国家主席の発言や思想、政策情報などの政治ニュースが毎日発信される。政治だけでなく、経済や地方に関するニュースからサイエンス分野や新作映画の紹介など、多種多様だ。政治に関するクイズもあり、正解するとポイントがたまり、「人物評価」も上がるというアプリ。
「学習強国」という名前は、昨年末に習主席が「学習の姿勢を尊重し、学習を強化すべき」と発言したことに由来する。「学習」の2文字には、「"習"主席に"学"ぶ」という意味も隠されていると言われている。アプリは中国共産党中央宣伝部とIT情報産業の雄・馬雲氏の「アリババ」が共同開発したもので、現在の登録ユーザー数は1億人をはるかに超えているようだ。なにせ、中国共産党員が9000万人で中国共産党青年同盟員(共青団)が8000万人、合計1億7000万人(ダブっている人もおいるので、実数は1億4000万人くらいかと思う。)中国人口14億人の中、18歳以上の大人(中国)が10億人いるとしても、そのうち7人に1人が中国共産党員又は準党員という国なのである。
2010年頃までは、インターネットなどのIT情報の発達が、さまざまな欧米や日本などの情報が中国国民に影響を与え、政治の民主化につながるものとの見方が強くもたれていた。しかし、100万人をはるかにこえるといわれる「インターネット監視職員」によって日夜、情報管理がおこなわれ、中国共産党にとって不都合な情報は「水も漏らさぬ」管理によって遮断されている。まさに、現代版「情報統制・万里の長城」である。こんななか、近年、中国のエリートや若者に「習近平主席にほれ込む空気」もあるように 私は感じている。とにかく、いまや世界一のIT国家とも言われるようになってきた中国では、ITを感心するほど上手に中国共産党・習近平支持につなげている。
※上記の写真は、5月に入り、さかんに発信されている「反米キャンペーン」の一環(前号のブログ参照)となっている「朝鮮戦争」に関するもの。携帯電話のアプリを開くと、どのアプリにも これが自動的に出てきて簡単に見ることができる。
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